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追われし者 中編  作者: 成瀬なる
学長室にて
25/31

怒り

 ディオネとナレシが二人でお茶を飲んでいると、部屋に二つの影が降りたった。

「久しぶり、リグナム、ザラマンダー」

 何のことなく声をかけたナレシを見て、二人は顔を見合わせた。

「ナレシ、久しぶりね。前はあなたには私たちのことは見えていなかったかしら」

「そうだと思うよ」

 ディオネが横から口をはさんだ。

「以前二人と会った時は、まだほかの人の精霊が見えるほどには力は強くなかったと思うから……ってリグナム、ザラマンダー?」

 二人は説明の途中から話を聞くのを放棄し、久しぶりに会った同朋に抱き付いていた。

「久しぶり、ミス」

「ええ、久しぶりね。呼び寄せてごめんなさい。でも、ナレシがあまりに寂しそうだったから」

「ええ、いいのよ。リグナムはディプリといるのを嫌がっていたけれど」

 そうザラマンダーが告げると、ミスは心外そうに言った。

「あら、ウムスも同じくらい面倒なのではなくて?

 あの双子ちゃんもだけど」

 リグナムはそれを即座に否定した。

「双子はともかく、ウムスは大分ましになったのよ。だって、あれが視力を失ったことを後悔したのよ?」

「後悔!あの高慢ちきで他人を絶対認めなかったあの男が後悔だなんて!

 スリンっていう子は相当なフェリアみたいね」

 リグナムは興奮してつづけた。

「しかも、あれが自分の過去を自分から話したのよ?

 私たちですら知らなかった過去を!

 すっごく成長したと思わない?」

「確かに」

 急に声をかけられ、リグナムは驚いて身を引いた。

「ちょっとあんた何ここに当然のような顔をしているのよ。

 ソフェリ(外れ精霊)のくせに」

 つっけんどんに言うリグナムに二重人格(ディプリ)は平然と返す。

「ソフェリだから何かっていうことはないんでね。

 契約している限り、君たちと変わらないよ」

「よく言うよ。他人に乗り移ったりできる癖に。

 どうせナレシも使ったんでしょう」

 あきれたように言うザラマンダーにディプリは反論しようとしたが、次第にその声は小さくなる。

「使ってない!……最初しか」

「最初しかって最初は使ったんじゃない。

 こんな純粋な子を使うなんて最低ね。

 あんたは一生精霊の町に戻れないわよ」

 けんか腰のザラマンダーにディプリは思わずこう叫んだ。

「あんな所には戻りたくないね。何もしていないのに、俺を追放したところなんて」

「追放?あんたが人に乗り移ったからでしょうが……って、え?」

 ザラマンダーはふとディプリの言葉に違和感を覚えて黙り込んだ。

「乗り移ったわけじゃない、乗り移れちゃったんだ」

 その途端場がしずまりかえった。ディプリの言葉だけが妙に響く。

「俺は当時自分の能力がなにかもわかっていなかっただけだ。

 当時俺は二重人格(ディプリ)などではなく、二という番号を付けられただけのただの精霊だった。

 俺は、はじめは俺一人だった。

 知っているわけでもないのに、わかったような口を利くな。

 この話は双子くらいしか知らないのだから」

「そんなこと、気付いていたよ、はじめから」

 皆の視線が声のした方に向けられた。

「ディプリが本当は一人だって知っているよ。だって二人の性格は余りにも一緒だったから。全然二重人格(ディプリ)じゃないって」

「ナレシ……」

 ディプリはじっとナレシを見た。

「だってさ、どっちのディプリも口調が違うだけで、言っていることに大差はなかったから。

 もともと一つだった君の心が、二つに分かれてしまっただけなんだろう?」

「ああ、そうだ。もとは俺の中に棲んでいた二人だ」

 ディプリは急に素直になり、とある言葉がつい滑り落ちた。

「さすがだな、アキ・ノルヤ」

 その言葉を聞いた途端、いつも笑みをたたえていたナレシの顔から一切の表情が滑り落ちた。

「その名前はとうの昔に捨てた。

 僕の名は、ナレシ。それ以上でもそれ以下でもない。

 もう一度僕をそう呼んでみろ。その瞬間、お前との契約を解除するからな」

 ナレシの怒り具合を見て、ディプリは慌てた。

「分かったよ……ナレシ」

「分かればいい」

 そして人を射ぬくような目で周りを見回すと、ディオネを見つけにっこりした。

 それはいつものナレシの笑顔とは違い、見る人の背中を寒くするものだった。

「ディオネ。君は僕のことをどう思う。過去のことでこれだけ取り乱してしまう僕を」

 急に水を向けられたディオネは驚いたが、すぐに平然として言った。

「別にいいんじゃないか。俺も過去のことで取り乱さなくなるようになったのはずいぶん最近だしな」

 そう聞かされたナレシは、急に毒気を抜かれたように座り込んだ。

 ディオネはそっとそれを介抱した。

 その時、部屋の扉が、再びたたかれた。

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