序章
更新はたま~にします。
気長に待っていただけると幸いです。
この世は戦乱の世。時は16××年。400年後程経って、その時代は『江戸時代』と呼ばれていた。
日本史の教科書を開いてみれば、徳川家康、徳川吉宗といった、徳川家による幕藩体制で知られる。
しかし、現代では語られなかった歴史の真実が必ずしも存在する。隠された秘宝、誰も知らない絶景、時代ごとに変わる人々、その時代にあった決まり。それら全てを知っている者など、この世にはもはや生存していないだろう。
これから語られることは、実際にあったかどうかはともかく、昔の人間の生き様を勝手ながら想像したものであり、架空の人物、建物、地名などが登場するので、いないとは思うが、くれぐれも歴史の勉強としては読まないでほしい。
ある平野地帯のほぼ中心地に位置する、沢出村。豊かな緑に囲まれたこの村は、涼しげに流れる川と、種類豊富な動物たちに恵まれていた。
この村の住人は皆、共通したある特別な力を持っている。
「音を作り出す力」。自然から流れる音の下に育った村人たちは、皆自分自身で音を作り出すことができる。
歌を歌う者、いろいろな材料で楽器を作る者、はたまた動物たちと共に音を奏でる者。
普通のように思えるが、この村の人々は、他の者とは違う何かを持っていた。例えば、歌を歌う者は、人とは思えない音を出し、楽器を作る者は、常人では複雑すぎて演奏できないような楽器を作り出す。この自然環境から流れ出る音たちが、村人に大きな力を与えたのだ。
この特別な村の中に、ただ一人、刀を持つ者がいた。本来この村の人々は、戦いを好まない。いくら江戸時代といえども、のどか過ぎるこの村に来る武士などいなかった。だから、戦もせず、武器も持たない。
しかしなぜか、戦もない村に刀を持つ者がいる。その者の名は「空」。10歳の頃、沢出村の外に出てしまい、その先にいた武士に左手を斬られたことで、武士そのものを恨み、刀を持つようになった。
今でも左の掌に深い傷跡が残っており、そのせいか、左手は刀を持つと、途端に震えだす。
空は、25歳の今日、この村を出て、武士への恨みを晴らすための旅に出ようとしていた。
鋭い目をしていて、村人からも恐がられている空は、堂々と村を出ることができた。
空の両親も、12年前に続けて亡くなっていたので、本当にその背中を引き止める者は誰もいなかったのだ。
しばらく歩いて田舎町に着いた空は、まず団子屋で休憩をした。田舎町と言っても、沢出村に比べれば、相当の都会なのだが。
店の者が出てきた。その者は少し怯えていたが、
「な、何か食べてくかい?」
と手揉みをしながら言った。空は、少し考えた後、
「この店の定番のものをくれ」
とだけ言った。