ナレシの足
ナレシは軽く笑った。
「私の心が広いわけじゃない。ただ諦めているだけだ」
ディオネはにわかに信じられなかった。
杖をついた青年は微笑んだ。
「イレサインは私の足を奪った。そして父は発狂し、母は絶望のあまり死んだ。だがそれはもう全て終わったこと。今更恨んだところで私が歩けるようになるわけでも、父が元に戻るわけでも、母が還ってくるわけでもないから、無駄なことに時間を費やす必要はない」
何処か諦観した様子のナレシに、ディオネはどう声をかければいいのか分からなかった。
ナレシは足が不自由だ。彼は杖を持っているが、かつてはそれがあってすら、歩くことは叶わなかった。しかし、彼は精霊と契約してから、僅かながら自分で動けるようになった。それは決して長距離ではなかったため、 彼は精霊と共に動く。彼が歩けなくなったら精霊が彼を好きなところに運ぶ。
彼の足は、イレサインによって奪われた。まだ、彼が小さかったころ、イレサインは彼が邪魔だと考えた。
そのため、イレサインの当主は彼を拷問した。おもて上はイレサインに敵対する人をはかせるため。
しかしその実はただ彼がアキ家を再興しないようにするためだった。