第一章(6)
なかなか思うように投稿できませんがよろしくお願いいたします。
エストラエル国の窮余
僕も数百年ぶりに地上に降りてきた、御供はアイラである
彼女は戦闘を得意としてる、護衛を必要ではないのだが
妻達は一人で行くことに難色を示した。
特にアイラは猛反対で自分の随伴を条件にした。
『アイラ、そんなに心配しなくても大丈夫だと思うのだが
僕は、ほら、自分で言うのも恥ずかしいけど、強い力を
持っているから』
これから行動する前にアイラが心配していた理由を聞いて
みたかった。
『佐竹さん……心配と言うか・・・・二人きりで出掛けたいな
って……』
恥ずかしげに俯く姿が普段の勇ましさとのギャップで可愛すぎ
るなアイラ、可愛いは最強の武器です、仕方ない……
『わかったよアイラ、それで何処か行きたい所あるかい?』
『何か食べに行きたい! 食事らしい食事がしたいの』
あ、そうか。普段の食事は栄養を取るのが目的で
ブロックタイプやゼリー状の食品で、食事ぽくないよな・・・・
長い寿命を得てからは食事に拘らなくなっていたな。
『そっか、アイラが食べたいと思う店に入ろうか、希望があれば
教えてね僕も一緒に探すからさ』
『有難う佐竹さん、コース料理みたいな沢山の料理を少しずつ
食べたいわ、貴方と旅立つ前は普通に食事をしてたから
それが懐かしいの。今でも作れなくはないのだけれど
食事ってだけじゃなくて、外食が特に懐かしいわ』
確かに彼女たちはこの宇宙に旅立つ前は普通に生活してた
んだよな、創られた世界だったが僕が前に住んでいた世界と
同じ様な環境だったな。ん~~アイラ以外も連れてくるか。
人通りの多い道を歩いていると多くの客で賑わっている
店を見つけた、窓から中の様子を窺うと僕の知識と照らし合わ
せるとファミリーレストランに近いと思った。
『アイラ、ここはどうかな?コース料理を出す店は後から
探すとして、この国の味付けの傾向なんかを確認するのに
この店は丁度いいと思うのだけど』
『豪華な食事は後の楽しみですね・・どんな料理が有るのか
楽しみです、ここに入りましょう。』
アイラの同意を得て店に入った、食事以外にも少し打ち合わせ
したかったのだ、地上に降りてきたのは気紛れではなく気になる
事があった。
エストラエル国は民主制であり治安も良く政治機構も安定して
いた、しかしラオビサウ共和国からの侵攻をされていた。
ラオビサウ共和国の目的はエストラエル国の豊富な地下資源である。
鉄鉱石を始め多くの金属を産出する鉱脈を有していた。
地下資源を活用した製品製造し周辺諸国に輸出することで国の
財政は豊かで国民は安定した労働環境の中で繁栄を享受していた。
侵攻するラオビサウ共和国は嘗ては豊富な森林資源を有する
広大な平野の国であった、しかし無計画に進めた工業化により
森林は伐採され保水力を失った森林は砂漠化が進み国土の30%
が生活できない地域となった。情報統制と身分制度により多くの
労働階級市民を統治していたが貧困と弾圧に耐え兼ねた市民を
中心に上層部に不満を抱く一部の執行部が先導し反乱を計画し
ていた。
『佐竹さん、月に移ってからは地上に興味をしめさなかった
と思うのですが、今回は何か理由があったのでしょうか?』
アイラが疑問に思うのは仕方がないか、この星に降り立ち
子を儲け、繁栄に必要な知識や力を与えてきた。
その頃は使命感の様な感情が有り積極的に関わっていたと
思う。
そして数百年の月日が経ち子孫が増え幾つもの国家が建設された。
子孫達には魔法に似た力と最低限の生きる術を教えただけで
後は自主性に任せていた。
集団が大きくなるに従い社会性が芽生え、統率する者や従う者など
個々の役割分担をする考え方が定着していく事で国家の基礎が作ら
れていった。
不思議だったのは民主的な思想の集団、社会主義的な思想の集団に
纏まった事だ、力や能力が拮抗していた集団は民主的集団になり
逆に能力差が明確な集団は社会主義的な集団を形成した。
この様に地球人類と似通った事になるとは・・・・
この星の人間は地球と違い生物的進化は無くホモ・サピエンス
として歩み始めた、進化の過程に違いがあったとしても同じ様な
社会性を示すのには少し驚いた、ライトノベルなどで描かれてい
た異世界物での世界観に時代背景や魔法の様な能力など、この世界
は似ていると感じている。などと考えていたがアイラが僕の考え
込む様子を心配げに見つめる視線を感じたので慌てて答えた。
『実はねこの国に侵攻しようとしているラオビサウ共和国なんだけど
指導者が国民想いで中々優秀な人物でね、ただ不運な人物でもある
そんな彼に興味があってね、月からでも観察はできるのだけれども
微妙な雰囲気は直接見た方が感じられると思ってさ・・・・
見に来たって訳』
『その人物、優秀なのに不運って何でですの?』
『ちょっと長くなるけど、いい?』
『よろしいですよ、是非とも聞かせてくださいな』
『僕が君達と出会う前に生活していた世界、地球って言う惑星
なんだけど、この惑星にも民主主義制や社会主義制など似た
ような政治体制の国があってさ、民主制の国を西側諸国、社会
主義の国を東側諸国って表現してたのね。
僕の住む国は西側に属していて自由・平等が約束された民主制
でさ、社会主義は自由が無いとか不平等だみたいに思われて
いてね、でも当時はその様な社会主義国家が存在していたのも
事実だったのだけれどね。』
『では民主制の方がよろしいのでしょうか?』
『あ~~説明不足だな、民主制の方が自由に振る舞えるとは思う
けれど、自由ってさ自分の行動に責任を持つて事だと思うのよ。
行動と選択の自由があるけれど、それに伴うリスクもあってね
選択によっては望まなかった生活を強いられる事もある。
それに貧富の差が必ず出るのよ。』
『では、社会主義の方が人々は幸せなのでしょうか?』
『ん~僕には経験が無いので詳しくはないけど、資本や労働
は国が管理していて労働に対して平等に対価を受ける。
だっけかな?社会主義って。
僕のいた国に入ってくる情報は、どこまで正確か判断でき
なかったけど同じ制度でも大国と小国ではそれなりに違いが
あった様に思うな、小国ほど独裁色が強く人々の生活は豊か
ではなかった様な……ゴメンよく覚えてないよ。』
『人々にとって幸せなのはどちらなのでしょうね?』
『どうなんだろうね・・・・政治体制は変わる事もあるんだよ
一部の人間に富が集中し貧富の差が問題になり革命などに
より資本主義から社会主義に移行した国もあったよ。
それに僕が地球を離れてかなりの年月が過ぎた、地球人類が
今でも存続してるのか・・・・
存続していたとして政治体制に変化があったのか・・・・
気になるけど確かめる術がないしね。
どちらも基本理念は素晴らしいのさ、ただ指導者や管理する
側が民衆の事を蔑ろにし自己の利益を優先に考える様になる
所謂不正腐敗だね。他にも色々あるけど、重要なのは制度
じゃなく人だと思うんだよね僕は。良き指導者であれば制度は
関係なく幸せなんじゃないかな。』
『そうですか、先程ラオビサウ共和国の事は聞きましたけど
このエストラエル国は平和に感じられるのですが……』
~~~ラオビサウ共和国侵攻の半年前~~~
『元首、そろそろ侵攻の決断を議会に報告せねば軍部と国民の
不満が収まらずクーデターが起きますぞ、何卒ご決断を』
『議長よ皆の不満や望みは我も理解しておるよ、国土の砂漠化
により食糧生産が減少し十分に国民に行き渡っていない事や
輸出の主力である農産物が減り外貨獲得が苦しい状況にあり
工業を支える鉱物資源の輸入量が不足し製造業の不振に伴う
従業員の賃金減少など国内産業の景気低迷が国民の生活を
苦しめている。我が国の状況を他国が考慮するはずもなく
逆に隣国のエストラエル国は鉱物資源の価格をつり上げて
いる、その事を知った国民はエストラエル国に激怒し軍部の
侵攻案を支持している。
自国民の為に他国に侵攻し略奪する行為は許される事なの
だろうか?』
議長のニコライ・ゲルシューニは元首のヴィクトル・アウクセン
の苦悩に対し諌める様に話し始めた。
『ヴィクトル、ここからは元首と議長ではなく友として話す。
浅学菲才な僕だが言わせてくれ、この世の全ての人々が等しく
幸せになる事は無いと思うんだ、幸せとは他者の不幸の上に
成り立っているのではないか?そう感じる時がある。
我が国の政治制度は皆が幸せになれるよう考えられた制度で
必ずしも希望通りとはいかないにせよ仕事と収入は国に保証
されている、向上心を有する者は理想と現実に不満を持つ者
が多い、だが職種によっては人数は限られるしな。
逆に現実を受け入れる者の多くは向上心を無くしている者が
多いよ、この事が国の発展に障害となっているんだがな。
だがこの景気低迷による生活環境の悪化は現実を受け入れて
た人々を不安に陥れ、そこに軍部が付込んだのさ……
この状況では俺でも他国に侵攻しようとしている世論に反対
するのは難しいさ』
『ニコライ、お前と話せて少し気が楽になったよ・・・・
早急に侵攻の決断をした事を国民に報告しよう』
~~~ラオビサウ共和国、国軍侵攻作戦本部~~~
『ビクテル・カストル最高司令官に報告です、元首ヴィクトルが
エストラエル国に侵攻せよとの命令です』
この伝令を受けたビクテル司令官は口の端をつり上げた
この会議室にはビクトル最高司令官ほか各部隊の上級士官が同席
していた
『ビクテル司令、この侵攻で獲られる物資の一部を国民に与え残
りを軍部の政治に対する影響力強化の為と我々の私財に充てる
事で安定した軍部の支配を……と考察したのですが』
『その通りだ、パウル・ホフマン参謀よ、確実に軍の力を掌握する
事は今後の計画に重要な意味を持つ。
軍部以外の状況はどうなっておる?』
『議会について報告します、議長はまだですが議会の多数派工作は
順調に進んでおります、侵攻で獲られる膨大な利益の供与優先権
を条件に過半数の議員が我が陣営に加わりました。
また、軍関係を含む主要産業の代表も利益供与を条件に我らに
協力の意志を示しています、以上報告します』
『順調なようだな、反元首派の勢力拡大と軍部の掌握が叶えば
軍部主導の政権が誕生する。
ヴィクトルの平和主義には呆れるばかりだ、エストラエル国
には義理もない、我が国が苦境にあるのを知りながら輸出額
を割り増ししておる、その様な国家に遠慮は要らぬ。
こちらもこの侵攻を期に政権交代を謀らせてもらう。
反対する者は意見をのべよ』
『ビクテル司令、政権交代後のヴィクトル元首の処遇は如何する
お考えですか?』
『ボナー・ガルチーニ准将、元首には永遠に退場してもらうさ・・
新体制を脅かす芽を潰さねばなるまい、ボナー准将よ言ってる
意味は理解してるな?その役目は任せるぞ』
ボナー准将は静に頷き他の上級士官も同意するように首肯した。
~~~エストラエル国、大統領陣容~~~
『ジェームズ・ハーディング大統領、重要な報告があります』
『ポーター・ゲーツ情報局長、何かね?』
『懸念されていた隣国ラオビサウ共和国ですが、我が国に侵攻
準備中との情報が現地諜報員から報告が上がっています。
我が国も防衛準備を整えるべきかと・・・・』
『予想よりも決断に時間を要したな、真逆とは思うが国力が
国力が落ちている国に負ける事はないだろうな?
ロバート・デイヴィス国防局長』
『不安要素は無いと考えます、武装は旧式で数も揃わず兵士は
疲弊している様子。それに対し我が軍は武装も兵士の状態に
問題は無く負ける事はないでしょう。
既に国境兵力の増員配備は完了しております』
『呉々も油断するでないぞ、物事には絶対は無いのでな。
よくぞ戦争を決断したものよ、国が疲弊した状態で勝算など
無いであろうに。景況が悪化し国民生活が困窮した状況で
我が国が送り込んだ間者による工作で戦争誘導、輸出品の
大幅な価格上昇など御膳立てもしたがな、この戦争に勝利すれ
ば広大な領地と労働力と言う名の捕虜が確保できる。
更なる軍備拡大を目指す我が国の需要な戦争だ、皆も良いな』
『〈〈〈〈勝利を大統領に〉〉〉〉』
~~~エストラエル国、商業連合幹部会議~~~
『リチャード・バートラムよ我が国の軍部も迎え撃つ準備
を決めたと聞いたが、敵を撃破した後の侵攻で我々の
不利益になるような事はないだろうな?』
『ジル・フィンク心配するな、ロバート国防局長に話は
通しているよ。ラオビサウ共和国の制圧に際しては
工場私設と従業員は無傷で確保の約束を取り付けている
男は労働力、女の利用価値は労働力以外にもあるしな。
今のまま貧しい生活を続けるよりも、捕虜の身分で自由は
無いが食うには困らんだろうよ』
『リチャード、捕虜と言えば聞こえは良いが、扱いは奴隷と
変わらんのではないか?
特に女の扱いは慎重にせんと、中には奴隷娼婦にする輩も出る
だろうし周辺国に知られぬよう隠蔽を徹底せねば騒ぎになる
であろう』
ここには国の経済に大きな影響及ぼす人員が集まっていた。
話は戦後の利権分配と国内要人特に軍部や政治家への献金を
市民に気付かれぬよう行う方法を検討する必要があった。
話し合いは難航し案が纏まったのは3日後だった。
◆侵攻一週間後◆
『佐竹さん、国境付近の状況はエストラエル軍が有利な様ですよ
ラオビサウ共和国は前線を維持できず数日内に後退すると噂に
なってます、国力が勝る国への侵攻は無茶だったのでしょうね。
このまま放置ですの?』
『判断が難しいよ、そもそも僕が地上に降りた意味は今の状況が
この世界にとって、好ましくないと判断したのさ。
ラオビサウ共和国の国土は広い、エストラエル国の領土になれば
世界の半分の領地がエストラエル国になってしまう。
放置すれば軍事的に有利になるエストラエルが世界を統一する
可能性が高い、この世界の人々の思想や政治システムは十分に
成熟しているとは思えない……でも政治に介入する事や僕達が
直接関わる事は避けなければと思う。
進むべき道は自らの選択によって決定されなければならない、
例えそれが破滅にむかってもね。
でも、折角ここまで成長した世界がさ無になる事は回避した
いからさ、もしもの時は一部の人々を救済する事も考えて
いるのさ』
『その様なお考えであれば、地上に降りられる時期は早すぎ
たのではありませんか?』
『そうだね、色々な意味でこの世界は分岐点にあると思うのさ、
富める国や貧しい国、争いを望まない国や軍備を拡張する事で
世界の統一を考えている国、他にも宗教・思想、理由は様々。
僕の知識には統一された世界は物語でしか知らない。
現実には言語や宗教の違い、国の併合などによる統治する者と
統治される者の軋轢。
国が大きくなる事での権力闘争や腐敗、モラルと倫理観の低下
等々が統一の障害となるのさ。
でもこの世界は僕の知る世界とは違った進化をしている、監視者
として長い時間を持つ者として経過を見たいと思ったのさ』
『では長期間に地上で過ごされるのですか?』
『そうだね・・・歴史に影響がありそうな事案が発生しそうな
時だけと考えているよ、今回は歴史の転換点だと思っている。
しばらくは観察しながら過ごすよ』
『ま!嬉しいわ、久し振りの二人の時間・・愛を確かめ合うには
十分な時間がありそうね、ちょっと頬が緩んできたわ』
『仕方ないな~~少し雰囲気の良い宿を探すかね』
『ええ……ポッ・ポッ・ポッ』
六話からは佐竹が地上降り自らが作り上げた世界を観察していく
話です、今後の世界の成り立ちに関わるかもしれません。