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迷宮というものがある。
数々の冒険者が莫大な財宝を求めてそこに挑戦し消えていった。
勿論、成功を収める者もいた。
迷宮に挑み、財宝を手に入れて巨万の富を築いた者も、数は少なかれ存在した。
迷宮とはそういった宝に魅了された者達を引きずり込み、吸収していく一種の魔法生物の様な物だ。
中に入れば、そこは洞窟であったり、地下深く降りていけば、そこは遺跡であったりと形は様々だ。
迷宮とはそういった形にも拘りは見受けられなかった。
迷宮の奥深くには『主』が存在されていると云われていた。
そう、云われていた程度であり、それは噂程度の意味合いでしかなかった。
何故なら、迷宮の『主』等という存在は誰一人、出会ったこともなかったのだ。
冒険者達の間では、
「迷宮の『主』が倒れれば、迷宮はまるで幻だったように消えるらしい」
「迷宮の『主』を倒せば、莫大な遺産が手に入るらしい」
「迷宮とは『主』を守る要塞でもあるらしい」
「迷宮で死んだものは『主』の栄養源として吸収されてしまう」
等など言われる始末だった。
前者はただの噂話にしか過ぎないが、後者に関しては納得せざる得ない事もある。
実際、迷宮の中で死んだ遺体は、数時間で跡形も無く消えてしまうのだ。
衣服、装備品だけを残して、まるで迷宮に食べられたように……だ。
また、迷宮の『主』とは、凶悪なドラゴンであったり。
世界を恐怖に陥れる魔王であったりと、こちらも噂の尾ひれは絶えない。
結果として、迷宮とはそういった悪魔が作った産物ではないかと、誰しもが感じていた。
迷宮には宝があり、それは階層ごとに何故か宝箱にはいって用意されている。
誰がどのようにして宝を配置しているのかは誰にも分からない。
ただ、分かることはそれらを守るように魔物がウヨウヨしているだけという事だ。
これはそんな噂程度だった者が、ちょっと道を外れたお話。