ポッチャリ勇者は、デブに戻りたい。
俺は、田中 デイブ。
父親が日本人で母親がアメリカ人の30歳になる男子である。
父親の仕事の都合で小さい頃は海外を転々としていた為に、20ヵ国語以上の会話が可能であったが、語学の習得に能力を使った為か、語学センス以外は全くなくて、どこに就職しても能力不足で失敗する落ちこぼれ人生になってしまった。
生きていくには仕事をしなくてはいけないので、唯一の能力である語学力を使って主に通訳の仕事をしていたが、それも先週解雇されてしまった。
通訳能力が優秀と言っても、人との会話も苦手だから無愛想になってしまい、俺に通訳を頼んだ人が二度頼む事がないのが理由だそうだ。
外見も俺的には、イケてると思うのだが他者からみれば『デブ』で暑苦しいそうだ。
それって、冬場だったらあったかそうで良いと思うのだが他人の価値観は難しい。
『デブ』と言っても体重150kgぐらいであって日本の国技である相撲であれば普通だと思うんだが?
デブに近いけどちょっと自称ぽっちゃり体型だと俺は思っている。
そもそもデブとは肥満体質の人の名称だが、肥満は飢えに対する耐性の獲得であるため、それ自体は正常な生理活動だからデブに近いぽっちゃりほど人間的には優秀な筈だ!!
まぁ、いくら個人で騒いでもぽっちゃり体型の俺に社会は厳しかった。
最終的には、家に引き篭もって仕事しか上手くいかないので依頼された山積みの本を翻訳する仕事に落ち着いた。
翻訳の仕事を始めてから、完全なディスクワークになった為に動かなくなった。
その為に全身が更にポッチャリになった。
そこで不幸は起きたんだ。
座っている椅子が体重を支えられなくなって壊れて、床に倒れた。
丁度、近所のピザ屋がサービス期間中だった超特大ピザを食べている時で喉にピザが詰まってしまった。
水を取りに行来たかったが、うつ伏せでベットと壁の隙間に腹がはまってしまった。
全く動けない!
息が吸えない……
そこで気を失った。
眼が覚めると草原に寝ていた。
頭に声が響いた。
『私は転生を司る神です。貴方は先程、ピザを喉に詰まれせて窒息死しました。あまりにあり得ない死因だった為に死を司る神が貴方の事を見落としてしまい、天命に従う転生の輪廻に入る事が出来ないという事態になってしまいました。肉体は滅びましたが魂だけが残ってしまう例外が発生してしまいました。魂だけでは、元の世界では復活させれない。そこで魂が最も力を持つ別世界に転生ではなく転移させる処置をとりました。この世界であれば魂から肉体を構築する事も可能でした。お詫びとして貴方が最も望まれているスキルを神の恩恵として差し上げます。会話や鑑定も可能な様にしておきます。今回は天命を費やすことを祈ります』
ちょっと、早口言葉過ぎて理解できない。
もしもし?
それっきり何も聞こえなくなった。
魂が力?肉体は滅んだ?
今の姿が魂の形という事なんだろうか?
自分の姿を見ると、違和感がある。
前より痩せた様に感じる。
服は転移と言ってたので、死んだ時にそのまま送られたらしく、ピザ屋からピザを受け取るのに恥ずかしくない程度の室内着だった。
ポケットに鏡付きの折りたたみブラシがあったのを思い出し鏡で自分を見る。
なんだこりゃ!
や、痩せている!
理想のぽっちゃり体型になっている。
パンパンに腫れ上がったような顔が、ふくよかな顔付きに!
弛んだ手足の肉がパンパンに膨れたソーセージ見たいになっていた。
俺って実はぽっちゃりじゃなくてデブなんじゃないかと思っていたが、実際にぽっちゃりになると前迄の自分がデブだったと思う。
なんて、ご都合主義の俺の価値観!
それよりも、ここは何処だ?
周りを見渡すと物凄い広い草原で、遠くに大きな山が見える。
とにかく道を探そう。
体感で30分ぐらい歩いた。
はっきり言って疲れた。
昔は体重が150kgだったが今や体重120kgぐらいになった筈だが全然体力がなかった。
そいえば、恩恵があるって言っていたな。
スキルとも言っていたな。
そう思ったら目の前に、文字と数字の羅列が表示された。
ーーーーーーーーーー
名前 デイブ
レベル1
体力5
魔力0
腕力4
速度2
器用2
頭脳1
スキル
食欲(+100)
鑑定(+10)
言語(+10)
食用には適さないが、肉厚で栄養価は高い。脂肪多め。
ーーーーーーーーーー
数値は自分の現在の状態か?
全部一桁?
これが強いか弱いはわからないが、食欲!?
なんだスキル食欲って!!!
スキルって教養や訓練を通して獲得した能力の事で技能だろ?
食欲が特技なのか!?
確かに生前は、食べる事が唯一の楽しみだったかもしれないがこれは酷い。
死ぬ前に食べる事が最も望んでいた能力だから、こうなったって事か?
最後の鑑定と言語は、この世界で生きる為に知識と会話可能な様に最後に補足されたスキルか?
そう思うと頭にスキル鑑定によるものだと思われる文字が浮かんでくる。
『スキル食欲(+100)
食材を食べたいと思う魂の力。
補正+100とは、神の領域の補正で様々な奇跡を起こせる。
スキル鑑定(+10)
世界の事が理解できる。
補正+10とは、この世界の最大値
スキル言語(+10)
意味がある音や文字を理解出来る能力。
補正+10とは、この世界の最大値』
鑑定と言語は、なんとなく理解が出来る。
だが、食欲が理解できない。
全く役に立たなそうなんだが!!
鑑定と言語の+10が最大値ってなってるのに食欲の+100って?
+100の補正も凄いのかすらわからん。
そりゃ、腹が減って目の前に食料があれば火事場の力も出るだろ?
そう考えていると、この疑問にスキル鑑定が答えてくれる。
『スキル食欲(+100)は神を超えるレベルの補正で、食べる事に関しての関連行動は無制限の能力上昇が発現する』
とにかくスキル鑑定で頭に情報が浮かんで来るんだな。
俺の食欲は神の域なのか?
試しに草原の雑草を見つめる。
『タンポプ草。料理不適食材。加熱処理すれば食べれるが生のままで食べると人間は腹を壊す。タンポプ草を好んで食べるバエルバッファローの餌として放牧に利用されている』
雑草だったようだ。しかも補足説明が食う内容か!
スキル食欲に関して考えていたら腹が減った来た。
そう思ったら、視界が遥か彼方に広がった。
1km先に兎のような動物を発見する。
1km先の物体がよく見えるんだが?
目に望遠鏡がついている感じだ。
これは、食べる行動の過程で目の能力が無制限に上昇しているのか?
『一角兎。食用として流通が多い。人間では生だと寄生虫によって腹を壊す個体がいる。美味い!』
またも頭に食欲による鑑定の言葉が浮かんできた。
食えるのか?と考えて鑑定したらステータスは表示されないから、知りたい事だけ教えてくれるのか?
確かに普通の兎に角が無いが、一角兎と言うだけあって角が生えていた。
スキル食欲って名前が微妙だが、凄い能力なのはわかった。
足元の小石を拾って、一角兎に投げてみた。
バヒュー!
物凄い速度で小石が飛んでいき1km先の一角兎の頭が吹っ飛んだ。
え!?なんだこりゃ!
試しにもう一度石を拾って投げると、ヒョロヒョロと飛んでいき10m先で地面に落下した。
え?
食べる為の工程に関する行動だけ能力が化け物になるって事か?
まさか?
頭が吹っ飛んだ一角兎を食べたいと考えて、1km先に走り出す。
ドカン!!ボン!!
走り出した一歩目で地面が、ふざけた脚力によって振動してポッチャリな俺が激しく前進。一歩おきに加速して、途中で音速を超えた。
瞬き程度で、目的地に到着した。
……これって、調節出来るのか?
力の調整を覚えないと不味い気がしてくる。
先程いた場所に大きなクレーターが出来ていて、一角兎の場所までが、俺の激しい走りで畑を耕した様になっていた。
とにかく肉が手に入った。食べようと考えると自然に体が動く。
周囲の木を素手で薪に変えて、指を擦った摩擦熱で薪に点火。
火の中に一角兎の肉を入れて焼けたら、素手で火の中に手を入れて取り出した。
食べる為の行動の為に火が全く熱くない。
そんな事を考えなら貪り食べた。
「美味い!!」
兎と言うよりも鶏肉に近く臭みもなかった。
スキル食欲が凄い。
食べる過程中であれば、木が手刀で切れるし、簡単に火も起こせて、火を触っても熱くも痒くもなかった。
食べ終わってから燃えている火に触ろうとしたら熱くてさわれなかった。
思わず火傷もしてしまった。
ここで重要な事がわかった。
元の世界の俺だったら一角兎を三匹は食える自信があったが、この世界のポッチャリな俺は一匹でお腹いっぱいになってしまった!
胃が小さくなってしまったのか?
食欲があるが、食えないのである。
食べる楽しみが単純に昔の自分より1/3しか味わえない事になる。
食べる量は、スキル食欲の能力では上昇しないようだ。
ふ、太らねば!!
そして、この世界の全ての味を我が口に!
とにかく人がいる所に行って、情報を集めて飯を食わねば。
と思ったら地形を鑑定したのか?
右後方に町がある事がわかった。
町に行けば飯が食えると思った事が、スキル鑑定とスキル食欲の能力の複合作用を発現させたようだ。
食欲に関する行動の為に町へ走り出すと、物凄い移動速度ですぐさま町が見える場所まで到達した。
途中に木や岩など障害物は、全て体当たりで粉砕して直線で最短距離で移動した。
振り返ると元いた場所から町が見える場所まで移動中に高速で移動した為に発生したソニックウエーブで出来た一本の道が出来ていた。
むちゃくちゃだな……
とにかく美味い物が食べたいし、この世界での生活基盤が必要だ。
今後の事を考えながら町の中を目指す。
町の入り口にいた衛兵の様な姿の二人組が、武器を構えて俺を見ていた。
武器が、銃や警棒などではなく槍?
何かを叫んでいるが意味不明な言葉で聴いたこともない。
しばらく、聴いていると何故か意味がわかってきた。
「……何者だ! お前は!」
これは、スキル言語のおかげか?
異世界での人とのファーストコンタクトだが、気の利いた事が思い浮かばないので、ストレートに欲望を伝えた。
「俺はデイブ! 町には美味しものが溢れているはずだ! それを食べに来た」
「確かに一杯食べそうな外見だな。身分証明できるものはあるのか」
「ん? そんなものはない」
「それは困ったな。町に入るには身分証明が必要なんだ。だが、俺が身元引受人になってやるから入っていいぞ」
「え? 大丈夫なのか?」
「お前、自分の姿見てから言うんだな。そんな武器なしで手ぶらで、見たこともない薄っぺらい布の軽装備を装備した弱そうなデブが町の外からやってきて、俺が追い返して死なれたら気分が悪い。身分証明が無くてもお前じゃ大した事も出来ないだろ? 構わないよ」
「デブじゃないぞ! 少しぽっちゃり体型なだけだ!」
「入るなら入れ」
なんか、迷惑な奴が来た感じで追い返された感じを受ける。
超舐められた感じでなんか腹立たしいが、町の中に入れたから許してやるかな。
町に入ると結構栄えていて、めっちゃ人がいる。
果物屋には見た事がない果物が並んでいる。
八百屋には見た事がない野菜が並んでいる。
武器屋や防具屋があり、まるで異世界の様な雰囲気である。
って、異世界だったな。
異世界だとしたら元の世界に戻れるのか?
いや、元の世界に自分の生きている体がない以上この世界で骨を埋めるしかないのか?
元いた世界と比較すると、この世界は中世レベルの文化状態か?
建物が煉瓦か木造だけで、構築されていた。
当時の文化レベルの料理だと味はどうなんだろうか?
美味しそうな匂いが漂ってくる。
匂いの元をたどると謎肉を串焼きにしている店があった。
出店の様な感じで、その場で買って食べる立ち食い謎肉串だな。
肉を焼いてるおじさんに注文した。
「串10本くれ!」
「あ? よく食いそうな兄さんだな。一本銅貨1枚で10本で銅貨10枚だよ」
お金が必要だよな。現在は無一文である。
だが、どうしても欲しい。
『スキル食欲が交渉術に作用しました』
脳に響くスキル食欲とスキル鑑定が複合的に作用した声。
勝手に口が動き出す。
「おじさん、いやお兄さん!この店はツケは効くのか?」
「初見で後払いかよ!今日中に払ってくれるなら良いけど、当てはあるのか?」
「この町で稼ぐなら何処が手っ取り早いんだい?」
「あ? そりゃ冒険者ギルドだろ。雑用から魔物討伐までなんでも仕事を斡旋してくれるだろ」
「サクッと稼いで持ってくるからツケでよろしく!」
オヤジが苦笑いして焼いた謎肉串を10本取って俺に渡してきた。
「この町じゃ見ないデブ体型に免じてツケさせてやるよ。そこまで太ってりゃ金の当てがあるんだろ?」
「デブじゃないぞ!少しぽっちゃりなだけだ!」
串を貰うと、すぐに貪り食べた。
「うめええぇ!!」
「昨日とれたてのオークの肉だ!さっさと金持ってこいよ!」
「待ってろすぐに稼いで店ごと買い占めてやる」
串を5本まで食べながら、冒険者ギルドを目指した。
謎肉がオークの肉なのがわかったがオークってなんだ?
オークの肉食いたさに、スキル食欲が動き出す。
スキル食欲が勝手にスキル鑑定で町全体を鑑定したのか町を全て知っているかのように悟って迷わず最短距離で冒険者ギルドへたどり着く。
結構大きな建物で木造2階建の役所みたいな建物だった。
入ると速攻で受付に向かう。
受付には耳が尖った飯ちゃんと食ってるか心配になるほど痩せている女性が座っていた。
痩せすぎだろ?
「初顔ですね。ベルモンドの冒険者ギルドにようこそ! ご用件はなんでしょうか?」
「簡単にがっぽり稼げる仕事はないか?モグモグ」
「では、冒険者カードを提示してください。って食べながら話さないでください」
「冒険者カード?そんなものは無いが?モグモグ」
「では、冒険者登録でしょうか?」
「必要なら登録するが、登録しなくても仕事が受けれるなら作らない。クチャクチャ」
「……登録してからでないとギルドでは仕事が斡旋できませんが?いい加減に食うのやめろ!」
「なら登録を頼む。モグモグ」
「登録料は、銀貨1枚になります」
「お金は無い。クッチャクッチャ」
「ないなら登録出来ません……」
「オメー初心者か?受付のメルちゃんが困ってんじゃねーか!」
背後から男の声が聞こえると同時に頭に衝撃が来て、そのまま気を失った。
まだ、肉串が一本残ってたのだが……
目がさめるとベットに寝ていて、メルと言われた受付の女性が私に手を当てていた。
手が青く光っている。
「俺は、何を?最後の串は何処だ?」
「あ!目が覚めましたね。串は床に落ちたから捨てましたよ」
「おっさん!すまない!まさかここまで弱いとは思わなかったんだよ!軽くこずいたら瀕死になるとは!この事はギルドマスターには内緒にしてくれ!お詫びに登録料は、俺が払うぜ」
20歳ぐらいの青年が、ベットの横で謝っていた。
「ギルド内でのいざこざは、ギルドが関与しませんが生死は別です。今後気をつけてください」
メルという女性が俺に当てていた手をどかすと青年に向かって、怒っている。
確か俺の体力が少なかったから軽く叩かれて死にかけたのか?
「どれぐらい寝ていたんだ?」
「20分ぐらいでしょうか?」
今日中に銅貨10枚が必要だ。急がなくてはいけないと思ったが、青年から慰謝料でふんだくれば良いのか?
「わかった!あと慰謝料として銅貨10枚!」
「え?そ、それぐらいなら。絶対内緒にしてくれよ」
青年が銅貨10枚を置いて、逃げる様に部屋から出て行った。
もっと吹っかけるべきだったのか?
まぁ、話を進めよう。
「メル?冒険者登録したいんだが?」
「ここでですか?状態が瀕死でしたので少し回復しときましたが体力が10しか回復しない初期魔法のヒールでしたので、もう少し回復してからの方が良いのでは?」
ヒール?ゲームなどでは回復する魔法でよく聞くキーワードだな。
さっき手が光ってたから、本当に魔法が使える世界なんだな。
「構わない。早速登録してくれ」
俺の体力など10もないから全回復したって事だな。
まさかだが、俺ってめちゃくちゃ弱いのか?
メルが部屋から出て行くと、黒色のプレートを一枚持って帰ってきた。
「この初期プレートに血液を一滴垂らしてください」
メルから針を借りて指から血を垂らす。
黒いプレートが変化して文字が浮き出てくる。
この流れは、まさかこのプレートに俺のステータス表示されるのか?
そう思ってプレートに浮き出た文字を読み取った。
ーーーーーーーーーー
名前 デイブ
レベル2
職業 勇者
体力6(スキル食欲起動時無制限)
魔力0(スキル食欲起動時無制限)
腕力5(スキル食欲起動時無制限)
速度2(スキル食欲起動時無制限)
器用2(スキル食欲起動時無制限)
頭脳2(スキル食欲起動時無制限)
スキル
食欲(+100)
鑑定(+10)
言語(+10)
称号
異世界転移者
ーーーーーーーーーー
予想通りプレートに浮き出た文字は、ステータスだったが初期に鑑定した際よりもレベルが上がっている。
一角兎を倒したせいか?
称号や細かい情報が増えている。
この職業に書かれている勇者とスキルに書かれた内容は不味い気がする。
確か、過去に遊んだゲームや読んだ小説の知識を思い出すと、どこかに攫われて無理やり魔王討伐とかさせられそうだ。
目立つと今後の生活に支障が起きて食べれなくなるかもしれない。
そう思うと、書いてある内容が変化した。
ーーーーーーーーーー
名前 デイブ
レベル2
職業 村人
体力6
魔力0
腕力5
速度2
器用2
頭脳2
スキル
なし
称号
なし
ーーーーーーーーーー
頭に自分自身のスキル食欲で引き起こした現象の説明がスキル鑑定により文字として浮かぶ。
『食欲を満たす行為の妨げになると考えたので、ステータスプレートを偽装しました』
スキル食欲が俺の食事を妨害しそうな要素を排除したようだ。
何でも有りなんだな。
スキル食欲の変化に関して自分自身を鑑定すれば変化も理解のようだ。
おそるべしスキル食欲とスキル鑑定の複合作業!
ここまで出来るなら食べれる料も増やせないのか?
『満腹時には、スキル食欲の効果が減少する為に効果が低下。食べれる量の能力の上昇は不可能』
スキル食欲をスキル鑑定が鑑定した結果が頭に流れてくる。
そんな落ちだったのか!
スキル食欲を発動させる条件は満腹ではない時となるなら、今後太って食べれる量を増やす必要があるな。
メルが、冒険者プレートを震える手で受け取って書いてある事を読み取る。
「村人の上にステータスが低過ぎる……」
「それで登録は終わりですか?」
「あ、はい。これで登録終わりですがこのステータスで本気で冒険者になるんですか?子供並みなんですが……」
子供並み?そこまで弱いのか!
メルのステータスを比較する為にスキル食欲を使って見てみる。
ーーーーーーーーーー
名前 メル
レベル21
体力212
魔力314
腕力121
速度309
器用297
頭脳191
スキル
短剣(+2)
風魔法(+3)
回復魔法(+0)
食用には適さないが夜食べるなら見かけより激しい。
ーーーーーーーーーー
強えぇ!俺と桁が2桁違うし!
俺のステータスやばいだろ?
最後の鑑定の一言ってなんだ?
夜食べる!?夜になると何かあるのか?
「俺って弱いのか?」
「はい、めちゃくちゃ弱いですね」
「………」
気不味い雰囲気から気をとりなおして部屋から出て、受付にメルと一緒に移動した。
受付に戻ったメルに、改めて質問する。
「楽に稼げる仕事はないか?」
「な、無いです。デイブさんだと部屋の掃除や道に落ちている馬糞処理や薬草の採取が適切じゃ無いかと……」
受付の横にある掲示板に沢山貼られている依頼を眺める。
上の方に謎肉の原料だったオーク討伐の依頼書が貼ってあった。
あの肉の討伐?金が無いなら自分で狩れば良いのでは?
「掲示板に貼ってあるオーク討伐の依頼は受けれるのか?」
「最低でもプレートが黄色じゃ無いと無理ですね」
「黄色?」
「冒険者プレートなんですが、レベルが上がると色が変化していき、赤黒になって見習い冒険者となり、黄色で通常冒険者、水色でベテラン冒険者、白色で二つ名を持つような冒険者となります」
「黒プレートでは受けれないと?」
「はい。デイブさんじゃ殺されますね。止めませんけど。そもそも黒プレートのままの人を初めて見ました。最低でも少しは赤黒っぽくなるんですけど……」
今まで流れでメルの俺に対する対応が悪くなってきている気がする。
「万が一私が倒してきても問題は無いのか?」
「絶対無理ですね。依頼が受けれないのでお金も支払われません」
「そ、そうか」
メルのこめかみがピクピクしている気がしてきたので、一旦受付を離れた。
オーク討伐の依頼書をみると町から北西に30kmほど行った所にオークの出没報告があり調査と討伐が依頼内容だった。
冒険者ギルドを出て、慰謝料にもらった銅貨10枚を謎肉串屋のオヤジに支払に移動した。
金を渡すと驚かれた。
「お!もう金が出来たのか!ただのデブじゃ無いと思ったが俺の目に狂いは無かったな!」
「デブじゃ無い!それよりオークの肉って持ち込んだら買い取ってくれるのか?」
「直接買取?税金の兼ね合いもあるから冒険者ギルドを通してくれなきゃ駄目だな」
うぁ。
メルを通さないと無理っぽいなぁ
スキル食欲で倒すことは可能なんだろうか?
そんな事を考えながら町を一旦出た。
町から少し離れたら、食べた肉串を思い返す。
是非とも、もう一度食べたい。
そう考えると、体は町から北西へ走り出していた。
スキル食欲の効果の為かオークが目撃された場所まで、異常な速さで到着した。
深い森の中だが突然開けた場所があり、見たこともない人型の豚のような生物が沢山蠢いていた。
あの人型生物がオークなのか?
オークの肉食いたい!と思えば、スキル食欲で奴らの情報が悟り頭の中に情報が浮かぶ。
『オーク。人型の魔物。生では食べれない。アクが強いが一度煮詰めればアクが取れて良質な肉になる。アクを取り除いた後に適度に焼くと美味である。栄養価は高いが、一度加熱処理する為に肉からビタミンを摂取するのは難しい。栄養が偏るので一緒に野菜も食べましょう!』
オークで間違いないようだが、人間と違って食べることだけで強さが表示されないから強さがわからない。
魔物は!強さがわからないのだろうか?
『スキル食欲の影響でスキル鑑定が上手く動いていない。オークは話にならないほど弱いため、食べる為の過程でステータス情報など必要ではない情報だから鑑定していない』
え?では表示される人達は何故だ?
『食べる為に相手を口説くには詳細な情報が必要だから』
ちょっと意味がわからない。食べるって違う意味じゃないか?
まぁそう言う物だと思うしかないのか?
武器もないので、近くの小石を拾ってオークに投げつけてみる。
ばひゅーん!!
音速の壁を破って石がオークへ飛んでいき直撃したオークと掠ったオークが肉片へ変わった。
威力ありすぎだろ!
オーク達がこちらを見て騒ぎ出すが、構わず地面の石を拾って投げ続けていると動いている魔物は全て動かなくなり、オークの肉だけが森の開けた場所に残った。
一度煮詰めないと食えないって鑑定してたな?
魔法が使える世界である。
食べる為に能力は無限大であれば、俺でも魔法が使えるんじゃないだろうか?
思いつきで、地面が沈むイメージをする。
ドン!
目の前の地面が直径4mほどで深さ3mまで沈んだ。
「お!使えた!土属性の魔法になるのかな?」
次は、地面に出来た穴にオークの死体を全て落とし込む。
食べる為の行動の為に無制限の力が出る。
そして、水が出るイメージをすると一瞬で穴に水が満たされた。
「これも成功!水属性の魔法になるのかな?次だ!」
水の加熱イメージをすると水が沸騰した。
これは火属性だろうか?
「よし!ご都合主義だがスキル食欲さえあれば料理も強引に出来そうだな」
掘った穴でオークの死体を煮詰めているとファンキーな匂いがして、水面にアクが浮いてきた。
「めちゃくちゃ臭いぞ!触りたくない!」
アクの浮いた水面の下にアク抜きしたオークの肉があるが取り出せん!
待て、転移魔法という物もあるはずだ!
オークの肉を目の前に転移させれば良いじゃないか!
そう思えば、目の前に煮込まれたオークの肉が現れて、穴の水に量が減った。
これも成功か!食欲による能力強化すごいな!
後は焼けば美味しくいただけるって事だな!
火属性の魔法が使える事がわかっているので試してみる。
「燃えろ!!」
肉が一気に火を吹いて、焼肉へ変化していく。
「ふははははは」
火が収まった後に、焼けた肉にむしゃぶりつく。
美味いぞ!!
しかし、今の体型では昔の自分の1/3しか食べれない。
どうにかして、過去の肉体を手に入れなくては!
そう思った瞬間、体が光ったと思ったら、うつ伏せでベットと壁の隙間に腹がはまってピザが喉に詰まった状態になった。
あれ?死ぬ前の状態!?
息が吸えない!!また死ぬのか?
ピザを飲み込む為の水を……
口の中に水が溢れてきた。
水属性魔法?
口に湧き出た水で、無事ピザを飲み込めてしまった。
息が吸える。
ゼーゼー!
周囲を見渡すと、死ぬ前の部屋だ。
夢だったのか?
無意識に鑑定をしたようだ。
鑑定結果が頭に流れる。
『食欲補正+100は、神を超える能力。
食欲が高まった際に能力無制限で元の自分を求めた為に全て願いがかないました』
「え?」
神的能力を持ったまま、元の世界に戻って来たって事か?
少し考えて、ピザ屋へ追加のピザを注文した。
「まぁ、変な夢を見たようだ」
今度は、危険がないように手の届く範囲にコーラを用意してピザ屋が来るのを待つことにしよう。