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どうぞ蔑んでください  作者: 渚シエロ
5/6

まわる

7



あれから数年が経った。経った、ではなく経ってしまった、と言うほうが正しいのかもしれない。結局あの朝から、謎の男からの電話は一度もかかってこなかった。あっくんと約束していた作戦会議も、ただの、いたって普通のデートになった。私はその年、のんびりと自分の好きなように勉強し、無事受験生をやり遂げた。涙を一つも流すことなく、お別れの儀式を済ませ、女子高生という名がついた自分を捨てた。なかなか良い気分だった。地元の普通の大学に合格した私は、普通の大学生になった。


「ねぇ、かわいい?」

「良いんじゃない」

「もー、なによ、かわいいって言ってくれてもいいのにー」

「はいはい、かわいい、かわいい」

「なにそれー、全然気持ちこもってない」

「かわいいって言えっつったから言ったんじゃん、うるさいな」

「うるさい!?ちょっと、そんなそっけないことばっかり言って、私のことほんとに好きなの!?」


1円、2円、3円。これも仕事だ。アクセサリーの仕分けをしながら頭の中で数える。カップルの前戯喧嘩を聞くことも仕事のうちだ。アクセサリー店のバイトを始めて2ヶ月ほどになるが、こんなようなことは日常茶飯事で、そうであるからこそ本当に気が滅入る。女、女、女、女、女、女、と、男。でも、私だって人のことを馬鹿になんてできない。男の前では、身体をふにゃふにゃさせて、声を高くして、すり寄って甘えるじゃないか。そんなようなことを考えると、また気が滅入る。同族嫌悪だ。恋なんてものはただの気の迷いだ。ああ、はやく家に帰りたい。大学のサークルには1つも入らなかった。だから言ってみれば私の生活は、バイトと、恋愛と、たまの勉強と、音楽だ。1円、2円、3円と数えることに飽きると、私はいつも頭の中で音楽をかけた。ラジオのようなナレーションとともに。


今日のミュージックは…どぅるるるるるるるる、じゃんっ!oasisのWonderwallです!


いや〜定番きましたね。


そうなんです。聴いているとなんだか自分までかっこよくなったような錯覚に陥ることができる、とても良い曲です。ドライブ中なんかには最高でしょう。一人で聴くのも良し、大切な人と一緒に聴くのも良し、です。


いいですね〜。デートにもぴったりかも!


それではお聴きください。オアシスで、ワンダーウォール。


〜♫


8


平中敦、それが俺の名前だ。俺はナオミが好きだった。ナオミのことはよく思い出す。未練たらしい、そう言われても仕方がない。未練はある。未練というか、もう二度と、あの少し赤く色づいた頬、すべすべとした白い肌、黒く健康な髪や可愛い小さな唇に、手を触れることができないこと、戯れた時に恥ずかしがって目をそらすあいつの顔に、唇に、キスをして俺しか見れないようにすること、ができないこと、を思うと、簡単な言い方だが、辛い。まあこれが未練というやつか。あいつはふわふわと風に舞う蝶のようなやつで、いつも俺は平静を装いながらも、必死に、あいつを追いかけていた。俺のスタミナが切れたのか、あいつを見失ってしまったのか、捕まえようとする時傷つけてしまったのか、他の誰かに捕まえられてしまったのか、正解は分からない。もう分かったところで、あいつが俺の腕の中に戻ることは無い。


9


久しぶりだな、諸君。俺の登場を待ってたんだろ、分かるぜ、俺にはなんでもお見通しだ。電話をあれ以降かけなかったわけってのは、まあ色々あんだ。もうちょっとあの女をいじめてやりたかったがなあ、あんたらもそう思わないか?いじめがいがあるよ。あれはもはやもう才能だね。あいつもあいつで喜んでたじゃないか、溜まりに溜まった正義の吐き口を見つけたってな風によお。最近のあいつを見てると、俺の昔の予想通り、ろくな人間にはなっていないな。女だとか男だとか、そんな外っ側の、ただの原子の集合体にばかり目を向けて、なんにも見えていない、なにも見ていない。目が死んでいる。見ることを恐れているようにも見えるな。不幸が心地いいんだ。文句を言ってるのが心地いいんだよ。悩んでる時間、何もしなくていいんだから、簡単だよな。ひとつ悩みが解決したら、またどっかから無理やり悩みをひっぱりだしてきて、こんなのがあったあった!なんて大騒ぎして、ほんと暇な人間だ。そういう人間はな、腐っていくんだ、腐敗だ。敗北。負け。

そういやあ、あいつは男が好きらしいな。やっぱりな、つまらない女だ。


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