牢で
「しかし、メルーナーもよくやるよな」
牢の中で、一人の青年がもう一人に話しかけていた。
「人をかばうために、自分の体を使うなんてな」
メルーナーはエルウィンをかばった傷が原因で病に倒れている。傷口から悪いものがはいったらしいと医術師は見立てた。
こつ、こつ、と靴音が廊下に響く。
「うわ、あの美人のねーちゃん、またきたんだな」
「メルーナーがうらやましいよ。あんな美人のねーちゃんがしょっちゅうお見舞いにくんだから。
やっぱ身を呈して人をかばうくらいの気概がないとだめかな」
周囲のざわめきには耳もかさず、スリンはまっすぐとメルーナーがいるところへ向かう。
「最近、調子はどう?」
高熱に侵されたまま、うわ言のように何か言っていたときとは違って、今日は意識がしっかりしているみたいだった。
「ましになった、が、俺が殺した人たちの影がずっと付きまとってくる」
「そうね。それは一生あなたが負っていかなければならないものだわ」
諭すようにスリンは言う。
「あなたが殺した人のことをあなたが忘れてはだめよ。
そうじゃなかったら、誰が彼らのことを覚えているっていうの?」
「ああ、そうだな」
そしてだるそうにメルーナーは目を閉じた。
「長居しすぎたわね、ごめんなさい」
スリンはメルーナーの汗をかいている額を布でそっと拭うと、静かに立って去って行った。
メルーナーは夢を見ていた。いつものような、恐怖に満ちた夢ではなく、かつての楽しかった日々。
短かったが、イグノアと両親と共に遊んだ日々。ディオネとスリンと三人で笑い合った夜――。
満ち足りた気分で、メルーナーは眠っていた。今くらい幸福な時を味わったって罰はあたらないだろう、と思いながら。
まさか自分の弟の命の灯が消えてかかっているとは夢にも思わずに――。




