試案1
「来たか、戦車(鉄サイ)」
草原を爆走してくる戦車(鉄サイ)の進路上に佇む少女が一人。髪は白銀で、肌は血の色が透けて見えそうな白。軍服めいた着衣は、左腕の部分が戦旗のようにはためいている。左腕を失っているようだ。いや、失っているのは左腕だけではない。不敵な笑みを浮かべる彼女の顔。その左半分はケロイドと無傷の皮膚がまだら模様を作り、左目は抜けるような蒼の右目と対を成すかのような灰色に濁っている。おそらくは、見えていないだろう。それらの特徴は、かつて少女が左半身に重篤な怪我を負わされたことを容易に想像させた。
突然、チィンと、澄んだ音が一つ響いた。
その刹那、少女は天高く舞い上がった。文字通り、舞うように空をかける少女。彼女は重力を嘲笑うかのような優美で軽やかな動きで、戦車(鉄サイ)の上に着地する。
その羽毛が地面に落ちるほどのわずかな音と衝撃にも戦車(鉄サイ)は敏感に反応したらしく、背からごちゃごちゃと生えた観測器官の一つと、機関銃が少女のほうに向く。
チィンと、再び澄んだ音が響く。それは、この世の邪を払う音だった。
「ふふ。じゃあな」
少女は自信に満ちた声でそういうと、共鳴剣を戦車(鉄サイ)の背に突き立てる。
瞬間、目を疑いたくなるようなことが起こった。戦車(鉄サイ)が、少女が剣を刺したところから、みるみる崩れ始めたのだ。クレーターでもできるかのように、サイの背が少女の剣を中心にして形を失い、代わりに細かい粒子の帯が、風に乗って世界に流れていく。
その想定外という言葉を飛び越えた出来事に、戦車(鉄サイ)は動揺を隠し切れず。観測器官と機関銃が、混乱を体現するようにむやみと左右に振りたくられる。
突然にその時はやってきた。少女の剣戟が命に至ったのだ。戦車(鉄サイ)は軋むような悲鳴を上げると、その場に頽れ、動かなくなる。
「なんだ。こんなもんか」
少女はそう言い捨てると、戦車(鉄サイ)の上から飛び降り、共鳴剣を鞘に納めた。
チィン、と広い世界に共鳴するような音が。また一つなった。