双子の精霊
その時、二つの気配がスリンの前に降り立った。
「驚かせてごめんなさい。私たちは、時空の精霊、テンパスとトラクタスです。
私たちはあなたのことをずっと見ていました。あなたが私たちを友とするのにふさわしいかどうかを。
その結果、あなたは今のところ、私たちの友となるのにふさわしいと思われます。
しかし、最後に試験をさせていただきたく存じます」
スリンは突然のことに戸惑った。
「わたくしに拒否権は……?」
「試験を受ける拒否権はありません。もし拒否された場合、あなたと契約を交わしている精霊との契約を解除していただきます」
「それは、おかしくないか」
口をはさんだのはウムス。
「スリンを我々の友としたのは、我々自身の意思だ。それを無視して契約解除しろとは乱暴にもほどがあるんじゃないか」
しかしトラクタスは落ち着いて答えた。
「スリンはおそらくフェリエストになる身。それだからこそあなたたちも契約をしたのでしょう。
もし我々との契約を拒めば、スリンがフェリエストになることはありえない。必然的にあなたたちアストフェリとの契約も必要がなくなります。
何か間違っているでしょうか」
トラクタスの言っていることは正しい。だが、五人の精霊たちはそれになぜか納得できなかった。
「確かにわたしが、スリン様と契約したのは、はじめは、スリン様が、フェリエストになるからでした。ですが今は違います。わたしは、スリン様のお人柄に魅かれているのです」
ジルフェが真っ先に口を出した。
それにほかの四人も同意する。
しかし、それをスリンは止めた。
「言い争いはやめてください。わたくしが試験を受ければ済むのでしょう。
いいでしょう。受けます。
そしてあなたたちをわたくしの友としたいですね」
二人は満足げに笑った。
「それでこそスリンです。それでは、試験の内容を言います。
これから私があなたを違う空間に送り込みます。そこを行き来できるのは基本的にわたしとあなたのみ。あなたはそこに自身の精霊を召喚するのです。
それが成功した場合、私たちはあなたの友となりましょう。そうでない場合は、精霊をすべて契約解除するとお約束ください」
それにウムスは反対した。
「僕は認めないよ。だって君たちに左右されたくないから」
「それはスリンを信用していないということか」
ウムスははっとしてトラクタスを見た。
「愚かな精霊」
トラクタスが吐き捨てるように言った。スリンはそれを見て少し顔をしかめた。
「愚かな精霊。自らの都合で視力を失ったにもかかわらず、その霊力の強さでアストフェリから追われなかった精霊」
トラクタスは詠うように言葉を紡ぐ。
「君に決定権はないんだよ、ウムス。決定権はスリンただ一人にある」
スリンは首肯し、賛成の意を示した。それにオンディーヌが異を唱えた。
「待ってください。あと数日で王の喪が明けます。そうしたらスリンは王にならなければなりません。それまでに、試験を終わらせてほしいのですが」
トラクタスは大きくうなずいた。
「聞けばスリンはこの国の王女、今や唯一の王位継承者なのだろう。それならば長い間行方不明となると、この国を根本から揺るがしかねない。だから、期限は明日の昼の鐘が鳴るとき。
関与するのは私だけで、テンパスは一切関与しない。それでどうでしょう」
テンパスは少し申し訳なさそうに、トラクタスは居丈高にスリンを見た。
「よろしいですわ」
「それではスリン、あなたを別次元に送ります」
そしてスリンの周りから一切の音が消えた。