不安
スリンは部屋で精霊たちをなだめるのに必死だった。
スリンが落ち着いた途端、テンパス、トラクタスとほかの五人の仲が悪くなったのだ。
双子の試験があまりにも強引過ぎたとして五人は怒っていた。
「やっぱりテンパス、あなたは少しやりすぎたと思うのよ」
子供の声で叫ぶのはリグナム。
「われわれがスリンを信じているか否かと、スリンを失う覚悟ができるのは全く別物。万が一ということを考えたとき、僕は気が気じゃなかった」
ウムスも二人に向かってどなる。ウムスはしばらくぶりの契約主であるスリンにただならぬ思いを入れ込んでおり、怒りの大きさもひとしおだった。
「お前たみたいに最初からその高い能力で頂点に君臨してるのとは違うんだ。僕の力は大きな代償の末のものなんだから。
スリンに出会えなければ、本当にこの力なんていらないと何度思ったかしれない」
「それじゃあお前に俺らのことがわかるのかよ」
少年のようにテンパスは叫ぶ。
「好きでもない強い力をもって生まれてさ、この力は人を滅ぼすからよく選んで契約しなさいなんて生まれてすぐに言われたことあんのかよ。
力が強くてもたかが大地の精。できることは限られてるんだよ」
「やめなさい」
トラクタスが止めたが、テンパスは止まらなかった。
「お前は自分の不幸に酔ってるだけだろ?お前の力は人を殺したことによって得られた、それがどうした。割り切って使える力使わないと本当に腐っちまうぜ」
見かねたスリンがとうとう口をはさんだ。
「やめて。もうわたくしは大丈夫だから。
これ以上喧嘩すると、わたくしが困るのよ」
もう何度目になるかわからない台詞をため息とともにこぼし、スリンは立ちあがった。
「好きにしていてちょうだい。落ち着いたら戻るから」
それを見た七人は顔を見合わせた。
「ごめんなさい」
精霊がそろって謝るのをみて、吹きそうになったが、何とかこらえた。
「いいわ。これからはけんかはしないでね」
七人は一斉に首肯した。
「やっぱりスリンにはかなわない」
何度も繰り返された言葉だったが、今ほど実感したことはないと誰もが思ったのだった。
その時、リグナムとザラマンダーに対してミスからの呼び出しがかかった。
「珍しいな。呼び出されるなんて」
「ディプリもいるんでしょう」
リグナムはおびえたように言った。
「わたし、あの人嫌い」
「それでも、ディプリがいる上で呼び出しがかかったのなら何か重大なことが起こったと思った方がいい。
ナレシのことでもあるし」
ザラマンダーは冷静に言うと、スリンに行ってくる、と告げ、嫌がるリグナムを無理やり引っ張って行った。
「ナレシのところ、ということはたぶんディオネも一緒だね」
最近はフェリア狩りを恐れ、ディオネはナレシを学舎にとめていると聞いていた。
「そうね。二人に何もないといいけど」
そこまで言ってスリンははっとしたように口を押えた。
「あの二人、悪鬼に取りつかれた家族について調べていたわ」
「もしかして、それで、貴族のやっかみをかったとか」
おびえるジルフェ。
「それか、アキ家に呼び戻されたくなかったか、あるいは」
スリンは自分の思い付きに茫然とした。
他の五人も何が言いたいのかわかったようで、息をのんだ。
「もしかして、フェリア狩り……?」
誰が言ったのかは定かではないが、その言葉は、確実にこの部屋に沈黙を持ってきた。
「大丈夫だ、スリン。あれにはディプリがついている。あれはたぶん僕よりも強い」
そう言い聞かせているウムスの顔も蒼白で大丈夫だと思っていないことが明らかだった。
「ぐずぐずしていてもしょうがない、行くよ、ナシシ舎に」
ウムスは、一同をナシシ舎に連れていくと言った。
「わたくしもお手伝いしますわ」
ジルフェは控えめにほほ笑んだ。




