婚約破棄イベントに似たもの
やっと短編の話まできました…。
それから一年とちょっと。
冒頭に戻るわけである。
王太子様はなんで自分の卒業パーティーを自分で壊してるんですかね。
「………王太子様?何故、婚約破棄なのですか」
私は王太子様を見据えていった。
王太子様の後ろにいるピンクブロンドの女の子がブルブルと震えだした。……なんですの アレ。可愛いと思っているのですかね。
「何故?何を今更。フリージア お前は、アリーナに嫉妬して、数々の悪質な行為…虐めしただろう。アリーナが元平民で、自分は貴族だからって」
「……嫉妬に、悪質な行為…ねぇ」
私が手を口に当てながら呟くとピンクブロンドの女の子が泣き出した。
あ、名前アリーナって言うんですね。初めて知りました。
元平民である彼女を私が虐めたとして、どうしてそれで私が悪く言われなきゃいけないんですかね。
それに私悪質な行為も何も、常識を彼女に諭していただけですけどね。
「アリーナ 泣かないで。大丈夫だから」
王太子様は泣くアリーナを慰める。
「ふぇっ。は、はい…。でも怖かったんですぅっ」
ポロッポロ×∞涙を流す。
……馬鹿なんですかね、あの子。
いつもいつもいつも。
泣けばいいと思ってるんですかね。
そんなんでこれから貴族社会で、生きていけるんですかね。
「…………はぁ。殿下。私の家の家訓を、ご存知ですか?」
「家訓?そんなの知るわけないだろう」
…ですよねぇ。
でも、婚約者の家のことくらい知っておけよと、思うのですけどね。
前はあんなに私にべったりで毎日毎日会っていたんだから、それくらい知っているとばかり思っていました。
「『貴族だからって偉いわけではない。自領民の方々あっての私達。貴族平民分け隔てなく接しなさい。でも、馬鹿な貴族達に舐められないように。私達が馬鹿にされたら領民達も馬鹿にされたと思いなさい。何かやられたらやり返しなさい。タダでやられる事は許しません。夢を見るのはいいけれど、必ず最後には現実を見なさい。』ですわ。
だから、王太子様の言うように身分にモノを言わせて彼女をって言うのは不可能なんですよね。そんなことをしたら私が家を追い出されてしまいますわ」
ま、私、家追い出されるわけないんですけどね。
家族は私を溺愛していますから。
……特に兄様は。
そんな兄様はここにはいない。
いつも私の隣にいたのに、今日はいない。
「それがどうした?そんな言い訳で自分のやったことがなくなると思うなよ」
殿下は私を冷たく睨みつけて言い放った。
……冷たい瞳なんて初めて向けられた。
心が少し、チクってした気がした。
「そうですぅ。私、凄くこわかったんですぅ。やめてって言ってもやめてくれないし、いくらシェレル様が好きだからって、やっていい事と悪い事があるとおもうんですぅ……」
アリーナはシクシク泣きならがそう言う。
やっていい事と悪い事?
どの口が言っているのよ。
なんだか凄くイライラしてきました。
「やっていい事と悪い事?それ、貴方が言えますの?」
「え……?」
何を言っているのかわからないって顔しないでくれます?
もっとイライラしますから。
「貴方は、私の婚約者を好きになって奪ったんですよね?それは、やっちゃいけない事にはならないのですか?
婚約者がいる人を好きになってしまうのは仕方がない事ですもの。
でも、それ以上はしてはいけないのではないでしょうか。それに貴方、王太子様だけでなく、他の婚約者がいた殿方にも手を出していましたわよね」
「そ、そんなっそんなこと……」
アリーナはぼろぼろと涙を流してその場にうずくまってしまった。
その姿は庇護欲を誘うのだろう。
周りにいた男達は一斉にアリーナに駆けつけようとした。
でも、周りにいた令嬢や子息の方々の冷たい雰囲気でわかったのか手出ししてこなかった。
「フリージア!!お前!見苦しいぞ。そんなにアリーナを虐めて楽しいか!?いくら俺が好きで、嫉妬したからって言っていい事と悪いことくらいわかるだろ!!」
王太子様はアリーナを抱きしめてすんごい形相で睨みつけてきた。
おかしな事を言いながら。
私、初めて、王太子様に睨まれて、初めて、怒鳴られました。
……びっくりです。
王太子様は、そんなに感情を露わにするのですね。
………私にはキラキラ王子様スマイルしか向けないのに。
私の事には、そんなに感情を出さないのに。
何故だか悲しくなってきました。
…もう、いいですよ。どうでも。
私だって、婚約破棄してもらいたかったんだ。
ちょうど良いではないか。
それにこれ、あれだ。
私がお母様から渡された本に書いてあったお話に似ている。
"婚約破棄イベント"だっけ。
かつて私が目標にしたもの。
あぁ、なら、目標達成ですかね?
「…王太子様。何を勘違いしているのでしょうか」
「は?勘違い?」
私は手を口に当てながら笑う。
あの本の悪役令嬢に見えるように。
「私、いつ、貴方を好きだなんて言いました?」
「……は?」
だから、何言ってるかわからないって顔しないでくださいよ。
そんなに理解力が乏しいんですか。
「王太子様は先程から、私の行為は嫉妬による為だと決めつけておりましたが何故でしょうか」
「そんなのお前が俺を好きだからに決まってるだろ」
王太子様を好きだから決まってる。
ふふっ。おかしいですわね。
私は口元は笑ったまま冷ややかな目線を王太子様に向けた。
「先程も言いましたよね。私、王太子様を好きだなんて言ったことないのですけれど。
何処からそんな自信が来るのでしょうか。
私、貴方のことはどーとも思っておりません。好きでも嫌いでもない。……あ、今は嫌いですかね。こんなに馬鹿な方だとは思いませんでしたわ。それに、そこの…アリーナ、さん。貴方いつまで泣いているんですか。
泣けばいいと思ってるんですか。泣けば、慰めて貰えて許してくれると。それ、偉い方々に通用するといいですね。ま、無理でしょうけど。世の中そんなに甘くないですよ。まぁ、だからと言ってへらへらしても駄目だと思いますけどね」
「……は?」
「……え……?」
2人とも呆けた顔して。どうしたんですかね。
婚約破棄?勿論ウェルカムですよ。
だってこんなキラキラ馬鹿王子。こっちらから願い下げですわ。
「婚約破棄はこちらからお願いしたく思いますわ。この足で陛下に進言しに行きますので。
これから2人で頑張ってください。
アリーナさん。平民出身で大変かと思いますが頑張ってくださいね。貴族世界で泣きが通用すると思わないように。あと、お勉強も頑張ってくださいね。私、陰ながら応援していますわ」
「では、失礼致しますわ。王太子様。ご卒業、ご婚約おめでとうございます」
そう言って私はその場を去ろう……とした。
このあとはだいぶ短編とは違うと思いますがよろしくお願い致します。