表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追われし者 中編  作者: 成瀬なる
学長室にて
28/31

困惑

 次の日、メルーナーは嫌な汗をかいて目を覚ました。昨日眠るときはあんなに幸福な夢を見ていたのに、なぜだろうと疑問が生じた。

 そこへ、一人の使者がメルーナーのもとに駆け込んできた。

「イグノア・イレサイン様が亡くなりました。よって、メルーナー・イレサイン様。あなたに出された追放を撤回し、イレサイン家長子として次期当主になっていただきたく」

 メルーナーは驚いた。しかしあまり悲しみはわいてこなかった。その代り、イグノアの心に最後まで巣食っていただろう哀しみに思いをはせた。

「悪いが、しばらくイレサイン姓をもらうつもりはない、と当主にお伝えしてくれ。イレサインの血を絶やすことはしないから、と」

 使者は一礼をして去って行った。

「なーんだ。あいつがイレサインの家のものだったから、あのねーちゃんが来てたんだな」

 そんな声を耳にはさんだメルーナーは思わず反論した。

「スリンはそんなことで俺との面会にきたんじゃない」

 その途端、野次を飛ばしていた人たちは、黙り込んだ。

「スリン、といったか。あの女王の」

「ああ、そうだが」

 慌てる囚人にあくまでもメルーナーはさも当然といったかのように答えた。

「俺ら、女王様のことをねーちゃんなんて言ってしまっていたな」

「大丈夫だ、そんなことでスリンが怒るわけがないから」

 そう平然と言い切ったメルーナーに、囚人たちはどよめいた。

「おまえ、女王様と知り合いなのか」

 どうしても聞きたくて仕方がないような口調で、囚人のうちの一人が尋ねた。

「ああ、昔、世話したからな」

 その返答にメルーナーは質問攻めにあった。

 いったいどういう経緯で知り合ったのか、なぜ今も仲良くしていられるのか、など。

 しかしメルーナーは言葉を濁しただけだった。スリンが元追われし者だとわかることで何か不利益があるかもしれないと懸念したためだった。

 その時、スリンの靴音が牢に響いた。

「おはよう、メルーナー。イレサイン本家からの通達よ。さっさと帰ってきて家名をつげ、と言われているわ」

 メルーナーはあからさまに嫌そうな顔をした。

「スリンまでそんなことを言わないでくれないか。俺はいま、家から解放されて自由の身。いずれ跡を継ぐにしても、今から家に縛られる気はない」

 そういうと、スリンは微笑んだ。

「いうと思った。だからね、私は今日、あなたにその代替案を授けにきたの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ