「仙人を目指す男」
仙人を目指す男は全てを捨てた。
お金も家も友達も。
全て捨てた。
山奥で一人の暮らし、住処も作らず定住しない。
何も持たず、何も関わらない。
仙人を目指せば目指すほど、まるで動物の様な暮らしになっていく。
「俺が目指す仙人って動物なのかな」
そんな事を考えて笑う事もあった。
この暮らしをしている事。自分が仙人を目指してる事、それらを誰かに知られる必要もない。
一人で生きていく。
それが仙人だと思っていた。
だって全てを捨てられない人間が仙人になどなれるはずがない、そうも思ってた。
それでも一つだけ男には捨てられないものがあった。
捨てられない、捨て方が分からない。
時間。
「どうやったら時間って捨てられるんだ?」
時間は皆に平等に与えられている。
大人も子供も男性も女性も、動物にだって時間は平等なはずだ。
しかし、男は一秒すらも時間を捨てる事が出来ない。
捨て方が分からない。
男は生涯その答えを求め続けた。
「無になればいいのではないか?」
そう思って座禅を組んだり滝に打たれたりもした。
それでも時間は流れている。
「時間を気にしなければいいんじゃないか?」
そう思って身体を木に打ち付けて痛みを与えたりもした。
痛みで頭が一杯になっても時間は流れている。
やがて時が経ち年老いた男は、一日のほとんどを寝て過ごす様になったが、それでも時間の捨て方だけを考え続けた。
やがて、その答え分からないまま男の命は尽きた。
死んだ男の頭に、神様の声が流れ込む。
「やっと答えが見つかったんじゃないかね?」
男の顔がパーッと晴れた。
「これだったのか、これでやっと仙人になれた気がするよ」
おしまい。