王宮の地下で
「はあ、ひどい目にあった」
地割れの穴から魔法を使って這い出たメルーナーは王宮に向かっていった。門で身分証明書を見せ、王宮内に入る。
(あと、数日で前王の喪が明ける。そうしたら仕事がやりにくくなる)
こつ、こつ、と廊下を歩く音が静かな王宮内にこだまする。
階段を降り、地下にある一室の前でメルーナーは足を止めた。
コンコン、と扉をたたく。
「サーミル前宰相閣下。メルーナーです。エルウィン閣下のお加減はいかがですか」
ガチャリ、と扉が開き、恰幅のいい、ひげを蓄えた男が顔を出した。
「早く入りなさい」
メルーナーは勧められるままに部屋に入る。
「エルウィンは全く目覚める気配がない。もっと精霊の力を集めねば。
医者の話では、目覚めたとしても元の状態に戻るかどうかは分からないとのことだ。」
「つまり、動けなくなると?」
「その可能性も否定できないと」
沈黙が降りた。
「しかし、ニノが宰相になると、仕事が非常にやりにくくなるでしょう。何としてでも、王女殿下には、エルウィン閣下を宰相にしていただかなければ、なりません。
ですが、今のエルウィン閣下の状態では、それも難しいでしょう。ですから、代わりの人材を探さなくては」
「たとえ、エルウィンが回復したとしても、殿下がエルウィンを選ぶ可能性は高くない。何しろ殿下とエルウィンはほとんど面識がないのだから。
しかし、その点ではニノも同じだな……ふうむ」
「やはり、チャルダ・パサビが有力でしょうか」
チャルダ・パサビは平民出身で、民衆に人気があり、貴族からも悪くはない評価を受けている大臣である。
多くの大臣が名前で呼ばれることがないのに対して、パサビだけは役職名ではなく、パサビ大臣と呼ばれ、親しまれている。
「……邪魔だな」
「……邪魔ですね」
「狩れ」
サーミルの言葉にメルーナーは頷いた。
「仰せのままに」




