罪の意識
「代替案?一体どういうものだ」
「宰相をしてくれないかしら。今はヴィカが宰相をしているけれど、正直なところ、ヴィカじゃ不十分なことが多いわ。あなたは一応家名を継ぐ。けれどそれはイレサイン家次期当主として継ぐのではなく、宰相となるために家名をついで欲しいの。そうすれば双方ともに利があるわ」
「そうか。それと家に縛られるのとどっちがいいのだろうな」
スリンはそれを聞いて少し怒ったようだった。
「家に縛られたくないというあなたの気持ちはわかるわ。でも、家に縛られたくないからといって何もしなくていいわけじゃないわ。確かに宰相になるのはかなり大変だと思う。一度捕らえられたあなたが宰相になることで起こる反発も強いと思う。だけど、それを恐れて何もしないのは違うのよ」
メルーナーは瞑目した。
「そうだな。少し考える時間をくれないか」
スリンは微笑んだ。
「もちろん。今すぐ返事がもらえるとは思っていないわ。近日中に教えてくれればいい」
メルーナーは頷いた。その目には光るものがあったが、スリンはみなかったふりをした。
スリンが立ち去ったあと、メルーナーは泣いた。スリンの優しさに触れて、自分が操られていたと分かってから初めて泣いたのだった。
「操られていたとはいえ、自分を捉えようとしたものを宰相にだなんて」
そのつぶやきを周りの囚人たちが聞いていたが、声を掛けることができずにただ見ているだけだった。
しばらく経って、メルーナーが泣き止んだとき、目の前には一人の青年が立っていた。
「サーミル」
「本当に君は馬鹿だ」
それだけを言い捨てると、サーミルは駆け出していった。
「待ってくれ」
メルーナーの言葉にサーミルはゆっくりと振り返った。
「今更何を話すことがある?君は我々を裏切った。イグノアが操っていたとはいえ、私にとってはそれ以上でもそれ以下でもないんだ」
メルーナーは苦しそうに顔を歪めた。
「それについては謝ろう。だが、お前のしていたことは決して許されることではなかった。だから今お前はここにいるんだろう。エルウィン様を弑そうとしたことを俺は忘れないからな。
エルウィン様の容態はいかに」
サーミルは苦笑した。
「私が言っても信用がないかもしれないが、エルウィン様の容態は今とてもいい。先日はようやく起き上がることができたと報告が来た。
エルウィンが眠っていたのは、メルーナー、君にイグノアが呪いをかけたためらしい。エルウィンは君の犠牲になった」
メルーナーは返答に詰まった。自らだけの罪ではないにしろ、自分のせいで誰かが苦しんでいたというのはもう聞きたくなかった。
「現実から目を背けるなよ、メルーナー。私が言えた義理ではないのかもしれないが、私も君もたくさんの罪を犯してしまった。それを決して忘れてはならないよ」
メルーナーは笑った。
「ああ、そうだな。礼を言うよ、サーミル」
「例には及ばない。……兄によろしく言っておいてくれ」
メルーナーは瞠目し、首肯した。




