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続、暇な日々(二話)

「楽しそうでなによりですなベイル様」


 唐突に三兄弟の間をぬう様に、死霊が一体現れた。


「でちゃーーー!」

「ヒィィィャーーー!」

「おおお落ち着けっおおおお前ら!

 ロドス様にししし失礼だろ!」


 三匹はガタガタと震えながら、一瞬で端に逃げると

玉座の間にある整列された支柱の影に隠れて、こちらを注意深く見る。

 どうやら彼らは実体が無い相手は苦手らしい。

 良いのかそんな『部屋の精』で、と俺は思う。

 

 骸骨の姿を持ち、尚生きる屍として実体を捨てた者。

それが死霊だ。元々は冒険者だった者も居たり。

中には古い時代から死霊となって彷徨う者も居る。


 そんな中でも彼、『賢者』の異名を持っていたらしいロドスは俺の親しい友人の一人でもあり、配下でもある。

 元々は名のある人物だったらしい。

 彼は死後、とある事情により悪霊となって放浪していたらしいが、魔力の塊にも見えたこの迷宮の中にウッカリ入ってしまい、そのまま吸収されてしまったらしい。

 迷宮に取り込まれた事により、死霊の中でも上位の存在となった彼は自らの自我を取り戻したらしい。

 それまでの彼は、人を襲い生気を奪う亡者となんら変りはなかったと本人は言っている。


 迷宮が人を区別するという事はない。

 侵入者とみなされれば、それを捕まえる様に動いたり、魔物が襲い掛かってきたり、外敵とみなされれば魔物であろうとも、何でもかんでも取り込んでしまう。

 取り込まれた生物は、基本的に迷宮の魔物と成り果て、侵入者や敵対者を駆逐するだけの意思の無い生き物になってしまう。

 もちろんロドスみたいな例外も何人かは居た……。


『一度目の死は迷宮の為に。二度目の死は迷宮の礎に……』

 なんてのは意思がある魔物が口走った昔の面白いことわざだ。

 冒険者として迷宮に挑み、敗れて魔物と化し。

 その魔物が冒険者に敗れて、二度目の死を迎えると、次に生まれてくる魔物には完全に意識なんてものが無くなるからだとも言っていた。


 考えれば考えるほど頭が痛くなる話だ。

 迷宮とはいったい何なのか?

難しすぎてサッパリわからん。


 とにもかくも得体の知れない迷宮での理で俺の知っている限りの知識はそれくらいだ。

 そんな俺もその迷宮の中で存在しているモノになるからには、迷宮から完全に孤立することはほぼ不可能だろう。

 それこそ、新たな器を用意でもしないかぎりどうしようもない。


 また、ロドスという死霊は自我を取り戻してからというもの、生前の知識を活かして魔法の研究に明け暮れている。迷宮の中でしか存在が出来ないと知って尚、やりたい事は沢山あるらしい。うらやましい限りだ。


「ロドスは相変わらずだな。今日はいつになく薄っすらと見えては、半分消えるような素顔が恐怖をそそるぞ」


 俺が死霊に顔のことについて指摘すると、彼は面白がるようにクツクツと笑う。

 今の彼は死霊であるのだが、普通の死霊とは違って見えることがある。

 それは顔だ。生前の肉付のある老人の姿をするかと思えば、薄っすらと点滅して骨の姿に戻ったりと忙しない。衣服も無いはずなのに、薄っすらと金色の法衣を着飾ってるように見えたりもする。


「おやおや、それはそれは研究の成果が現れていると言えますな。

 何分、鏡にも映らぬこの身ゆえ」


 そこに無いはずの法衣を揺らし死霊が頭を下げる。


「死霊が生霊にも見える研究……だったか?

 成功すれば神も驚くだろう。

 ついでに俺も驚く」


 俺の言葉に、ロドスは首を振る。


「いえいえ、迷宮にて吹き返した魂です。

 こんな身なりで神罰を貰いたくはありません。

 また神に驚いてもらう必要もありません。

 それと、生霊ではありませんよ。

 生前と変らない姿に戻る研究ですので」


「人間の姿に戻る事が重要だ……と?」


 俺の問いに、ロドスはさらに首を横に振る。

 何年も同じ問いに飽き飽きしているのでは無いかと内心俺は思うのだが、俺の知っている限りでの数少ない人間だった奴だ。

興味は尽きない。


「いえ、前にも申しておりますが……。

成功といえる成果としては、姿、形ではなく、元の力を取り戻すという事になります。この姿ですと、どうにも魔力が足りません。それに、使える魔法も微々たるモノです。散ってしまった魔力を取り戻すには少しでも生前に近づける必要があるのです」


 そういって、ロドスは納得していただけましたかと笑みを浮かべる。


「物は言いようだな?

 では、一番目が力を取り戻すとして二番目は?」


「やはり生前の姿でしょう。

この姿はあまり好きではありませんので」


 観念しましたとばかりに死霊が答えた。

 そりゃあ、元に戻れるなら元の姿の方が良いよな。

 使い慣れた体というのは、どんな姿にせよ使いやすいのに変わりはないのだから。


「ボース! ボス! ボッス!」

「ぼっしゅ! ぼーっしゅ!」

「み、見回りにいってきやっすっ!」


 三匹はこの場に留まりたくないのか、俺にそういうと一目散に逃げていった。

そこまで毛嫌いしなくても良いと思うのだが……。


「やれやれ、もう少し友好的になってほしいものです。

 何度顔を合わせても、ああなのです」


 死霊がさびしそうに言う。

 まあ、生きている者に対しての執着かもしれないが。


「気持ちは分からないでもないな……。

 それで? それだけを言いに来たのか?」


「おおっと、いけません。

 そうでした。そうでした。

 大事な件を忘れてしまうところでした。

 ここ数年、いえ、数十年めっきり侵入者が現れないと思いませんか?」


 ロドスが心配そうに疑問をぶつける。

 死霊の賢者でさえ、この事態はやはり異常だと気がついたのかもしれない。

 今起きている騒動とすれば、意思の無い魔物達が勝手に争いあっているくらいなのだ。

 それはそれで、めんどくさい事でもあるが、迷宮が勝手に復活させているので問題は無い。

 問題はないのだが……。外からの侵入者が無いとなると、それは問題だ。


「そうだな。全く感じもしない。

 このままでは迷宮が内部の魔物達を本当に食べてしまうかもしれない」


「そこで私の出番という事です。

 副産物ではありましたが、迷宮を生かす術を見つけたのです」


 ロドスの言葉に俺は興味を示した。


「それは凄い話だな。それでそれはどんな手法を用いるんだ?」

 俺は身を乗り出して答えを待つ。

 しかし、死霊のロドスが言うのだから、それは恐ろしい話なのかもしれないと感じていた。

 まさか、魔物同士で殺し合いをさせ続けるとかではないよな?

 いや、その場合迷宮に還元されるだけで、増えることは無いな……。

 むしろ魔物を作り出すことへの負担が大きいような……。


 ロドスが手をかざすとそこに一つの石が浮いて現れた。

 それは見たこともある石ではあったが、迷宮に置いては珍しく怪しい輝きを放つ鉱石だった。

「魔鉱石です。人間の世界には極ありふれてあるはずの素材の一つですよ」

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