襲撃(六話)
予約投稿を使ってみてるのですが、毎日更新できる人は素晴らしいと思います。色々あると難しかったり、ほかの作業があるとどうしても億劫になったり難しいですね。
砂漠を越えて、俺とロドスの悪魔人形が疾走する。
徐々に足元が平原と変わり、木々を避けるように走り抜ける。
大きな煙が立ち昇る問題の村まであと少し、手に携える杖にも力がはいる。
迷宮に居ながら外の世界でこういった実感を味わえるとは思いもしなかったが、気分は悪くない。
「ベイル様。現状が把握出来ておりません。
とりあえず様子を見るという事で宜しいでしょうか?」
ベイルはその変に転がっている枝を手に取ると魔力を通して、たんなる枝を瞬時にして魔杖に変化させた。
普段から杖なんてお飾りにしているベイルが、魔杖を取り出すのは本当に珍しかった。
どうやら現在で持てるだけの全力を使う気でいる様だ。
ここ一帯を全て燃やし尽くす気でもあるのだろうか?
魔力が枯渇していく中で、平然と魔力を使うロドスに俺は思わず笑ってしまった。
「どの口で喋ってるんだ?
様子見をするにしては随分と嬉しそうな顔をしているじゃないか」
「フフフッ。これは一本とられました。
迷宮で魔物退治をしても面白みがありませんでしたので。
思わず口角が上がってしまいました」
「程ほどにしてやれ?
まあ、俺の方は魔力の残量が安定しない。
戦闘があるとすれば任せるとしよう。
人間達からの放出される魔力があれば先に回収させてもらうぞ」
「そこはお譲り致します。
ベイル様はまだまだ悪魔人形の扱いに苦労なさってるご様子ですし」
「一言多い。
まあ、弁解の余地は無いな」
二人の悪魔が村の柵を飛び越える。
俺はしゃがみ込んで、あたりを警戒。
「行きなさい。そして調べるのです」
ロドスはそのまま杖をふるって周囲を索敵魔法を使う。
杖から発光した緑色の珠が空中に八つ浮かび上がり、それらが村の隅々へ飛んでいった。
あたりから立ち込める血の臭いが俺の体を誘う。
あらゆる人間の感情が魔素として漂い、俺の体へと消えていった。それは負の感情が大半で、俺の抜けていった魔力を埋めていく。
近くに見える家々には火がつけられ燃えあがり、住んでいたと思われる村人の死体が転がっていた。
俺は即座にそこに倒れていた老人の遺体に近づき手を置く。
まだ、温かみのある肉体から、離れかけている魂を手から吸収し若干の魔力を回復させた。
それと同時に、老人の魂が俺の悪魔人形に蓄積される。そのまま完全に吸収しても良かったのだが、俺は運が良いらしい。どうやらこの亡骸はここの村長だったようだ。
『ドナタデスカ……クルシイ……ココハドコデスカ』
老人の魂の声が俺の中で響く。
『お前は此処でどうやら死んだらしい。
俺はたまたま通りかかった魔法使いみたいなものだ。
お前が良ければ助けてやっても良いが……。
どうする?』
『タスケ……ウレシイ……デスガ……ムラビト……ヲ……オネガイシマス』
老人の魂が俺に直接懇願する。
自分の命より村人を優先するとは、中々優秀な村長の様だ。
魂の色も迷宮に入ってきた冒険者よりも綺麗な色と形をしている。ここに悪魔がいたとすれば、好んでその魂を喰らい尽くしただろう。まあ、俺も悪魔となんら変わりはしないが……。
今はそういう考えを別においておく。
『俺は優秀な奴は種族問わず好む。
その心意気に免じて俺の使いにしてやろう』
魔法で手に入れた魂を逆に老人の体に戻す。
勿論、死んだ人間を生き返すのではない。
新たな俺の眷属として生まれ変わらせるだけだ。
ズタズタに引き裂かれた体が、神の奇跡のごとく塞がっていく。そして頭に小さな二本の角が生え変わり、老人がゆっくりと目を開いた。
「お、おおお……力が漲ってきます」
息を吹き返して俺を見るや否や、両手で俺の手を掴む。
「ありがとうございま……す!
このご恩は決して忘れま……せん!
ですが……村の者達をお願い致し……ます!
わ、わたしは村長をしてい……ました。
ロドールといいます。
今、この村は野盗の連中に……襲撃を!!」
ロドールと名乗った村長が俺に懇願する。
俺はその手を軽く振り払って、壁に寄りかからせる。
「……なるほどな。
まあ、そこで安静にしてろ。
ロドールといったか?
お前は今、生まれ変わったばかりだ。
姿かたちは以前のままとはいかないが、これから大きくお前の人生は変わることになるだろう」
「わたしはどうなっても……構いません!
何卒、何卒! よろしくお願いいたします!」
俺が頷いて村長を安心させると、興味気にロドスが歩み寄ってきた。
「現地人を使うのですね?
とても利に叶ってると思います。
記憶と魂を残して、一体何に生まれ変わらせたのですか?」
「うん?
まあ、魔力をかなり持っていかれたが、そんなに強い奴ではないぞ?」
俺は次に倒れている亡骸を見つけると、そのまま手を押し付けて同じような作業を開始する。
「鬼人だ。これなら差して問題は起きないだろう?」
鬼人、それは人を模した種族である。
人間と何ら変わりはないと思われるが、それはそういう風に見せかけた魔族ともいっても良い。
力は人間の数倍を持ち、食欲も旺盛だ。
食べ物が無ければ、人だって食すことがある。
性格は凶暴な者から温和な者まで多種多様だが、村人風情には丁度いいだろう。問題が起きたらどうにかすればいい。
何より人間よりも力が上だしな。
「鬼人ですか……それは良いですね。
適材適所かと思われます。
しかし、悪魔人形からでも迷宮の力は健在ですか……私でもそこまでは計算外でした。
流石でございますベイル様」
ロドスは関心するように俺の力を見て喜ぶ。
「まあ……余り使い勝手が良い力でもない。
手に入れた素材を魂と接続させるのには新鮮な肉体と魂が必要だ。
それをさらに創造して別の生き物に切り替えるのは『迷宮』でなら簡単な事だが、外の世界ともなれば成功率はそこまで高くは無いだろう……。
ここの連中は何故かはわからないが、迷宮の魔力に影響があるようだからな……上手くいった様だ」
「なるほど、これも博打というわけですか……。
しかし魔力をかなり持っていかれそうですね……。
仲間としては申し分ないでしょうが……。
魔力は如何いたします?」
俺が二人目の村人の息を吹き返させながら、うーんと考える。
確かに魔力はそこらじゅうに漂ってはいる。
それでも、使える数は限られている。
魔力が足りなくなれば、俺自身も倒れてしまうが……。
「それを拾ってくるのはお前の役目だろう?」
それを聞いてロドスはポンと手を叩いていった。
「そういえば、そうでした……。
では、ちょっと辺りを見回って来ましょう」
賢者は嬉しそうに、悲鳴のあがる方角へと走り出した。