魔鉱石(三話)
「……なるほど?」
興味気に俺が聞き入る。
「魔鉱石とは、自然に溜まった魔力が結晶化したものです。
これを人間達は魔法をつかう上で様々な触媒に使用したりもしています」
ロドスは言うなり、空中に浮かせた魔鉱石を操る。
「例えば火」
まるで手品のように鉱石から火が現れる。
「例えば水」
続くように今度は鉱石から水が湧き出ててくる。
「例えば風、そして土」
さらに魔力が込められ、風が舞い、砂塵が持ち上げられる。
「この様に様々な魔法を具現化させるのには魔鉱石です。
火、水、風、土といった四元素も人間だけでは操る術が無いのでして、こういった触媒が必要となったわけです」
ロドスが軽く説明を終えた瞬間、魔鉱石は粉々に砕けた。
「しかしながら、魔鉱石といえどもただの鉱石。
粗悪な魔鉱石では強い魔力には耐えられず、少し力を強めただけでごらんのとおり砕けてしまいます」
「なるほどな?
しかし、それが迷宮を生かす術と何処に関係性がある?」
「常々不思議に思ってたのですが、人間の世界にあるはずの魔鉱石ですが、この迷宮ではそれを見ることは滅多に余りありません。
魔族や魔物に関して言えば、彼らはそもそも魔力を媒体とした存在なので魔鉱石という触媒が必要と言う訳ではありません。
ですので、迷宮において魔鉱石とは『必要ではない』から、存在していないと思っていたのですが……」
そこでロドスは思い出すように人差し指を一本みせる。
「調べているうちに一つの仮説に行き当たりました。
迷宮は魔力をエネルギーとして必要としているようですが、魔鉱石とは魔力の塊の様な物です。
そんな物質を迷宮が黙って見逃しているでしょうか?
いいえ、見逃すはずがありません。
吸収できるものは何でも吸収するのが迷宮というものです。
迷宮内部にある魔鉱石の大半は『迷宮』という生き物に見つかり次第吸収されていたと思われます。
そうすれば、魔鉱石が見つかることは余り無いでしょう」
「なるほどな。魔鉱石は魔力を蓄えて存在していたとなれば、それは迷宮にしても美味しいご馳走だったというわけか……。
しかし、そうなると今見せてくれた魔鉱石は何処にあったのだ?
話をきけば、魔鉱石は全て平らげられていることになるぞ」
「今お話したとおり、まさにこの話は副産物でした。
私はただの鉱石へ『特殊な魔力』を送り込むことによって魔鉱石を作る事に成功しました。といっても、これは人間だった頃にも研究をしていましたので、長年の成果ともいえます。
これを媒体に私は実体を作る研究をしようと思っていたのですが、そこで何故魔鉱石が見つからないかを愚考したわけです。
しかしながら、現在の私も迷宮の住人で御座います。
いくら魔力で魔鉱石を作っても迷宮の魔力を迷宮に戻すだけになってしまうので意味はありません。
それならばと私はこの魔鉱石が人間の世界で大量に出回っているのを知っています。
つまり、何らかの方法で外の世界に出て魔鉱石を回収することが出来れば……」
そこで二人は軽く笑みを浮かべる。
しかし同様に俺は大事な事を聞いた。
「なるほどな。迷宮に負荷がかからなくて魔力の回収が楽に済むという訳か……。しかし、そうなると俺達では対処が出来ないな。
俺達は迷宮に縛られている身。迷宮の外に出るとなると魔力の供給が止まり消滅してしまうかもしれないぞ?」
そう、俺達は外に出ることは基本的に出来ない。
仮にできたとしても、迷宮からの魔力の供給が止まってはどうしようもない。人間達の様に魔力を極力使わないよう、気をつけねばならないし、死んだら元も子も無い。
「そこでモノは相談なのですが……。
魔人形を使っては如何でしょう?」
死霊が笑みを崩さずに悪魔の如く提案する。
なるほど人形を使って、外へ出るという案か。
「……悪くは無いが。
あまり好ましい案ではないな」
俺はため息交じりにそう答えた。
「魔人形は本来迷宮に入ってきた冒険者を惑わす為に作られた、いわば囮の様なものだ。あれを使って外に出ることは容易いが期待はしても無意味だぞ?
魔力が切れれば魂の入ってない木偶人形と変りはない。
というか崩壊してしまう」
確かに魔人形という人形を使えば外に出るのは造作も無い。
魔人形とは、冒険者の格好をした人の様で人じゃない人形の事だ。
冒険者の様に戦うことも出来、人の様に感情を露にすることも出来る。人と同じ作りはしているが根本的に違うのはやはり、魔力で動き操ることができる点だろうが、逆を言えば魔力が枯渇すれば、その人形は崩壊してしまうデメリットもある。
そういう条件付けもあって迷宮で、冒険者を惑わすにはうってつけの人形だったのだが、それを外に出る道具として使おうとは思いもしなかった。
その魔人形を使うとして、足りなくなる魔力をどうするのかが気になるところだ。
「我々には時間はあまり無いと思います。
なればこそ、そういった物でどうにか魔鉱石を回収出来ないかを考えるべきかと……」
ロドスのいう事も一理はあった。それに待ち構えていても冒険者が来ないのだ。こちらから出向く必要性はあるかもしれない。
俺は迷宮を管理している者として、どう判断すればいいか考えようとした。が、考えてみれば、冒険者が来ないのだ。
外の世界がどうなってるのかは知っておくべきなのかもしれない。
「……それで?
魔人形を使うとして足りなくなる魔力はどうする?」
俺の問いにロドスは無いはずのマントを翻すように答えた。
「外の世界に漂う生命や魔鉱石から奪うのですよ」
なるほど、死霊らしい考え方だ。