スリンの来訪
「学長」
急に声をかけられて、ディオネは物思いから覚めた。
ディオネが真の追われし者になってから、はや五年が過ぎようとしていた。
王が今年の春に崩御し、王の喪が明けたらスリンの即位式が行われる。
「ディオネ学長は王女殿下のことをご存じなんですよね」
生徒の一人が声をかけた。
「そうだが」
その生徒は目を輝かせた。
「噂に名高い王女殿下とお知り合いなんて……。なんでも、精霊使いなんですって?」
スリンはそののちにも何人かの精霊を従わせていた。あとは、時空を操る精霊のみ、らしい。
「ああ。フェリアとしても類まれなる素質を持っているといわれていた」
「学長」
生徒がさらに質問をしようとしたとき、部屋に教師の一人が駆け込んできた。
「スリン殿下がいらせられました」
応接室に通されたスリンは、少し居心地悪そうだった。何しろスリンは真の追われし者から王女になった者。人の好奇の的になって当然といえっば当然だった。
「スリン。どうしたんだ」
部屋に入るなり、そうたずねたディオネに、スリンは少し疲れた顔で微笑んだ。
「人払いをお願いしてもよろしいかしら」
ディオネはうなずき、イグノアに囁いた。
イグノアは了承した様子で、部屋の人を外に追い立てた。
「今のって」
スリンは少しおびえたように囁いた。
「イグノアだ。だが、今はわたしのところの教師だから、大丈夫だ。
それで、今日はどうしてここに来たんだ。いろいろ準備があるんじゃないのか」
スリンはうつむいた。
「ええ。けれど……」
スリンの表情をみて、ディオネは久しぶりに『読ん』だ。
(なるほど。フェリアの王女はいらないという言葉が声高く叫ばれているのか。
フェリア狩りが始まるくらいには)
王女であり、第一王位継承者であるスリンが伴も連れずにここに来たのはそういう理由だろう。
(王の崩御の次はフェリア狩りか……。この国も大変だな)
「それにしても、王女が精霊使いであると知っていて、なぜフェリア狩りをしようとするんだ」
疑問を口にしたディオネに、スリンは首を振った。
「分からないわ。
それとあともう一つ――」
それを聞いたディオネは瞠目した。