第154話 学園武術大会②
拠点を要塞都市フェルドラに移し、A級ダンジョンの攻略を進めた。アレンはいないが、パーティーの人数も増え、2ヵ月しないうちに攻略を終えた。転入生のレベルがすごい勢いで上がっていく。
アレンも数日遅れで5つ目のA級ダンジョンを攻略した。
なお、ダンジョン統括システムは最下層ボスを倒した後に現れなかった。
恐らく3人の転入生をパーティーに入れたからだろう。
今5つ目の攻略証明書を得るには、冒険者ギルドでの手続きでパーティーから3人を抜く必要があるのだと思う。そして、再度最下層ボスを倒せば、5つ目の攻略証明のスタンプをつけてくれそうだが、8人全員で5つ攻略しようと話をした。
9月の終わりに学園都市に戻って、転入生3人の3つ目のA級ダンジョンの攻略を進めている。今のペースなら12月には8人全員で5つのA級ダンジョンの攻略が終わるだろう。
アレンは2ヵ月の間に限界まで魔石を収集した。EとDランクの魔石は100万個近く募集した。Cランクの魔石は値段が張るので10万個に抑えた。
短期間に募集したので、魔石の相場が、王国内で1割ほど上がってしまったが、直ぐに落ち着くだろう。魔石の募集は10月に入ると平常に戻した。
アレンの召喚レベルは7に上げることができた。強化のスキルは先に7にしていたが、覚醒スキルも7にした。召喚レベル7になった。召喚獣はBランクを召喚できるようになり、既に、新しい召喚獣の分析は済んでいる。
10月に入りアレンは14歳になった。
アレンの目の前には、アレンより一回りデカい男が大剣を握りしめて立っている。そしてその間には男がいる。この男はこれから始まる戦いの審判だ。
既に100人からなる予選を終え、今日は16人から始まった本戦の途中だ。
そして審判が注意事項を説明している。何でも降参をしたら攻撃を止めないといけないという話らしい。降参のポーズも教えてくれる。昨日から何度も聞いたが、試合前必須の説明事項らしい。この試合では死亡する可能性もあることの注意も受ける。試合に熱くなって、これまで何人も死んでいるらしい。
アレンをムキムキな男が睨みつけている。
もう試合が始まる。
『では、構え』
ミスリルの大剣を構えた対戦相手に対して、アレンはアダマンタイトの剣を構える。
武器のレベルを相手に合わせる理由はない。
『はじめ!!』
その合図とともに、一気に対戦相手が迫ってくる。
対戦相手の剣を受けることなく全て寸前で躱していく。対戦相手は、アレンの動きに合わせるようにガンガン大剣を振るう。その度にものすごい風圧をアレンは感じる。
(たしか予選に参加した100人全員が星2つなんだっけ)
アレンは大剣を躱しながら考える。
考え事をすることは別に相手を馬鹿にしているのではない。
アレンはたとえ殺されそうになっても、どんな危機が迫っても、それが理由で頭がいっぱいになって、思考が止まるなんてことはない。それはマーダーガルシュに食われそうになってもだ。4桁に達した知力が思考を停止させない。
5000人強の中から100人が担任の推薦で選ばれる。
才能のある人の割合で言うなら10人に1人が2つ星だ。
100人全てが2つ星になるのは頷ける。
1つ星では、予選にすら参加させてもらえないと言う。これも能力値の差、職業スキルによるステータスの増加を考えれば仕方ない。
アレンが余裕で躱すので、低学年に馬鹿にされたと思い頭に来たのか、対戦相手が明らかに大振りになる。
(まだ学生だな。カッとなったら戦場で危ないんだけど)
アレンはその動きを見逃さない。一気に距離を詰め対戦相手の懐に迫る。両手で握っていた剣を片手に握り直す。
ドゴッ!
そして、ミスリルの鎧に拳を叩きこむ。ミスリルを殴ったとは思えないほどの衝撃音が闘技台に響く。
対戦相手は何も言えずに痙攣しながらうずくまる。仕留めるには十分な一撃であったようだ。
審判がふたりのもとへ駆け寄ってくる。何かを頷いて右手を垂直に掲げ、試合終了の合図を審判席に送る。
『おおっと! 学長推薦のアレン選手の勝利です。本試合も余裕の戦いぶりでした。このまま優勝してしまうのか。次はクレナ選手との決勝戦です』
魔道具によるアナウンスにより、アレンの勝利が闘技場全体に広がる。
なぜかアレンには学長推薦という言葉がセットのようだ。通常は担任が推薦するのだが、アレンは学長推薦枠だ。
今終わった試合は本戦の準決勝だった。アレンは今回のような戦いを既に2回行い、勝利を収めている。学園武術大会も残りは決勝戦だ。
アレンは勝利を喜ぶこともなく、前の2試合と同様に淡々と試合を進めていく。
(王太子も来ていると)
鳥Eの召喚獣で上空から闘技場全体を見ているが、今年もやって来たのは王太子かと思う。そして自らの派閥の大臣や貴族を連れてきており、自らの力をひけらかしているようだ。
当然今年も、各国の来賓を招きいれている。学園がしっかり生徒を育てているかお互いチェックするために学園武術大会が行われる。つまらない試合をすると、五大陸同盟の会議の場でネチネチ言われるのだと言う。
学園武術大会は各国の沽券に関わっている。
今年は2年生の2人か。1人は去年も優勝したクレナという名前の剣聖か。
ここまで余裕そうに戦っているもう1人は誰だ? 学園から配られた資料には「召喚士」とあるが知らないな。
アレンの勝利に、各国の来賓は評価を決めかねている。
そして、数十分後、次の試合が行われる。よっぽど大怪我をした場合は、治療を受けたり、次の試合を棄権するかなど待ったがかかり時間を食うが、アレンもクレナもほぼ圧勝だったため、殆ど無傷だ。
「久しぶりだね!」
クレナが興奮気味に話しかけてくる。鼻息も荒く、頬が紅潮し、とても嬉しそうだ。
クレナとこうしてしっかり試合をするのも6年ぶりくらいか。グランヴェル家の従僕になる前に別れた時以来だ。
随分時間が流れてしまったなと。そして、あまりに長く待たせてしまったかと罪悪感すら感じる。
「クレナ、もう一度聞くけど本気を出せって召喚スキルも使うことになるけどいいの?」
昨晩も確認したことをここにきてもう一度確認する。
「もちろん! 手加減したら駄目だよ!!」
なお、アレンとクレナの決勝戦でお互いに決めたルール
・回復薬は使わない
・スキルは全力で使う
クレナに試合の方法について確認した。剣は私が有利過ぎる。アレンには本気を出してほしいと言われた。どうやら、この2ヵ月試合の方法についてクレナなりに考えていたようだ。
アレンはそうかと言い剣を構える。合わせるようにクレナも剣を構える。
こうすると今でも「我が名は騎士アレン」と言いだしそうになるのは不思議に思う。
「では、始め!!」
審判の合図と共にアダマンタイトの大剣を握りしめたクレナが突っ込んでくる。
アレンがクレナの攻撃を受けとめる。ずんと重い衝撃がアレンを襲う。クレナの攻撃は続いていく。
(やはり、剣術スキルレベルが1違うと相対して結構違うんだよな。クレナはカンストしているから3も違うし)
剣術のスキルレベルについて考える。スキルレベルが上がると威力も剣捌きも変わってくる。アレンは4を目指して3のままだが、クレナは6まで上げ切ってしまった。
ここまで差が大きいと剣捌きに歴然とした差が生れる。
(だが、素早さも攻撃力も俺の方が上なんだよね)
アレンはスキルレベルでは負けているが、各種ステータスに召喚獣の加護を振っている。
今年の決勝戦はすごいぞと観客席がざわつき始める。
アレンの動きは主要なステータスの値が最大4000を超えるクレナの動きに全く負けていない。
「うりゃああああ!!!」
掛け声ともに、大振りの一撃を振るうクレナ。大振りなので、余裕をもって躱すと、その瞬間にクレナの剣が真っ赤に燃え始める。
(お! 紅蓮破か)
ドゴッ
体勢的にアレンに避ける余地はなかった。避け切れずに剣聖のスキルをもろに食らってしまう。
観客席から悲鳴が聞こえる。あんな一撃を受けて死んだんじゃと息を呑む者もいる。
一瞬クレナは勝利を確信して笑みをこぼす。
それほどの一撃だ。しかし、そんな一撃を受けてもアレンは全く吹き飛ばされない。
「駄目だよ。まだ試合は終わっていないぞ」
「え?」
アレンは、一瞬緊張感がゆるんだクレナをたしなめ、脇腹にアダマンタイトの剣を叩きこむ。
「ほら」
「……! う、うそ。何で?」
(ふふ、驚いたか。スキルレベル7にしておいてよかった)
アレンはクレナの一撃でダメージを受けていないようだ。今度はクレナの防戦が続いていく。脇腹にダメージを受けたため、呼吸が十分ではないようだ。
それから数太刀攻撃を受けてクレナは降参した。
負けちゃったとクレナが残念がる中、審判はアレンの勝利を宣言する。
『なんと剣聖クレナに学長推薦のアレンが勝利してしまいました。何ということでしょう!! それでは、暫くした後にまずは剣聖ドベルグ様と剣聖クレナの試合を行いたいと思います!』
観戦する皆がざわつく中、学園武術大会はアレンの優勝で終わったのであった。





