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Delusion WORLD  作者: いがろ
Episode 3:404 not found
28/29

渋谷八不思議・高架下の男(4)

ブラクラ【ぶらくら】

ブラウザクラッシャーの略。

ウェブブラウザで当該のページにアクセスする事により、ウェブブラウザや OS の動作に異常を発生させる。

無限にウィンドウが作成される、ウィンドウが消えないなど

大抵いたずら目的に使われる。


草【くさ】

笑っていることを示すネットスラング。

ワロタ、wなどの種類がある。

日本ではネットで笑いの表現として「w」を使うことが多く、

それを草に見立てたことから。


BOT【ぼっと】

ロボットの略称。

用意した文章を自動的に貼り付けなどを行う。

610:名前:四季 ID:3Jkm2rWS

元警察って一体何がしたいのか、何が言いたいのか

自分の妄想ではないというのなら、いろいろと教えて欲しい



僕はダメ元で、スレッドに現れた「元警察」に、質問を投げかけた。

僕が見た中では、今まで「元警察」が誰に対して返答した例は珍しく、どちらかと言えば、

ずっと1人で語り続けるばかりだったからだ。




612:名無しさん@転載禁止 ID:pSYxNFD7

なんかもう1人きて草

こんなんと付き合うと頭おかしなるで


612:元警察 ID:EuaKRS7z

>>610

こんばんは。

私の何が聞きたいのですか。聞きたいことがあるのならば教えましょう。



「あっ…」

「元警察」の返信相手に気づいた瞬間、僕は目を見開いて固まってしまった。

対象は、他の誰でもない僕。思わずモニター前で1人ガッツポーズを取っていた。

とにかくこれで、「元警察」があらかじめ設定された文章を張り続けるだけの

BOTでないことが判明した。

モニターの前に「元警察」と名乗る人物は存在していて、自分の意思で書き込みを続けている。

問題は、モニター前にいる人物は一体何を考えているのか。

周囲が言うように、ただの中二病、もしくは構ってもらいたいだけなのか、単なる狂人か。


それとも。


何か重大なことを知っていて、それを必死に僕らに伝えようとしているのか。

それはつまり、警告だ。


いずれにせよ、この「元警察」は、何の目的があって、ここに居続けるのか。

周囲から笑いものにされようが、ここで書き込みを続ける理由を僕はなんとか聞き出したかった。

緊張からか、焦っているのか。胸の鼓動はどんどん早まっていく。

何を聞こうかという順序立てすらまともに考えられないほどに質問の内容が思い浮かぶ。

震える手で、僕は精一杯の早さでキーボードを叩いた。



622:名前:四季 ID:3Jkm2rWS

>>612

反応してくれてありがとう。

ではまず、その「元警察」という半値の由来から聞きたい。

一体どういう意味でそれにしたのか、貴方が書いている文章に、その半値はなにか関係するの?


623:名無しさん@転載禁止 ID:P2XzI4k5

ウソで警察を名乗ると捕まるでwww

元警察ちゃんアウト~www


624:名無しさん@転載禁止 ID:SskK247f

まぁまぁ待てよ気長にまとうぜw


625:元警察 ID:EuaKRS7z

>>622

私は元々公安の刑事をしていました。

そして、東京都内で起こったある事件をきっかけに、私は警察をやめました。

簡単にいえば、警察をやめさせれた、というべきでしょうか。


626:元警察 ID:EuaKRS7z

それ以上のことは書けません。

あまり詳しく書くことはできません。

もしも、ソレ以上のことが聞きたいのなら、こちらに誘導します。

http;


書き込みの最後に、どこかのサイトのURLが貼り付けられている。

相手が一体何なのか予想がつかないだけに、そのURLをクリックするかどうか迷っていたが

僕の手はゆっくりとURLにマウスカーソルを合わせて、数秒の間を置いて、クリックする。

僕の腕は、バカみたいに好奇心に対して素直だった。


我ながらなんて不用心なんだろうか…クリックしたURLの先が何らかのウィルスや

ブラウザクラッシャーの可能性だってあるのに。

いや…こうなってしまったからには、「元警察」を信じてみよう。

相手を疑ってかかるよりも、とことん信じる。それで騙されていたならば、その時は笑い話で

済ませよう。


そう覚悟を決めて、どんなサイトが飛び出すのかとドキドキしていたが、数秒の読み込み画面から

現れたのは、至って普通の小さなチャットスペースだった。

いつの時代のものかは分からないが、きっと10年くらいの前に作られたサイトだろう。

デザインの簡素さ、誰かとチャットするのに必要最低限のコマンドしかないシステム群がそれを

物語っている。

僕は自分がよく使っているハンドルネーム”四季”を入力して、チャットルームへ入室した。


System>四季 さんが入室しました。現在の参加人数 四季、myosotis 2名


四季>こんばんは。


myosotis>こんばんは。


四季>myosotisさんは元警察官、だよね?


myosotis>はい。


myosotis>νちゃんねるに書き込みをしていた「元警察」です。


四季>あの、ここに誘導した理由を教えて欲しい。


myosotis>不特定多数の目に触れる場所で、私自身のことに関してあまり言いたくなかったので。


四季>というと?



ああ、僕は一体何をしているんだろうか。このチャットに来てしまったことを、今更後悔し始めている

自分に気づく。

この場に居るのは、自分と「元警察」であるmyosotisの二人。

不特定多数の人々が書き込みをしていたνちゃんねるではないのだ。

そう気づいた途端、心の底から沸き上がるのは漠然とした不安と、なんとも形容しがたい居心地の悪さだった。

それを紛らわすかのように、僕はチャット画面を見つめる。


myosotis>先ほど、貴方は私に本当に警察なのかと質問をしました。


myosotis>それに対して回答します。


myosotis>私は公安の刑事でした。


myosotis>刑事という役職上、私は様々な事件に関わってきました。


myosotis>ある日、ひとつの事件が起こりました。


myosotis>それは、私が今まで見てきた中で最も不可解で、不気味な事件だったことを覚えています。


myosotis>渋谷暴力団大量殺人事件 をご存知でしょうか。


四季>昔あった事件だよね


四季>なんとなく覚えてる。


四季>なんとなく、だけど。



僕の運営してるブログ『闇切虫』でも、何度かそのワードを見かけることはあった。

興味本位で何度か調べたこともあったが、ネットで出てくることは大体似たり寄ったりの大したこと

のない情報ばかりで、僕自身あまり深くは知らない。


”渋谷暴力団大量殺人事件”

2003年、渋谷にある暴力団の事務所が何者かに寄って襲撃を受けた事件。

10年以上経った今も、その犯人も、その手口さえも見つかってはいない。

殺されたのが暴力団ということから、暴力団同士の抗争ではないかという意見が一般的だが、

事件があった時刻、周辺の監視カメラに怪しげな人物が映ることはなかった。

つまり、襲撃だったとした場合、大掛かりなものではなく、一人二人という少人数での活動だった

ということになる。

もし、それが人間の仕業であれば、だが。



myosotis>私はその事件現場に行きました。


myosotis>当時、警察内部でもかなり問題になった事件でした。何故ならば、その現場は異様な

程綺麗だったのです。


myosotis>もし暴力団同士の争いであれば、事務所内は少々荒れていてもおかしくはないのですが。


myosotis>端的に言えば、事務所内にいる暴力団たちを殺すのに必要最低限の銃弾のみで、

全員を殺したことになります。


myosotis>我々が調査している間に、事件はいつの間にか有耶無耶になり、調査は修了。

いつの間にか警察内部でもその事件について一切語ってはいけない空気が出来上がっていました。


myosotis>あまりの不自然さに、私は1人その事件について調べてみることにしました。


myosotis>そして、ある監視カメラの映像を入手したのです。


myosotis>http;//



再び「元警察」が何かのURLを貼り付けた。

好奇心と怖いもの見たさに、僕はもう迷うことなくそのURLをクリックしていた。

URLの先にあるもの、それは…ひとつの動画。

タイトルは、数字--撮影した日時だろうか--が羅列しただけの簡素なものだ。

動画を前に、言い知れぬ不安が僕の中でじわりと広がってゆく。

見てしまったら後悔するぞと、僕の中で警鐘がじりじりとけたたましく鳴り響いている気がする。

だが、読み込みを終えた動画は僕の葛藤など気にせず、勝手に再生を始めていた。

画質も音質も、お世辞にも良いとは言えない、とても荒いもので見づらいが、数人の男達が映っていること

だけは分かる。

男たちは棒立ちのまま、ただただ立ち尽くしている。

一体何をしているのかと、その男たちの姿を凝視して考えていると、

男の1人が何かを取り出して、一人に向けた。

黒くて、小さい物体。それが一体なんなのか理解するのと同時のことだ。

乾いた音が、パン、と短く鳴り響く。

銃だ。

その音は僕らがイメージするようなハデなものではなく、地味で淡々としていた。

しかし、向けられた相手の胸は、みるみるうちに黒に染められて、そのままバタリと倒れた。


死んだ。


驚くほど短い間に、男の命は奪われたのだ。

そして、その一発の発砲音を合図とするかのように、次々と男たちは銃を手にする。

倒れた男を気に留めるものも、飛び散った血や肉塊に驚くものもそこには居ない。

淡々と、まるでロボットのように立ち尽くし、ただただ目の前に立っている男に銃を向けるだけ。

それはまるで、出来の悪いB級映画のような光景だった。


パンパンパンパン…風船を鋭いハリで割ったような乾いた音が、次々と鳴り響く。

乾いた発砲音とドサリという鈍い音--人が地面に崩れ落ちる音だ--だけ。

本当に人が死んだ現場なのかわからないくらいだった。



四季>これが、その監視カメラの映像?



myosotis>はい。


myosotis>これが、その渋谷暴力団大量殺人事件の一部始終です。


四季>これじゃあ、殺人事件じゃない。


そう、これは。

事件ではなく、集団自殺だ。


myosotis>これが”事件”という前提で進んだのは、集団自殺だったとすればあまりにも不自然だったのです。


myosotis>食事の準備や、今後の取引の日程の取り決めなど…行動の途中だったからです。。


四季>つまりこれは


四季>全員が事務所で何かをしている最中に


四季>人が変わったように集団で自害を始めたという


myosotis>おそらくは。


myosotis>その通りだと思います。


myosotis>これはネットで一般的に公開されていないものです。


myosotis>これで私を警察だと信じてもらえましたか?



僕は、今更気付かされた。

「元警察」は、とんでもない人物であることに。

そして。

果てのない”深淵”を覗こうとしていることに。


突然の自殺。

僕の中で、とある出来事が引っかかった。

ニカ生の、突然の飛び降り事件。あれも、突如豹変し、そのままベランダから落ちた。

もしも。

この事件と関係があったとしたら?

僕は今、とんでもないものに首を突っ込もうとしているのだろうか?

考えるべきではないと思っているのに、僕の思考は驚くほどクリアで、まるで

パズルのピースを組み合わせるかのように、この事件と飛び降り事件の関係性を組み立てていた。



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