王太子は本をみて今後の作戦を決める ☆
いーな。夏休み。いーなぁ。
自分も夏休み作ろうと思えば作れるけど、それは世間体的にはニートと言う……。
「あー無理。フィーアが足りない。もう一年近く会ってない。無理」
学園に入学してもう1年。
今は学園の入学式の前の日で王宮に帰ってきていた。
ついでに言うと、長期休みのたびに帰ってきていた。
な、の、に、フィーアに会えていない。
何故かって?
フィーアの兄が帰ってきたからだ。
フィーアの兄は何処から情報を仕入れているのかわからないが、僕が公爵家に行くたびにフィーアを外に連れ出していて家にいない。
で、公爵家で待つのも忍びないからいつもそのまま王宮に帰るのだ。
長期休み中に毎日公爵家に迎えれば会えたのかもしれないが、それは難しかった。
僕も一応この国の王太子。
仕事があるのだ。
「あー。なんでかなぁ。なんで会えないのかなぁ」
今日も会えなかったのだ。
「明日から会えるじゃない?」
母上が笑いながら言う。
今日は母上も一緒に公爵家に向かったのだ。
「母上。僕とフィーアは一年歳が離れているんだよ?同じ教室で勉強できないんだ。それに、学年が違うと教室のある棟も離れているんだよ?会えないじゃん。前は毎日会えたのに」
僕は息継ぎなしで母上に訴えた。
会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい…………。
「………そう。じゃあ、今日はこれ読んで時間でも潰してみてはいかがかしら?」
そういう母上から本が渡された。
『悪役令嬢とヒロインの夢物語』
なんだこれ。
「母上、これは?」
僕は首を傾げて母上を見た。
「ん?んーー。貴方のこれからの参考にしたらどうかしら。まぁ、あれね。押しすぎもあまり良くないということよ。たまには引いてみるのもアリだと思うわ」
引くもなにも僕はすでに1年フィーアに会ってないんだが。
学園でフィーアに変な虫がついたらどうしよう……。
「…そうですか。まぁ、はい。読んでみます。あと母上。押しすぎもなにも、僕の当分の目標はフィーアに名前を呼んでもらうことですから」
そう。
フィーアはずっと僕の名前を呼んでくれない。
1年前の最後のお茶会でも呼んでくれなかった。何故。
「ふふ。小さな目標ね?あぁ、でも貴方とフリージアさんとだと大きな目標かしら」
「……どこで物語がズレてしまったのかしらね」
母上がなにか言った気がしたが聞こえなかった。
*
「これだ。これだ!!」
僕は母上に渡された本を掲げた。
これに出てくる王子は只の馬鹿だが、馬鹿な行動をしたら婚約者は嫉妬してくれた。
僕もこのような行動をしたらフィーアは嫉妬してくれるだろうか。
きっと嫉妬してくれる…はず。
最後の方にあった"婚約破棄"。
この時物語の婚約破棄は王子に気持ちを吐き出していた。きっとフィーアも僕に気持ちを吐き出してくれるはずだ。うん。きっとそうだ。
なにもここまでしなくていい。
本当にただの庶民上がりのヒロインと呼ばれる子に恋して、その他の事を疎かにする事も、婚約者を放置することもない。
物語のように許容もないヒロインは王の隣には立てない。努力し続けた婚約者に勝てるわけない。
ちょっと真似をすればいい。
そうすればきっと………。
フィーアは僕を見てくれる。
確かフィーアと同じ歳で最近まで庶民として生活していた男爵令嬢が入学してくるはずだ。
申し訳ないがその子を利用しようと思う。
「フィーア。フィーアが僕だけを見てくれる日はいつになるかな。フィーアが僕だけの名前を呼んでくれる日はいつかな。………フィーアが、僕のこの醜い欲情をその身で受け入れてくれるのはいつかなぁ」
最悪、この作戦がうまくいかなくてもいい。
その場合はフィーアを僕で汚して仕舞えばいいんだ。そんなことしたらもっとフィーアの気持ちが離れてしまうこともわかってる。
でも、僕で汚れたフィーアは他に行く場所がなくなるから、必然的に僕と一緒になる事になる。そしたら、時間はたっぷりあるんだ。
死ぬまでの間でフィーアに愛を伝え続ければいい。そしたらフィーアはわかってくれるはずだから。
まぁ、これは最悪の場合だけだ。
フィーアが僕を見てくれればこんなことしない。
「ふふっ。僕、で、汚れたフィーアかぁ。うん。それはきっと凄く綺麗で美味しそうなんだろうなぁ。そしたらきっと僕のこの欲情は止まらないんだろうなぁ」
僕は机に置いていたフィーアの姿絵を抱きしめてその唇にキスをした。
「あー。早く本物のフィーアとキスしたいなぁ」
勿論それ以上もね。
王太子さんがだんだん妖しくなってまいりましたー。
フリージアさんの貞操はいつまで守られるんでしょうかね。
そしてやっと次回から学園が始まります…。