救助
俺たちは、もう諦めていた。
救助に来たヘリは数年前に壊れたままだ。
船の航路から離れているようで、船影を見たことが無い。
魚がとれるのと、島に自生しているイネ科のような食物のおかげで、飢える心配はない。
それに、遭難した時の船から逃げてきたという人たちも一緒にいた。
寂しくなかった、それが、俺たちを今まで生き続けさせていた原動力だろう。
それが変わったのは、新しい船が来たころだ。
このあたりは、なぜか知らないが、なかなか船が来ない。
だから、船が来るとは思わなかった。
「船がいるぞ!」
一番初めに気付いたのは、俺だった。
いつものように釣りをしていると、ふと目の前の海を見ると、超大型船が浮かんでいた。
「本当?」
「ああ、本当だってば」
すぐにみんないるところに戻り、伝えると、半信半疑の様子だ。
だが、すぐにこちらへ向かい続けているということを見つけると、やっと喜びだした。
「おーい!こっちだよー!」
その船は、灰色の船体をしていて、平らな船体をしていた。
「…気づいてくれるのかな」
「もう10年近く行方不明だったから、俺たちはきっと死んだものと思われているだろうな。もしも気づいてくれて、島に来てくれたのであれば、俺たちのことを原住民といっても不思議じゃない」
俺はだれか聞いた人に言った。
はたして、その船は、俺が見たことがない形状をして、迫ってきた。
「この船、超デカい」
「頭が平らなのはどうしてだろう」
それぞれ適当に意見を言い合う。
船尾には、見慣れた日章旗が翻っていた。
「俺たちの国の船だ…」
感極まって、泣き出してしまうほどの感動だ。
船はどんどんと近づいてきて、さらに、小さな船を船体から出して、俺たちを見つけたようだ。
「あなたたちは、どなたでしょうか」
英語で聞いてくるが、俺たちは日本語で返す。
「俺たちは、もう何年も昔に、近くであった客船沈没事故の生き残りだ」
それを聞いて、聞いてきた人が驚いていた。
「それって、12年前の、あの事故ですか」
「もう、そんなに昔か…」
よく生きていたというのが、彼らの考えだろう。
俺たちだって、ここまで全員無事に生きていたのが不思議なほどだ。
ともあれ、俺たちは12年ぶりに祖国へ帰還することができた。
12年ぶりの我が家は、すでに別の人のものになっていたから、俺は政府が用意してくれたホテルを仮住まいとすることになった。
ひさしぶりのベッドは、とても暖かく、懐かしい感じがした。
親とは、それから2日後に出会えた。
ホテルを引き払い、今では政府斡旋の仕事場で、実家から通って働いている。
ほかの子供たちも、親と無事に再会できたようで、たまに手紙をくれる。
今でも、俺たちがすごした12年間は、懐かしい思い出となって、俺の心の中にあふれている。