現代裏社会調査部(3)
「むぅぅ・・・この作戦は失敗だったかー。何か面白い話が聞けるかと期待したんだけどなぁ」
がっくりと力なくうなだれる夏河。
「申し訳ないけど、そういうことになりますね。そういう話なら私なんかに聞くよりネットで探してみた方が早いんじゃないですか?」
その様子を見て流石に言い過ぎたとでも思ったのか、
女の無愛想な態度は打って変わってアドバイスを始める。
もしかするとツンデレと呼ばれる性格なのかもしれない。
「うーん・・・。身近な物の方が面白いんだよねー」
「身近・・・ですか」
「なんか面白そうなネタ持ってそうな人、身近にいたりとかは・・・?」
「あはは・・・そうですね。いればいいんですけど」
なんだかんだ二人の会話は絶え間なく続いている。
最初は二人の間には険悪な雰囲気が渦巻いていたものの、結局は似た者同士なのかもしれない。
あながち夏河の目は間違ってはいなかったようだ。
いつまで経っても二人の話の輪に入る余地を見いだせない僕は、
なんとなく二人を眺め、そんな事を考える。
これが女子の輪というやつだろうか。・・・いや、多分違う。
あまりの手持ち無沙汰に、とりとめのない事を考えだす始末だ。
とりあえず部屋の電気でもつけようかと、スイッチのある壁に近寄った。
無機質な教室の壁に義務的に貼り付けられた質素な時計は、5時半を示している。
まだ夕刻――といえども、刻々と冬を迎える準備をしているこの季節では、太陽が沈むのが早い。
先ほどオレンジ色だった空は、早くも夜の帳を下ろす準備をしていて、オレンジと深い青がコントラストを描いている。
「ああ、ごめんなさい、気づかなくて。一人だと電気付けなくても別にいいかななんて思って。もう真っ暗ですね、ここ。」
スイッチを押そうとしている僕に気づいたらしく、女は少し申し訳なさげな様子でそう声をかけてくる。
「ああいや、別に。・・・そういえば、キミはいつもここで本を読んでるの?」
背後で女の謝る声を聞きながら、壁に並んだスイッチを一度に全部押した。
カチカチ・・・という乾いた音が室内に反響したかと思うと、若干の遅れとともに蛍光灯の光が部屋中を明るく照らした。
薄暗い室内に目が慣れていたのか、いやというほど室内が明るく見える。
「ええと、そうですね。この曜日だと講義が無いので、適当な時間つぶしのためにココにいる感じです。・・・そういえば私の名前まだ言ってませんでしたね。私は折原冬佳と言います」
キミ、と呼ばれたことが不愉快だったのか、それとも名乗っていなかったことに気づいて「しまった」とでも思ったのだろうか。折原という女は、どこか困ったような表情で自己紹介を始めた。
「僕は一年の敷島遼太、で、こっちは同じく一年の夏河佳奈。」
僕の発言とともに、夏河はよろしくーなどと、軽い調子で返事をした。
そんな夏河と僕の顔を見て、折原はクスリと笑った。
「敷島さんと、夏河さんですか。先ほどはその、すいませんでした。私、その、周りから『ズバズバと思ったことを言いすぎだ』ってよく言われていて。失礼でしたよね。すいません。」
そう言うと、折原はこちらに頭を下げた。