スリンとウムス
「やっぱり、君にはかなわない」
ウムスは降参した。
それを聞いてスリンは微笑んだ。
「そうは思わないけれど……」
「それで、この兵士をどうするんだ。イレサイン・メルーナーはさっさと逃げ出したからね」
まるで、メルーナーと一切面識がなかったかのようにザラマンダーはスリンに問う。
「王宮の外にでも放り出しといたら」
答えたのはジルフェ。答えた後、スリンに同意を求めるように仰ぎ見た。
スリンは蒼白な顔でうなずいた。
それを二つ返事で引き受けたのはウムス。
「今回あんまりやることがなかったから」
もともと激しい気性のウムスは今回暴れる機会がなかったので、退屈していたのだ。
しばらく精霊たちと付き合ってきて、スリンもそれぞれの性格がなんとなくわかってきた。ウムスが一番激しい性格をしているようだった。
土の精霊って落ち着いていそうなのにねと以前にスリンはオンディーヌに行ったことがあったが、オンディーヌは口を閉ざしてしまった。おそらく昔何かがあったのだろう。
また言いたくなったら言ってねとだけ言って、スリンもその時はそれ以上の追及をしなかったが、今、無性にオンディーヌに聞いてみたい気になっていた。
「ねえ、オンディーヌ。前にわたくし、ウムスのことについて尋ねたことがあったわよね。彼に何があったのって。
今なら教えてくれる?」
「本人に聞いて」
オンディーヌはそっけなく答えた。
「分かった」
スリンがそう答えた瞬間、スリンの体に衝撃が走った。
「オンディーヌ、ジルフェ、ザラマンダー、リグナム、いるわね」
スリンの周りに四つの影が舞い降りた。
「ウムスが危ないわ。行きましょう」
スリンはそういったが、オンディーヌは否定した。
「あれなら何があっても大丈夫だ。わざわざスリンが行っても、あれの弱みになるだけだ」
スリンはそれを聞いて少し腹を立てた。
「ウムスが大丈夫か否かなんて、わからないじゃない。相手は、イレサイン・メルーナーよ。当代随一といわれる偽の魔術師よ。何が起こるかわからないわ」
オンディーヌが仕方なくうなずくのを見て、他の三人もそれに従う。
かくしてスリンは誰の許可も得ず、王宮の自室を飛び出したのだった。