表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永久の夢物語  作者: 琥珀
出会い
2/6

旧校舎

いつもの学園。

いつもの放課後。

いつものメンバー。 


違うことと言えば、ちょっとした暇潰しを兼ね、学園の最奥地にある旧校舎に、オバケが出るとの噂を聞き付け、肝試しへ来ていたと言うことだ。


旧校舎と言えど、そこは他の学校とはまるで違う。

教室一つ一つに存在する、天井のシャンデリアはきらびやかに光を反射し、廊下に敷き詰められたレッドカーペットには、シミ一つ存在しない。強化ガラスの窓は埃一つなく、一流の職人達が手がけたであろう、机と椅子、棚、教卓などは、まるで新品の如く君臨していた。

電気も水もガスも通っており、現在でも機能している様な仕上がりだ。


流石は世界有数の名門私立学園。旧校舎の整備も完璧だと、一見して感心したのは誰だったか・・・。

とは言え、肝試し感覚は消えてしまい、完全な探検モードに切り替わってしまっていたが。


そんなこんなで、旧校舎を堪能し終えた一同は、帰り道をのんびりと歩んでいるのであった・・・




「結局、何もなかったではないか! 誰だ? オバケが出るなどと言い出したのはッ!!」


鮮やかな赤毛の少年、大道寺(だいどうじ) 龍也(たつや)の不機嫌そうな声に、周囲の九人は各々、三者三様の反応を見せる。

そこに共通していることは、何かを思い出す様な沈黙である。


「本当、何も出なかったよね。なのに、悲鳴だけが響くなんて、可笑しな話だと思わない?」


その中、笑いを堪える様な態度を取っていた、桃色の髪を短く切り揃えた少年、宇都宮(うつのみや) 真桜(まお)はニヤニヤとした笑みを龍也に向けた。


「ッ?! あ、あれは、貴様等が事あるごとに、脅かして来るから・・・」

「あの程度の小細工で、あれだけの絶叫をあげるのは、龍也だけさ。証拠に、君以外誰も悲鳴あげてないんだから」


ね? と周囲に穏やかに微笑み、同意を求めたのは、紫色の髪を肩下で緩く纏めている少年、綾小路(あやのこうじ) 朝陽(あさひ)だった。


「ホント、スッゴい悲鳴だったよねぇ! あれ聞けただけで、来た甲斐あったよぉ!」

「は、遥、少しは龍也様のお気持ちを考えるのですよ」


長い緑髪を靡かせるうり二つだが、雰囲気や態度、服装が正反対な双子。


「えぇ? でも、楓も笑ってたよねぇ」


ニコニコと無邪気さをアピールする、女子制服にツインテールの片割れ、有栖川(ありすがわ) (はるか)


「はぅッ・・・え、えっと、そのぉ・・・ご、ごめんなさいなのですよ、龍也様」


その隣で怯んだ末に、申し訳なさそうに謝罪する、男子制服にポニーテールの、有栖川(ありすがわ) (かえで)


因みに、一卵性の双子で、どちらも正真正銘の男である。遥の心は自称、女の子だが・・・


「謝られた方が、辛いんじゃねぇの? 実際、落ち込んでるし・・・」


黒髪をオールバックにしている少年、九条(くじょう) (ひかる)が示したのは、俯いてしまっている龍也だ。


「べ、別に落ち込んでなどいないのだからな!!」

「いや、思いっ切り涙目で言われても、説得力全くねぇ・・・ってうわっ、泣くなよ?!」

「な、泣いてなど、グスッ、ないのだからな!!」


慌てて顔と声をあげる龍也だが、その反動で堪えられなくなったのか、ぽろぽろと泣き出してしまう。


「泣かせてはいけないんだぞッ、輝!」


天王洲(てんのうす) 瑛琉(えいる)は、整った白い髪を揺らしながら、輝に向かって高らかに発言した。


「いっつも思うけど、俺のせいじゃねぇだろッ?!」

「だが実際、君が発言する言葉やタイミングで、龍也は泣き出すんだぞ! 龍也の怖がりと泣き虫は、もう誰もが知る常識とは言え、こう毎度の如く似た様なシチュエーションで、成長もなく泣き出すのは、きっと君のーー」

「止めてやれッ!! もう俺のせいで良いから、それ以上何も言うなッ!!」


瑛琉の発言がさらなるダメージになっているのを察し、輝は慌てて待ったを掛ける。


「だ、だが、こんな中途半端に止めては、また繰り返さ、ムグッ?!」

「良いから黙れッ!!」


瑛琉はまだ言いたそうだったが、口を塞がれては何も言えなかった。


「龍也様、泣かないで欲しいのですよ」

「そうさ! せっかく楽しかった冒険、涙で終わらせるのは勿体ないと思わないの?!」


龍也を泣き止ませに掛かる楓。

その隣から、元気いっぱいに訴えかける、オレンジ色の髪を無造作に振り乱した少年、綾小路(あやのこうじ) 夕陽(ゆうひ)である。


「夕陽の言う通りさ。龍也君、君が泣きながら思い出を終えるのは至って結構だし、正直、物凄く大歓迎だけど、人の思い出まで台なしにしないで貰えないかい?」


母親は違うが、実の弟の如く溺愛している夕陽の発言を受け、朝陽はとても迷惑だと言いたげに口を挟む。


「いや、泣く原因の半分以上、お前が原因だよな、朝陽」

「嫌だな、変な言いかがりは付けないでおくれ、輝君」

「白々しい・・・」


穏やか笑顔で知らぬ損ぜぬを噛ます朝陽を前に、フワフワな金髪を揺らしながら、源楼坂(げんろうざか) 幸弘(ゆきひろ)は、呆れた視線を向けた。


「夕陽はこんな兄を持って可哀相」

「何が言いたいんだい、ゆき君?」

「そのままの意味」



誰もが戦く視線を、軽くスルーする幸弘を前に、彼がもう何も言わないことを察したのか。朝陽は不満が残りながらも、それ以上は何も言うことをしなかった。

代わりに、夕陽の手をギュッと握りしめる。


「どうしたの、朝兄?」

「手を繋ぎたかっただけさ。ダメだったかい?」

「ゆきも?」

「・・・駄目?」


夕陽は右手を朝陽。左手を幸弘に握られ挟まれる現状、二人の間に険悪な空気があるにも関わらず、当然の様に頷いた。


「相変わらず、ウザいくらい仲良いね。それはいつも通りだけど・・・あ、玄関だね。と、ちょっと亮輔、お前、大事な親友が泣いてるにも関わらず、随分と静かだね。帰り道、一言も喋ってないでしょ?」


真桜はそんなお馴染みな光景に一息吐きながら、先程から黙り込んでいる少年を見た。


「遥も気になってたのぉ。ずぅっと、スマフォ見てばっかりだからねぇ」

「亮輔が龍也を放置するなど、珍しいんだぞ?」

「そんなに面白ぇニュースでもあるのかよ?」


緩いカーブを巻く青髪の少年、伊集院(いじゅういん) 亮輔(りょうすけ)はそこで、手にしていたスマフォ画面から視線を上げた。


「これ、見てよ」


そう言って、どこか真剣な表情をした亮輔は、全員にスマフォが見える様に掲げた。

それには、泣き止み始めていた龍也を始め、全員がそちらに視線を集める。


「何これぇ?」

「ノイズ、かい?」

「迎えの車、呼ぼうと思って電源入れたら、ずっとこの調子でうんともすんとも言わないんだ。みんなのはどう?」


画面いっぱいに広がるノイズ。

全員、玄関前で立ち止まり、電源を落としていたスマフォを取り出し、電源を付け始める。そして・・・


「全員、一緒みてぇだな」


結果、全てのスマフォの画面が、ノイズに埋まることになったのだった・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ