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暇な日々(一話)

 思い返してみれば、迷宮というダンジョンの主をして、どれだけの月日が経過したのだろうか?

 むしろ自分がいつ生まれて、いつから迷宮を管理していたのかを疑問に持つべきだったのかもしれない。

 気がついた時には迷宮を管理していた主というのは、中々にホラーではないだろうか?

 むしろ今までそんなことも考えなかった俺を褒め称えたいかもしれない。

 凄いな迷宮の主、あんた馬鹿以外の何者でもないな!

 …………いやまあ、自分で言ってて空しすぎるが。


 つーか、暇過ぎるだろう?

 もっとこう、侵入者が波の様に押し寄せてきて最下層までやってくるようなイベントは無いものだろうか?

 この際勇者でも、魔王でも、神でも、邪神でも何でも良いくらいだ。

 侵入者なら誰でもウェルカムだ。

 折角作られた迷宮が、肩透かしすぎる。

 といっても、俺が作ったわけではない……。

 俺はあくまでも迷宮の主、迷宮を管理する者として誰かに生み出された存在あって、製作者(クリエイター)ではない。


 勿論、作る事も可能だとはおもうが、これ以上この迷宮を魔改造しても仕方が無い気がする。

 そもそもがこの迷宮『広すぎる』のだ。

 まあ、元から『広すぎた』わけだから、こうやって侵入者が全く最下層まで来ないというのが現実なのかもしれないが……。

 …………せめて広さを狭く出来たり、転移装置(ゲート)等が作れたりすれば、まだ暇を潰せたかもしれないが、そんな技術は俺の知る限りでは持ち合わせていない、無能すぎる管理者だ。


 せめて、せ・め・て・! 迷宮が魔法生物のような生き物でなければ、魔物をけしかけて大穴をあけたり、魔改造も出来たのだが。

 目に見えて大きな改築をすると元に戻ってしまうというふざけた機能があったりする……。

 誰だよこんな駄目な機能を迷宮に積ませたやつ……。


 そんな事を考えながら、石作りの玉座に座りながら俺はため息をついた。

 今日も今日とて、迷宮の最深部にある『玉座の間』にて俺は暇を持て余していたのだ。


 褐色の肌を隠すように、全身をローブで隠し、魔族特有の尖った耳と、長い白髪が少し見え隠れしている。

 つまるところ、見た目は人間の男と大して姿かたちは変わりないのが俺こそが迷宮の主だったりする。唯一違う点とすれば、いつ寿命を全うするのかが分からない。それこそ何千年も生きられそうな気がする点だろうか?

 ここでポイントなのはあくまで『気がする程度』という事だ。

 周りに知り合いの迷宮の主が居るわけではないので、俺には自分の寿命がどれくらいなのかわからない。

 体調を考慮するとなれば、健康状態は良いと思える様なそういった感覚ではある。


「暇だ……」


 俺こと迷宮の主『ベイル』の口からポツリと愚痴がこぼれる。

 もう何度この同じ言葉を呪詛のようにつぶやいたかも忘れてしまった。

 迷宮の主とは本当に暇な存在なのだ。


 さらに思い出してみれば、迷宮が出来てからというもの、攻略を目指して侵入してきた組で、最高で中層辺りまでが人間達の限界だったか……?

 あの時は確か……ああ、魔法使い率いる冒険者の群勢だったか……。

 いやはや、懐かしいな。

 あれも数百年前の出来事のような気がする。

 魔法使いが魔法で魔物を消し飛ばし、冒険者達がハイエナの様に宝箱を漁っていたな。実にほほえましい光景だった。

 俺は最下層から動く事は無かったが、迷宮内で起きていることは目を瞑ることで何処からでも見ることが出来た。


 時には魔物を配置して襲わせてみたり……。

 時には罠をしかけて冒険者達に警戒を怠らないようにと諭してみたり、いたせりつくせりしてやったな。


 宝箱を見つけたときの喜ぶ声や、魔物に切り刻まれて悲鳴をあげる声や、罠が発動して絶望の産声をあげる冒険者達が懐かしい。本当に懐かしい。

 おおっと、話がそれてしまったな。

しかし、奴らでも中層までが限界だった様だ。

 実に残念な奴らだった。

 勿論迷宮に負けたというわけではない。

 彼らは自ら帰ったのだ。

 道中で手に入った宝を手に満足げに外へ帰還したというのが正しい。


 その後は低層には冒険者の群が押し寄せてはいたのだが、中層に立ち向かう猛者は一人も現れなかった。

 低層だけで満足してしまったのか、はたまた絶望の味をお腹いっぱい食べ過ぎたのか……。


 実際のところ、迷宮低層と中層には魔物の質よりも罠の質にあった。

 低層の地下一階~五十階にかけては小物のオークやゴブリン、それに魔虫が済んでいる程度で冒険者達にしてみれば実害は少ないはずだ。

 むしろ中層の地下五十階~百階には罠が多い。

 折角宝箱を見つけたとしても、罠を解除出来ないと宝箱が爆発したり、毒の霧が充満したり、宝箱に設置された電撃により消し炭になったり、他には警戒音が鳴り響き、魔物の大群が押し寄せてきたりなんてのもある。

 勿論これはごく一部の罠で、他にも色んな罠が待ち構えている。


 だからこそ、百階から進む冒険者達には敬意をはらって、階段を降りる手前に立て札が設置してある。この石作りの立て札は俺が作った作品の一つで、俺の手下によって運ばれ設置してある物だ。

 『ここより警戒を解く無かれ』という一言だけのシンプルな物ではある。迷宮主からの粋な計らいだ。


 似たように、地下百階、地下百五十階にも同じような立て札を設置してある。是非見に来て欲しいものだ。

 また、地下百五十階から地下二百階には、凶悪な魔物たちも控えている。ここまで来れれば、勇者と名乗っても偽りはないだろう。ただし、生きてそこに居られればだが……。


 しかしそんな、迷宮にも飽きてしまったのか、昨今は誰も入ってこない。昨今どころではなかったな、何年も人間の姿を見ていない気がする。

 これはもう廃迷宮と呼んでも過言ではないかもしれない。

 迷宮が迷宮としての役目を終える日も考えた方が良さそうだ。

 というか、俺が暇で仕方が無いだけかもしれないが。



「ボース! ボス! ボッス!」

「ぼっしゅ! ぼーっしゅ!」

「最下層の見回り完了しやしたーっ!」

 唐突に、人間の子供サイズくらいの魔物が三匹、叫びながら俺の前に走ってきた。狼の頭を持つ獣人に近い存在で彼らは『コーベンホルト』俺の配下にして、優秀な部下達だ。二足歩行でトテトテと走ってくる愛くるしい姿とはうって変わって、手には大きな手斧と盾を持っている。


 元々はただのコボルトだったのだが、最下層で暇つぶしに育ててみたら、三匹だけ普通のコボルトから進化してしまった。


 また、俺と同じように中々寿命が来ないので、魔物から一転して他の種族にでもなったのかと尋ねてみたところ。


「「「コーベンホルトに不可能なしっ」」」


 と答えたくれた。

 配下の死霊達に尋ねてみたところ、コーベンホルトとは『部屋の精』と云われている存在らしい。自分達が部屋と認めた場所ではどんな相手にも引けを取らないとか……。精霊に近い存在なのだろうか? 魔物からそんな者が生まれるなぞ聞いたこともないのだが……。


 彼ら曰く、迷宮事体が部屋として認識してるらしい。

 試しに、最下層から中層までダッシュで駆け上がり、中間地点で立て札を触って来て、戻ってくるという任務を与えてみたのだが、余裕でクリアしてしまった。

 道中にいた凶悪な魔物達をかいくぐり、罠を避け。

時には敵を打ち倒し勝利する姿に、心打たれたのは云うまでもないのだが。 俺の頭の中で愛くるしい生き物=凶悪な殺戮者という認識が出来あがってしまった。

 無駄に強いなコーベンホルト。


 本気を出せば、優秀な冒険者でさえ一捻りだろう。

 小さい体をしているが、フットワークがある。迷宮の索敵から、警戒、調査には彼らほどの熟練者は居ない。


 それに可愛い姿に愛嬌もあるので問題ない。

 大事な事なので何度も言いたいくらいだ。

 いつか、現れる冒険者達を見事蹴散らせてくれると信じている。


 今日も小ぶりの尻尾が一段と可愛いくみえる三匹を眺めつつ俺は尋ねた。

「ご苦労。変ったことはなかったか?」


 すると三匹はビシッと整列して尻尾をピンと立たせた。

「いじょーナッシ!」

「いじょーありましぇん!」

「いつもどおりでっ!」


 三匹が嬉しそうに報告をしてくる。まあ、誰かが侵入してくれば、俺でも分かることなのだが、折角頑張ってくれてる部下達がいるんだ。体を動かさせる意味でも大事なので、毎日かかさず定時報告をさせている。


「そうか、何事も無しか……。

 今日も暇だな……」


 俺はため息をついて上の階層に目をくばらせる。

 久しぶりに上まで走らせて見るのも良いかもしれないな。

 しかしそれをすると、迷宮の魔物が一定以上減ってしまう恐れもあるが……。


「ボスひまー?」

「ぼっしゅ暇! じゃあ、最下層ボス退治ごっこやりょうじぇ!」

「お前ら! ボスはそこまで暇ってわけじゃねーっ!

 身を弁えろっ!」


 二匹が遊んで遊んでと尻尾を振ると、三匹目だけは真面目に二匹の頭を叩いた。

「いたーイ!」

「ぼうりょくはんちゃーい!」

「ボスの前だ! 真面目にやれっ!」

 一番背の高い三匹目が二匹をしかる姿はまさにリーダーの鏡だろう。

 いや実際、この三匹の身長差はそれほどでもないのだが、顔も同じだし、姿もほぼ同じなので見分ける方法としては身長差くらいしか見当たらないのだ。まあ、性格で一目瞭然でもあるが。


 勿論名前もつけている。折角同じ時間を生きる部下が出来たのだ。

名前が無いのもかわいそうだったしな。


 一番背が高く、言葉も流暢でハキハキしているのが長男扱いのコバルスだ。

三匹の間ではコバルスが指揮を取り、話をまとめたりしている。

それに続くように二匹が追従する形が一般的の様だ。

 三匹の中では一番言葉を理解し、そこそこ頭も良い可愛いやつだな。

 ただ、元々がコボルトだけに、知識があるとは言い難い。

 まあ、可愛いから良い。

 可愛いは正義だ。


 遊ぶことにも、仕事をするときにも、やる気があれば全力で。

言葉足らずなのが次男扱いのコカトス。

 こいつはやる気の有る時と無い時の差が激しい。

 駄目な時はまったく使えないのだが、殺るときは殺る凄みを持ってる。

 ただ、暇なときは常に寝ているな……。


 コカトスをさらに幼くした様な感じで、普段何を考えているか分からない一番小さいのが三男坊扱いのココトスだ。

 やる気があるのか、無いのかさえ分からない。

要注意な三男坊だ。

 コバルスたちと一緒にいないときは、大抵何かして遊んでいるのだが、遊んでいる内容すら掴みにくいときがある。


 三匹揃ってコーベンホルト三兄弟と俺は呼んでいるのだが、一部の魔物たちには「レッドキャップ」と呼ばれて恐れられているらしい。

 詳しいことを配下の死霊達にこれも聞いてみたのだが、彼らの挑んだ魔物たちが全員返り討ちにあって、返り血で真っ赤に染め上がった姿を見てそう呼んだらしい。確かに、俺の命令で中層まで突っ込ませたときは、そんな様な光景を見たような記憶もあるので、なるほどと納得した。


 まあ、可愛いから何でも良い。

 大事なことだな。

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