訪問者
「やあ、みなさん、おそろいで……って陛下がまだいらっしゃっていないようですね」
そうやって扉を開けたのは、イレサイン・メルーナー。
「わたくしは、イレサイン・メルーナー。イレサイン家の長男にして、精霊狩りの主任です。
そちらにいる二重人格という外れ精霊を狩らせていただきたい所存です」
ナレシは蒼白になってディオネの後ろに隠れた。
「ディオネ……」
ディオネはナレシに向かって頷いた。しかしディオネが口をひらくより早く、メルーナーは言葉をつづけた。
「何しろ外れ精霊と人が契約を交わすなどずいぶん久しぶりですからね。よい研究対象になると思いますよ」
「……いい加減にしろ」
ディオネは抑えた怒気を発した。
「メルーナー。お前はもうイレサインのものじゃない。それは追われし者となった時点でお前もよく知っているだろう」
「私は追われし者だったことなどない」
即座に否定するメルーナーにディオネはため息をついた。
「完全にイグノアに操作されている」
メルーナーはナレシの顔をまじまじと見た。
「おや、見知った顔と思えば、アキ家の……」
メルーナーは最後まで言うことができなかった。ディオネがメルーナーを思いっきり殴ったからだ。
「何をするんですか。
そうですか、まだ生きていたとは……」
メルーナーはナレシの杖に目を向け、にやりと笑った。それは今までのメルーナーでは決して考えられないほど醜い笑いだった。そこでようやくディオネはこれはメルーナーではないと確信したのだった。
「そうですよね、歩けませんよね。だって弟が……」
ナレシ、というよりもナレシに乗り移ったディプリがメルーナーを蹴り上げた。
メルーナーは突然のことに目を瞬かせた。
「お前、足は……」
「俺が乗り移っているときは、そんなこと関係ないんだよ」
そう啖呵を切り、ディプリはナレシに謝った。
「悪い。どうしてもみていられなくて」
ディプリがもう一発けりを入れようとしたとき、部屋の窓が突如として空き、スリンと五人の精霊たちが入ってきた。
「遅くなってごめんなさい。
メルーナー。あなたを精霊狩りの首謀者としてとらえます」
凛と言い放ったスリンにディオネは思わず拍手をした。
「違う。すべてサーミルが悪いんだ」
必死に言い逃れしようとしているメルーナーを見て、スリンは、メルーナーをサーミルのところに送る決意をした。
「ナレシ。悪かったわね。あなたを傷つけるような結果になってしまって」
ナレシは平伏しようとしたが、スリンにとめられた。
「ここにいるときのわたくしはリュウア・スリンよ」
「サーミル閣下。入ります」
いつもの地下室で、サーミルに説明を求めようとメルーナーは部屋に入って行った。そこにはエルウィンを刺し殺そうとしているサーミルがいた。
「閣下。やめてください」
メルーナーはサーミルの前に飛び出し、その刃を自らの腕で受けた。
鮮血が飛び散る。そのうちのいくつかはエルウィンのもとにも降りかかった。
すると、エルウィンは目覚めた。その瞬間、メルーナーの頭の中で、かちり、となにかが外れる音がした。すべてが鮮やかによみがえってくる。
「あああああああ」
自らがした罪の重さにメルーナーは茫然とした。
そしてすべてを懺悔し、スリンのもとに自首をしたのだった。




