第一話
幾度となく戦場になり殺風景になってしまった山。その山中にあるサルティア軍陣地のテントの中で、今一人の男が叫ぶ事すら出来ずに絶命した
テント内にある人影は五人…何やら手で指示を出すと皆常人では考えられない運動能力で静かにかつ迅速にその場を離れて行く
五人の人影は蜘蛛の子を散らすように分かれた
再び五人が合流したのはその山の近くにある草原の中のシルディ軍陣地、この草原も戦場に何度かなっているので既に草原とは言えないかも知れない
五人が陣地内に入って行くと周りの空気が一変し、頭を捻り作戦を考えていたのであろう男が、その五人に気付き立ち上がった
ナイル『カイル殿!?』
カイル クロフォード…シルディ帝国の人間ならば誰でも知っている人物…恐るべき肉体の持ち主だ
カイル『ナイル、テントの用意を』
ナイルは頷くと大急ぎでテントを後にした
カイル『テントに着き次第次の任務の用意にはいる』
そう言い放つとカイルはテントを出て夜風を受けながら満天の夜空を見上げていた
シン『どうしたんですか?らしくない態度をとって』
そう言いながらカイルの横に立ち同じように夜空を見上げた
カイルは少し経ってから何もないさと言いながらシンの肩を叩きまた夜空を見上げた
シンは何かあったんだろうか?と思ったが何も言わずに夜空を見上げていた
少しすると走って来た為か息をきらせながらナイルが来た
ナイル『テントの用意が整いました』
カイル達はナイルに案内されテントに向かった
テントに着くとカイルは次の任務の説明に入った
カイル『次の任務は敵情視察、今回のような小競り合いはよくあるが、サルティアとイニアが同盟しようとしていると言う情報を得た。同盟されれば勝機はない…我らの任務はその話の有無の確認だ』
大三勢力の中で最も強い勢力は間違いなくシルディ帝国だろう
だが大差があるわけではなく、サルティアとイニアが共同で攻めてくれば間違いなく滅ぶだろう
勝機は0、もって一年
それだけは防がねばとシルディ帝国帝王レムはカイル達に命令を下したのだ
カイル『明日の昼ここを出発する。十分に体を休めるように、解散』
カイルはそう言い残し一人自分のテントへと向かった
カイルには悩みがあった…事の始まりはちょうど一週間前に受けた任務の時の事
内容は国内の情報を持ち出し亡命しようとしている一家を殺すこと
息子のレイと年の変わらぬ子を殺すことになった
カイルは戸惑った。そしてその子を無残な姿に変えたカヤルに腹が立った…その子の変わり果てた姿を見て胸が苦しくなった…
カイルは大切な事を思い出した…
10年前…まだknightに入隊したばかりだった頃に初めて人を殺す感覚を知った…
その日は怖くて眠る事さえままならなかったのに…
その時せめて殺した相手を覚えておこうと心に誓ったのに…
それから月日は流れ五年後…
assassinに任命された頃になるとそんなことは忘れ簡単に何も感じず人を殺めれるようになっていた…
心が感情をシャットアウトしたかのように…
何故…そんな大切な事を忘れていたのだろう…
割り当てられたテントの布団に寝転びながらそう思った
不意に外から自分を呼ぶ声が聞こえた…
誰だ?カイルは問いかける
レナですと応答が聞こえ入ってもよろしいですか?と問いかけられる
カイルは何も言わずに起き上がりテントの幕を開けた
レナ『夜分失礼します。隊長…怪我をなさっているでしょう?』
カイルは考え事のせいで気付かなかったが何かで擦って切れたのか二の腕に傷を負っていた
レナ『手当てします。化膿しては困るでしょう?』
カイルもそれはそうだとレナをテントに入れ腕を出した
レナは手当てをしながららしくないですね…何かあったんですか?と訪ねた
がカイルの返答はシンの時と同じで…作り笑顔で何にもないさと言うだけだった




