孤独
「メノウ様。陛下がお見えになりました」
メノウは疲れてはいたが、すぐに居住まいを正した。
「お通しして」
「分かりました」
侍女は一礼をして、一度部屋の外に出た。侍女は、スリンを部屋の中に案内した。
スリンはゆっくりと、しかし喜んでメノウの部屋に入った。
「久しぶりね、メノウ」
スリンのその顔を見て、スリンが女王としてきたのではないことを知ったメノウは、人払いをするように侍女に告げた。
侍女は少し不安げな表情を見せたが、メノウがあまりにも厳しい顔をするので、とうとう人払いをし、自らも部屋の外に出た。
「それでは部屋の外にいますので、何かありましたらすぐお呼びください」
メノウは苦笑し、うなずいた。
「それで、何があったの、スリン」
スリンは察しのいいメノウに感謝しつつ、口を開いた。
「言わなければならないことは二つ。カンディが襲われたのと、メルーナーがエルウィンの、いえ、サーミアの傀儡と成り果てたのと。
カンディはメルーナーに襲われたとみて、先ず間違いがないでしょう」
エルウィンはずっと寝込んでいて、サーミアは決して自分の手を汚さない。そんな度胸もないから」
メノウの顔色が変わった。
「まさか。そんなはずは」
「いいえ。本当のことよ。それでメノウに相談しに来たのよ。……まあ、対等に話がしたかったというのもあるけどね」
「精霊たちは」
「わたくしが王である以上、精霊狩りが行われているこの国で、精霊と話すことは賢明ではないわ。まあ、近いうちに精霊狩りなんて終わらせようと思っているけど」
メノウは合点がいったようだった。
「そういうわけでしたら、いつでもここにおいでなさい・わたしも少しだけお相手ができると思うから」
「ありがとう、メノウ」
そういってスリンは笑った。
メノウの部屋から出て、自室に戻ったスリンはたまらなくなって精霊たちを呼び出した、
「みんな来て……。寂しいよ」
「王とは、常に孤独なものなのだよ、スリン」
いかにももっともそうにトラクタスはスリンを諭す。それに反論したのはテンパスだった。
「スリンの寂しさはそういう類のものではないように思われる。信用していたカンディは重傷を負い、共に旅した仲間が豹変し、それに襲われるたのでは、寂しいだろう」
「ありがとう、二人とも……」
「昔話をしようか」
その話を黙って聞いていたウムスが、突然口を開いた。
「昔々、生まれたての精霊がいました。その精霊は契約の何たるかを知らず、安易に契約を交わしてしまいました。まだ、精霊が人間のしもべだったころの話です」




