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追われし者 中編  作者: 成瀬なる
学長室にて
22/31

襲撃

「アキ・ノルヤ。いるか」

 荒々しく一人の男が入ってきた。

「ここにはそんな方はいません」

 ディオネはさらりと言った。ふとナレシを見るとその顔は蒼白だった。

 それでディオネは悟った。

「そんなわけはない。俺は二重人格に聞いたんだ!」

 ナレシははっとした。その表情の変化を男は見逃さなかった。

「お前がノルヤか。お前が旦那さんのうちから逃げたせいで、俺は、俺は……」

 そういうと、男はナレシに向かって切りかかった。

 ナレシは激しい痛みを覚悟した、が、一向に痛みは来ない。ふと前を見ると、ディオネがナレシの前に立ち、その刃を自らの肩で受けていた。

 鮮血がしたたり落ちる。

 ディオネはその傷など、一切気にもしないというように、相手の手首をひねり、部屋の外に放り投げた。

「ディオネ!」

 ナレシはディオネに駆け寄る。

「ナレシ……けがはないか……?」

 ナレシがうなずくのを見て、ディオネは倒れこんだ。

「ディオネ!」

 ナレシは再び叫んだが、ディオネは少しも動かない。ナレシはその肩に白い布を当ててはいたが、止まることのない血に恐怖を覚えた。

「頼む、来てくれ……ミス」

 少女がナレシの前に降り立った。

「はあい。何がしてほしいのかしら」

 こんな時でも明るいミスにナレシは少しいらだちを感じたが、それを抑えてミスに頼んだ。

「ディオネのけがを治してくれ。僕は、何もできない……」

 しょーがないわね、とミスはディオネの肩にしばらく手を置いていた。その手から白い光があふれ、ディオネを包んだ。

「はい、治ったわよ」

 ミスは笑顔で、ナレシを見たが、ナレシが落ち込んだままなのを見て、こう提案した。

「ザラマンダーとリグナム呼んであげよっか」

 ナレシはかすかにうなずいた。

 ミスは目をつぶって何事かを呟いた。しばらくしたのちに、来てくれるってよ、と笑顔でナレシに言った。

「ありがとう」

 ナレシがお礼を言ったのにミスは少し照れた。

「何よ、今更、改まっちゃって」

 ディオネがそれを聞いてくすり、と笑った。

「よかった、ディオネ」

 ナレシはディオネに縋った。

「もうディオネが逝っちゃったらどうしようかと……」

「俺はそう簡単に逝かないよ」

 ディオネは笑った。

「さっきの、聞いてた?」

 ナレシがおずおずとディオネに聞いた。

「ああ、お前の本当の名がアキ・ノルヤだってことだろう。別に俺は気にしないからな。

 お前も家を捨てなければ、こういう風に生きられなかったんだろうしな」

「何も、聞かないんだね」

 ナレシはしみじみといった。

「聞いてどうする。俺が今聞いたところでお前にしてやれることは何もない。

 お前が話したくなったらいつでも話せばいい。それで荷が軽くなることもあるようだから」

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