第189話 ラポルカ要塞攻略④
指揮官から準備が調ったと報告があり、既に進軍を開始した最後尾に、アレンを先頭にした5000人のエルフが付いていく。
この5000人は全員2つ星の職業の兵達だ。
残り1600人ほどの2つ星の職業の兵達は、既に出発した行軍の最前列にいる。
歩いてほどなくすると盛り土が見える。これは獣Gの召喚獣がラポルカ要塞への坑道を掘ったためにできた土だ。
とりあえずカモフラージュのためにエルフ軍を守る盛り土にした。
山肌にできた坑道の入り口も岩を置いて塞いであるので、クレナとドゴラがメキメキと岩をどかす。さすがにレベルがカンストした攻撃力のお陰で難なくどかしてくれる。
坑道は2人ずつ入っても十分な広さがある。これはラポルカ要塞内へと続いている。
作戦を聞いたエルフ達から「おおお!」という声が漏れる。そして、ぎりぎりまで作戦を聞かされなかった理由を悟ると共に、自分達の動きでこの攻略戦の結末が変わることに気付く。
指揮官を通して、速やかに今回の作戦が伝えられる。そして、それぞれの役割の割り当てが行われる。
「では、行きましょう。順番を守ってください」
「「「は!!!」」」
アレンは灯りの魔導具を取り出して、坑道の中を先導する。一本道だが、真っ直ぐだと急勾配な足場になるので、若干つづら折り状に進む形になる。当然、通気口もいくつか空けてある。
皆ためらわず坑道の中に入って行く。
「ソフィー、作戦上坑道を空けてしまったけど、この坑道は後で精霊に埋めてもらうことできるか?」
「もちろんです、アレン様。ただ、今後のことも考えて、坑道の始まりと最後を埋めるだけの方がいいかもしれません」
魔王軍が北から攻めるなら、ラポルカ要塞の南門からローゼンヘイムの南側に通じる坑道は今後も有用だと言う。
後ろを見ると、魔導具で灯りを照らす者たちの中に、手から光の玉を出す精霊魔導士がいる。
(力を借りる精霊はランダムなんだっけ)
1つ星の精霊魔法使いや2つ星の精霊魔導士は精霊の力を借りる。
精霊魔法使いは精霊から力を借りる。
それに対し精霊魔導士は大精霊から力を借りる。使える魔法の規模が全く異なるのだ。
ノーマルモードはスキルを6つ覚えることができるのだが、ステータス増加に2つのスキル枠を使ってしまう。
残り4つのスキル枠に、火土風水木雷光闇無時など10種類を超えて存在する精霊から、4属性の精霊が入る形になる。
同じ精霊魔法使いでも、どの4属性かは違うらしい。
ただし火土風水の属性の精霊の確率がとても高いらしく、ソフィーは火土風水だ。
水と木の精霊から力を借りられたら回復魔法が使える。
土と風の精霊から力を借りられたら守り系の魔法が使える。
【名 前】 ソフィアローネ
【年 齢】 49
【職 業】 精霊魔法使い
【レベル】 60
【体 力】 723
【魔 力】 1621+1600
【攻撃力】 598
【耐久力】 657+1000
【素早さ】 844
【知 力】 903+600
【幸 運】 840
【スキル】 精霊〈6〉、火〈6〉、土〈6〉、風〈6〉、水〈6〉、幼精霊〈2〉
【エクストラ】 大精霊顕現
・スキルレベル
【精 霊】 6
【 火 】 6
【 土 】 6
【 風 】 6
【 水 】 6
指輪は魔力+1000、耐久力+1000を装備している。
ローゼンヘイムに来て、精霊魔法や精霊使いに関する話を聞くことが増えたなと思いながら、坑道を進んで行く。
何時間も歩いて、目的地である行き止まりに到着する。
「ここだな」
魔導具の灯りを当てると、行き止まりの壁と天井で色が違う。
この行き止まりは石畳で、これを押してどければラポルカ要塞内だ。
周りの音に意識を集中しなくても、人間よりも大きな何かがバタバタ動く音が聞こえる。
アレンは魚系統の召喚獣のバフをかけ始める。削除と再生成を繰り返し、惜しげもなく覚醒スキルを振りまいていく。
それに合わせて、土や風の精霊の力を借りて、エルフ達も部隊やアレン達に精霊魔法を掛け強化を始める。
「よし、行くぞ。斥候部隊と南門守備隊は俺らと来い」
「「「はい!!!」」」
「外壁占拠部隊はガトルーガについて行ってくれ」
「「「はい!!!」」」
今回のラポルカ要塞攻略には、ローゼンヘイム最強の男である精霊使いガトルーガもいる。いくつかの部隊に分かれて行動するため、外壁に上がり、外壁を占拠する部隊を任せた。
「ああ、任せてくれ」
アレン達と共に先頭に立って穴に入っていたガトルーガも答える。
ガトルーガは、アレンのティアモ攻防戦における働きを目の当たりにして、アレンに対してかなり対応が柔らかくなったようだ。
アレンは魔導具の時計を確認する。
まもなく12時だ。
(時間もぴったりだ)
「定刻だ。じゃあ、行くぞ!」
「「「おおお!!!」」」
掛け声と共に、クレナとドゴラがそれぞれ1枚ずつ石畳を持ち上げ、勢いよくめくり返す。
そして、アレンを先頭に魔獣達の跋扈するラポルカ要塞内に躍り出た。
「ドラドラ、ケロリン、アリポン、ミラー、テッコウ出て来い」
アレン達が出て来たのは四角形の形をしたラポルカ要塞の南門の西側の角だ。
アレンの目の前には、外壁へ上がる階段があるが、目もくれず南壁の中央にある南門の開門を目指し走って行く。
斥候部隊と南門守備隊、合わせて2000人ほどのエルフ兵が、アレンの後を続々と付いて行く。
魔獣達はアレン達が穴から出てきたことにすぐに気付き、攻撃を仕掛けてくる。
アレンにより召喚獣達が一斉に召喚され、周りにいた魔獣達を竜Bと獣Bの召喚獣達が蹴散らす。
虫Bの召喚獣が囲むようにエルフ達を守り、石Bの召喚獣が大きな盾で魔獣達の遠距離攻撃から守る。石Cの召喚獣が、虫Bと石Bが守り切れなかった魔獣達の攻撃を覚醒スキル「自己犠牲」で防ぎ、エルフ達が無事に穴から出られるようにする。
要塞内に出たエルフの兵から、速やかに行動を開始する。
アレン達は南壁の内側沿いに進み、南門の解錠を最優先にする。
アレンの後ろには斥候部隊と南門守備隊がぴったりと付いて行く。
(中に入ってみると、さすがに中々の魔獣の数だな。相手にしてられないんだが、マジで頼むよ)
先頭にいるクレナとドゴラが魔獣達を蹴散らしていくが、外壁上だけでなく、要塞内にもかなりの魔獣がいる。
魔獣が比較的少ない場所を前日から確認して入ってきたが、ワラワラと魔獣達がアレン達目掛けて襲って来る。
そして、一部の魔獣の杖と手が輝きだす。
ローブに杖を装備した魔王軍の魔法部隊だ。この魔法部隊が外壁に身を隠し、外壁上の仲間の魔獣達を回復させている。そして、エルフの部隊にも外壁越しに遠距離攻撃を行っている。
(時間だ、死にさらすがよい)
魔法部隊が壁際を走るアレン達に狙いを定めたその時だった。
輝くような光と共に無数の光の矢が魔法部隊を直撃していく。
エルフの兵達の遠距離攻撃は穴から出た時から届いていたが、それとは比較にならない攻撃が要塞内部に降り注ぐ。
Bランクの魔獣をものともしない威力で魔法部隊を殲滅していく。
魔導具の時計は12時を指し示している。
「うし、タイミングはばっちりだ!」
「アレン、うまくいったわね。それでタイミングって何よ?」
セシルも喜ぶが、「タイミング」という言葉は分からなかったようだ。
光る無数の矢は外壁の内側にいる魔獣達を屠っていく。
「今のうちに門まで走れ! 壁沿いを走らないと巻き添えを食らうぞ!!」
「「「おお!!!」」」
今回のアレンが作戦に組み込んだのはエルフ達のエクストラスキルだ。
クールタイムは基本的に1日のものが多い。
エクストラスキルを思い思いに使わせないように前日12時以降の使用を禁止した。
そして、前日からどこに魔獣達がいるか、特に魔法部隊に関する情報を伝えている。
さらに現在も、外壁に隠れた魔獣達の位置情報を鳥Eの召喚獣とアレンの視界で捕捉し、魚Bの召喚獣がエルフの将軍に、その位置情報を正確に伝えている。
5万人の部隊が一斉にエクストラスキルを発動したわけではない。
弓隊と魔法隊がそれぞれ100人ほどで1部隊となり、順次敵部隊を攻撃している。
2つ星のエクストラスキルは、魚系統のバフの効果で威力が上昇し、かなりの数の魔獣を蹴散らしていく。
階段を駆け上がり魔王軍から外壁上を取り返すべく上がった外壁占拠部隊3000人に対しても、エクストラスキルによる援護射撃を行っている。お陰で外壁を中央に向けて随分前進出来ている。
ゴオオオオン
エクストラスキルによる援護射撃を受け前進できたアレン達と南門守備隊が陣形を組みはじめる。その後ろで、数十人態勢で解錠する斥候部隊により南門は開門された。
開門が合図であった。
南門の手前100メートルにいる45000人のエルフの軍勢が進軍を開始する。
「「仲間達がやってくるぞ! 魔獣共を近づけるな!!!」」
アレンとガトルーガの言葉が重なる。
今度は仲間達が無事南門を抜けるための援護射撃をしなくてはいけない。
エクストラスキルを100人単位で順次発動し、南門へ目掛けて走るエルフ兵を攻撃する外壁上の魔獣と、南門に近づく魔獣を一掃する。
仲間達が門を潜り抜けるまでの時間を稼いでいく。
門を抜けやってくるエルフの軍勢たちが速やかに南門付近で隊列を組み始める。
「門を抜けたぞ! 陣形を死守せよ!!」
「「「おおおお!!!」」」
門の前に巨大な陣形ができ始める。
南門を奪還したエルフ兵とアレン達による戦いは続いていくのであった。





