ディオネの戸惑い
「そのあと、俺がお前を見つけたんだったよな」
ディオネが口をはさんだ。
あんときは驚いた、と言っているディオネを見ると、ナレシはなぜか胸が熱くなってきた。
気付くと、ナレシの瞳から、涙があふれてきていた。
「なんか俺、悪いこと言ったか?」
ディオネは慌てた。ナレシは懸命に首を横に振る。自分の感情が制御できない。ナレシは息苦しさにあえいだ。
ディオネはナレシの隣に座って、ナレシが泣き止むのをずっと待っていた。
「しかし、お前も相当数奇な星のもとに生まれたんだなあ……」
ナレシが落ち着くと、ディオネは、ぽつりとつぶやいた。
同情するでもなく、憤るわけでもない、ディオネの正直な感想がナレシには嬉しかった。
「それは君も同じだろ」
ディオネに笑って返しながら、ナレシはつくづくと自分の幸運を味わっていた。
自分を初めて見つけたのがディオネでよかったと、心の底からナレシは実感していた。
のちに知ったことだが、あの時はイレサインから逃げ出したものがいるということで追っ手がかかっていた。そんなナレシを守ったのは、スリンの二人の精霊だった。
当時ナレシは彼らを見ることも声を聞くこともかなわなかったが、気配だけは感じていた。
「あの時に来ていた精霊が陛下の友だったと知ったときには本当に驚いた」
「あれはスリンが、『なにかあったんでしょう』って言って送ってくれた子たちだ。いい子だっただろう?」
当時ナレシは彼らを見ることも声を聞くこともかなわなかったため、曖昧にほほ笑んだ。
「ザラマンダーとリグナムといったか」
ディオネは少し目を見張った。
「あれ以来、お前は、精霊使い(フェリア)を目指すようになったんだよな」
「いまではちゃんと精霊使い(フェリア)だよ」
二人は当時を思い出して笑いあった。
そんな平和なときは、突如として破られる。
ガタン、という音がして部屋の扉が乱暴に開かれた。




