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どうぞ蔑んでください  作者: 渚シエロ
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ラブヒーロー戦隊

6


私は、善は急げだと自分に言い聞かせ、さっさと出かける準備を済ませ、あいつがいる場所へ向かった。外へ出ると真夏の太陽が私の肌へ、ちくちくと、まるで俺を構ってくれとちょっかいを出すかのように、光で私を刺激した。日焼け止めクリームをしっかりと塗って、薄いピンク色のキャップを深くかぶった私は、そのちょかちょか太陽をはねのける勢いで、一生懸命自転車を漕いだ。紺色をしたお気に入りのTシャツが、はたはたと生暖かい風に揺れた。「夏の匂いだ」などと少女めいたことを言っている暇は今の私にはない。だけれど、あれだけ、謎の男電話事件が起こったことを怖がり、どうしようかと不安に思っていた私が、ある心の峠を越えてから、なんだか楽しくなってきていた。悪者をやっつけるヒーロー戦隊気分だ。ちょうど薄ピンク色の帽子を被っているし、ピンクでいい。か弱い怪獣なんて、全部、全部、木っ端微塵にしてやるわ!!


そうこうしているうちに私は目的地に着いた。あいつがいる場所というのは、あっくんの家である。あっくんとは私の2個上のお兄さんで、時々仲良くしている。言うなればボーイフレンドである。付き合いはもう2年ほどになる。私の友達の先輩のMくんが、ガールフレンドを探しているというあっくんを、ボーイフレンドを探している私に半ば強制的に会わせ、案の定私は簡単に恋に落ちて、あっくんも私のいたずらに負けて、それでそうなってしまった。あっくんは細くて、少し垂れた優しい目をしている。髪の毛は真っ黒で、ちょこっとだけウネウネしていて、触るとごわごわする。私はあっくんに抱きしめられているとき、あっくんの頭を撫でて、その髪の感触を感じるのが好きだ。こういう話をするのは恥ずかしくてあまりしたくないのだけれど、あっくんの紹介として一応間に挟んだ。


なんでも相談できる相手…とまではいかないけれど、なんだか役に立ちそうだし、頼ってみる価値はある、そう思った私はあっくんに全てこの事件のことを話すことにした。朝の10時、ピンポンを押すと、髪の毛はボサボサのままで、よれよれの訳の分からない英語が書いてあるTシャツと中学か高校かのジャージの短パンを履いた、朝のダサいあっくんが出てきた。

「何しに来たの。」

「おはよう、中、今入れる?」

「別にいいけど、何?俺昼からバイトだから一日中一緒にいるのは無理だよ、今日。」

「あ、それは大丈夫。すぐすませるから。」

会話をしている最中、私はずっと、今すぐ抱きつきたいとしか考えていなかった。もう不気味な男のことなどは一切頭から消え去っていた。恋なんてそんなものだ。


私はリビングにいたあっくんのお母さんに、お邪魔しますとにっこり挨拶をして、あっくんの後ろをついて行って、部屋に入った。ガチャンとドアが閉まる音がすると、私はまた変な緊張をしてしまったけれど、今日はそのことで心を衰弱させるのは、よそうと思った。2年も同じようなことを繰り返しているのにまだ慣れないなんて、自分でも呆れた。


ここでいつものように甘えてしまっては、本題に入れずに終わってしまうことが、さすがの私にもよく分かっていたから、私はあっくんと一定の距離をきちんと保ちながら、カーペットの上に座った。あっくんはベッドの上に座って、ぽんぽんとベッドを無言で叩いて、隣に来いと訴えてきたけれど、何度も言うが私は今日はちゃんとしなければならないので、堅い姿勢を保った。ふしだらな娘は怪獣を倒すことはできない、そういう理屈だ。


「なんかね、なんかね、変な電話がかかってきたの。」

「はあ。」

「昨日の晩と、今日の朝、知らない男から電話がかかってきて、なんだか知らないけど罵られたの。お前は汚いとか醜いとか言って。おまけに、私に、お前には制裁が下る、みたいなような意味深なことまで言ってきて、ああ、制裁が下るとまでは言ってないけど、なんかね、あ、そうそう、今に分かるって言うの。私が私の醜さにうちひしがれる日が来るってことね。私それで、頭にきたから警察呼びますよとかなんとか言ったの、それは今日の朝の話。そしたら呼びたいなら呼べ、俺は人間じゃないとか言ってくるの。やばくない?」

「それで、どうしたらいいかって話?」

「そう。」


冷静に話を聞いてくれるあっくんに、また惚れ惚れしながら、それを顔に出さぬよう、私は努力した。その後私は不可解な事件の様相を事細かにあっくんに話し、時間が迫っていたこともあって、作戦会議はまた今度にしようという話になった。それまでにまたあの男から電話がきても、決して、でたりしないこと、それがあっくんとの約束になった。


私は、部屋から出る直前、ドアの前であっくんに少ししゃがむように言って、丁度いい高さになったあっくんの肩にくいっと手を置いて、ほっぺにありがとうのキスをした。その後私はあっくんに、ちょこっと可愛がってもらって、上機嫌であっくんの家を出た。なんだか、もう別にあの電話の男のことなんてどうでもよくなっていた。私に罰が降りかかろうとなんだろうと、もうなんでもいいわ、私は無敵よ、そんな具合だった。私はすぐこうやって調子にのる。あの頃の自分にもし声をかけるとしたら私はこう言うだろう。


「頬を赤らめているだけじゃ、なんにも変わらないよ。」


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