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追われし者 中編  作者: 成瀬なる
学長室にて
20/31

ディプリとの出会い



 一筋の光も差さない暗闇の中にいると、時間の感覚がくるってくる。

 以前壊された両足がずきずきと痛む。

 自分の足が壊されたのが、いつのことなのか、この部屋の中にいる子供にはすでにわからなくなっていた。

「もういっそのこと、動かないなら、感覚もなくなってしまえばいいのに」

 子供はどこか冷静な頭でそう考えていた。

「前に、一度、変った人が来たな。まるで人ではないみたいな――」

「ほう、わかるか、小僧」

 そう声に出した瞬間、上から声が降ってきた。つかれた頭を持ち上げてみると、そこには一人の美少年が浮かんでいた。

「いったい、君は」

「僕かい?僕は二重人格(ディプリ)だよ」

「ディプリ?」

「さよう。私は精霊の一種だ」

 ころころ変わる口調にも頓着した様子は全く見せず、子供は次の言葉を口にした。

「で、何の用?」

 子供は疲れていた。このまま死んだとしてもそれも一興。誰かの口の端に上ることくらいはあろう。

「君は死にたいの?」

 少年が子供に問う。

 子供は頷こうとして、一瞬ためらった。本当にこのまま終わっていいのかと。ためらったのちに子供は自分を恥じた。今更何を求めるというのだ。

「よい。それがお前の本心よ。気に入った。

 私がお前と契約しよう」

 青年の口調で、二重人格(ディプリ)は言葉を紡ぐ。

 子供の首がわずかに上下するのを見て、二重人格(ディプリ)は声を張り上げた。

 それは美しく二重に重なり合い、絡み合って子供のもとに届く。子供はそれをしっかり受け止めた。

「ありがとう。ところでお前の名は」

 子供は首を横に振る。名前があったとしてもとうに忘れていた。もしあったところで子供はその名を言おうとはしなかっただろう。その子にとってその名前は忌むべきものでしかなかったのだから」

 二重人格(ディプリ)の表情にすこし寂しげな色が宿った。

「じゃあ、僕が付けてあげるよ。

 ナレシ(小鳥)というのはどうだい?」

 子供は一瞬反論しようとしたが、考え直してそう悪くもない名前ではないかと思った。

「いいよ」

「ありがとう、ナレシ。これで私も自由の身だ」

 そういうと、二重人格(ディプリ)はどこかに飛び去ってしまった。

「ディプリ」

 ナレシはすがるように名前を呼んだが、応えはない。

「そんなぁ……」

 ナレシはがっかりした。そしてその時初めて足の痛みが消えていることに気付いた。あれだけ変形していた両足も今ではもとの形に戻っている。

 歩けるかも、というわずかな希望を胸にナレシは立とうとした、がすぐに倒れてしまった。激しい物音がして誰かが気付くかも、と身をひそめたが、幸いにも誰にも気づかなったようだ。

「やっぱだめか……」

 誰にも気づかれなかったことに胸をなでおろしつつも、少しがっかりした。

 しかし、足の痛みが消えたのは幸いだった。これで今夜はぐっすり眠れる……。




 夢の中で、ナレシは二重人格(ディプリ)に出会った。

「ここから出たいか」

 ナレシは反射的に頷き、そして自分の今の体の状況を思い出し絶望した。

 そのナレシの思いを読み取ったかのように二重人格(ディプリ)は言った。

「悪いがお前は私の力を使っても歩けるようにはならぬ。ただし、私が乗り移るなら話は別だ」

「乗り移る?」

「つまり、お前の体を少し私に貸すということだ」

 ナレシは同意した。それだけでここから出られるならば、たやすい。

 その後しばらくナレシは意識を失っていた。気が付くとナレシは草原の真ん中に寝ていた。どうやら二重人格(ディプリ)が運んできてくれたらしい。重たい頭をめぐらすと、近くに一件の立派な建物が建っていた。

 それが、今二人がいる学舎、マシシ舎だった。



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