襲撃
「アキ・ノルヤ。いるか」
荒々しく一人の男が入ってきた。
「ここにはそんな方はいません」
ディオネはさらりと言った。ふとナレシを見るとその顔は蒼白だった。
それでディオネは悟った。
「そんなわけはない。俺は二重人格に聞いたんだ!」
ナレシははっとした。その表情の変化を男は見逃さなかった。
「お前がノルヤか。お前が旦那さんのうちから逃げたせいで、俺は、俺は……」
そういうと、男はナレシに向かって切りかかった。
ナレシは激しい痛みを覚悟した、が、一向に痛みは来ない。ふと前を見ると、ディオネがナレシの前に立ち、その刃を自らの肩で受けていた。
鮮血がしたたり落ちる。
ディオネはその傷など、一切気にもしないというように、相手の手首をひねり、部屋の外に放り投げた。
「ディオネ!」
ナレシはディオネに駆け寄る。
「ナレシ……けがはないか……?」
ナレシがうなずくのを見て、ディオネは倒れこんだ。
「ディオネ!」
ナレシは再び叫んだが、ディオネは少しも動かない。ナレシはその肩に白い布を当ててはいたが、止まることのない血に恐怖を覚えた。
「頼む、来てくれ……ミス」
少女がナレシの前に降り立った。
「はあい。何がしてほしいのかしら」
こんな時でも明るいミスにナレシは少しいらだちを感じたが、それを抑えてミスに頼んだ。
「ディオネのけがを治してくれ。僕は、何もできない……」
しょーがないわね、とミスはディオネの肩にしばらく手を置いていた。その手から白い光があふれ、ディオネを包んだ。
「はい、治ったわよ」
ミスは笑顔で、ナレシを見たが、ナレシが落ち込んだままなのを見て、こう提案した。
「ザラマンダーとリグナム呼んであげよっか」
ナレシはかすかにうなずいた。
ミスは目をつぶって何事かを呟いた。しばらくしたのちに、来てくれるってよ、と笑顔でナレシに言った。
「ありがとう」
ナレシがお礼を言ったのにミスは少し照れた。
「何よ、今更、改まっちゃって」
ディオネがそれを聞いてくすり、と笑った。
「よかった、ディオネ」
ナレシはディオネに縋った。
「もうディオネが逝っちゃったらどうしようかと……」
「俺はそう簡単に逝かないよ」
ディオネは笑った。
「さっきの、聞いてた?」
ナレシがおずおずとディオネに聞いた。
「ああ、お前の本当の名がアキ・ノルヤだってことだろう。別に俺は気にしないからな。
お前も家を捨てなければ、こういう風に生きられなかったんだろうしな」
「何も、聞かないんだね」
ナレシはしみじみといった。
「聞いてどうする。俺が今聞いたところでお前にしてやれることは何もない。
お前が話したくなったらいつでも話せばいい。それで荷が軽くなることもあるようだから」




