フェリアの女王
「精霊狩りがなくなって安心したわ」
そう言ってホッとしたような表情を見せるスリンに精霊たちはいった。
「精霊狩りがなくなったとはいえ、精霊使い(フェリア)にいい感情を持っていない輩は多いから気をつけて。
ここでは精霊使い(フェリア)だということがあまり知られていないにしても」
「はいはい。そうね。確かにまだフェリア狩りをしているって話は聞くものね。全く、こういうことは一度はじめたらやめることが容易ではないくらいわからないのかしら」
少し呆れたように言うスリンに精霊は笑った。
「それにしても、ねえ、まさかエルウィンの下についているサーミルがディオネの異母弟だったなんてねえ」
テンパスが少し意外そうに言った。
「どうしてそんなに意外だと思うの?」
トラクタスが訊ねた。
「だって、ディオネの方がずっと穏やかな性格じゃないか」
「でも、二人は似てるわよ。特に、好きな人に対する一途さとか。
それが同性でも異性でも。あと特定の同性に対して特別な感情を抱いていそうなところとかかしら?」
「そうか。それなら良かった」
「どうして?」
「それならサーミルに無駄な時間を割く必要がなくなるからな。
いかに憎き対象とはいえ、そんな奴らに使っている時間も感情すらもったいない。
だが、ディオネの異母弟ならそれだけで、許してやれる。もちろん、嫌な感情はなくならないが、少なくとも、それを考えて悶々とする必要性はなくなるな。
ディオネはそれだけのことをしたのだよ」
「そう。なら良かったわ。私も友人が褒められて嬉しいわ」
スリンはほっとしたようにうなずき、トラクタスを見る。
「けれど、私がフェリアだということは、一部の人間には知られてしまっているのでしょう?
どうすればいいのかしら」
その時、スリンの部屋の扉が開かれた。
「スリン様、サーミルの部下が、スリン様が精霊使い(フェリア)であることを民衆に話したようです。
民衆は今、スリン様が精霊使い(フェリア)であることを黙っていたことに不信感を抱いております」
声高らかに叫んだ使者をスリンは黙らせた。
「静かに。誰がどこで聞いているのかわかりませんわ」
スリンがそういった瞬間。
「スリン様は精霊使い(フェリア)であることを自ら認められた。
精霊使い(フェリア)の王などいらない」
一人の少年が柱の陰から飛び出してきた。
「スリン様、覚悟」
「やめなさい」
スリンは厳しく言い放った。
「あなたたちは私の何を知っているの?
確かにあなたたちは精霊使い(フェリア)に迷惑を被ったかもしれない、その点については申し訳なく思うわ。
けれど、私がただ精霊使い(フェリア)であるというだけで処分の対象になるのは納得がいかないわ。
私を見て。王でもなく、精霊使い(フェリア)でもない、ただのスリン(わたし)を。
処分の対象になるかどうかはそれからあなたたちで決めればいいわ」
少年は押し黙った。
「私は明日、みんなに真実を言うわ」
「スリン、それは……」
テンパスを遮ってスリンはつづけた。
「だってごまかしようがないもの。誰がどういおうと、私は私。
王で、精霊使いで、最高精霊使いに一番近いところにいる、これが私」
「そうだな。スリンは我々のことを自分のことのように考える」
ウムスが同意する。
「さあ、もういいだろう。とりあえず今日はお休み。
君たちは明日奇跡を目にするのかもしれないのだから」




