私は、気持ち悪いから。(6)
夕闇――
すっかり日も暮れ、先程までオレンジ色だった夕暮れも、深い藍色にへと染めらようとしている。
そんな、夕方と夜の境界の境目をふらふらと、まるでさ迷うかのように歩く、小柄な少女の姿があった。
少女は、鬱蒼とした雰囲気を全身に纏っていて、今にでも夕闇に溶け込んで消えてしまいそうだった。
そんな少女に、まるで追い打ちを掛けるかのように、辺りに強く、冷えた追い風が吹いた。
人気のない道に、ざわざわと木が揺れる音だけが響く。
少女――小鳥遊千秋が唯一、手にしているのは、今日一日学校に行っていたにしてはあまりに軽すぎる鞄。
そこに入っているのは、一台のケータイゲーム機、たったひとつだけだった。
それ以外は、教科書も、筆記用具も、ノートも、本来学問に必要とされる物は、
なにひとつ入ってはいなかった。
少女は俯いて、ただただ足を動かして歩き続けている。
まるでなにかに怯えるかのように、決して前を向くことはなく、ただただ自分の足元を
自分の影だけを見て、無機質な機械のように足を動かしている。
そんな時だった。
少女の左肩に、ドンッと、強い衝撃が走った。
まともに前を見て歩かなかったのがアダとなったのか、何者かと肩をぶつけてしまったのだ。
ぶつかった衝撃でよろめいて、少女はそのままバタリと地面に尻餅をついた。
驚きから、少女は歩き始めてから初めて顔を上げた。
「痛てて…あ、ごめん。大丈夫?」
少女の視線の先に居たのは、少女よりほんの少し歳上であろう男が
同じように、派手に尻餅をついていた。
「ごめんね…スマホ見てて、前確認してなかった、大丈夫?」
そういうと、男の方はすぐに立ち上がり、未だ尻餅をついて戸惑った表情をしたままの少女に、
手を差しのべた。
少女は、その男の手に恐る恐る左手を伸ばそうとしたところで、手が完全に止まる。
その顔は、先ほどの驚いた表情とはまた何か違った、何かに怯えるような表情へと変わっていた。
すぐさま左手を引っ込めると、倒れた鞄を急いで拾い上げ、無言のまま、たたただ一礼すると、
そのまま走り去ってしまった。
「うーむ。…俺怖がられた系?そういう展開…?フラグ?フラグなのか?」
慌ただしく走り去る少女の後ろ姿をきょとんとした様子で見つめながら、独り言をつぶやいていた。




