消えた3兄妹
基本はファンタジーです。
恋愛要素、冒険要素、いずれも盛り込む予定です。
あと、最初の方には無いですが、途中で残酷描写が入ります。
その部分には何かしらの印をつけようかと思っていますが、とりあえず中盤まではありません(笑)
そんな訳なので、そういうのが嫌いな方も安心して呼んでいただければと思います。
のどかな一日の筈だった。
小鳥のさえずりを切り裂くように、広い敷地の外にまで響き渡った老人の悲鳴が聞こえるまでは。
「何事なの!」
女主人代理を務める、長女のフランベルジェが昼食の打ち合わせをしていた厨房から飛び出した。
波打つ金髪を無造作に結い上げ、怪訝そうに形の良い眉を潜めていても、誉れ高いその美貌は変わらず麗しいままだった。
下女の一人が駆け寄り、悲鳴のした方角を指差した。
「フラン様、あちらです。あの声はきっと老師様のものですわ」
「ジュゼクの?何があったの?」
ジュゼクというのは、この家に祖父の代から仕えている薬師の事である。広い知識と深い親愛を持ち、血は繋がらなくとも家族として接する事のできる、数少ない人物の一人だ。
フランベルジェは結い上げていた髪を解き、新たに束ねなおしながら下女の差した方角へ早足で歩き出した。下女も慌てた様子でその後に続く。
「わかりません。今朝もお元気で、ハルバート様のお勉強を見て差し上げるんだと仰っていましたのに」
「ハルの?」
ふと、フランベルジェの足が止まった。
「……あっちはハルの部屋ね」
「はい、フラン様」
フランベルジェという名前が嫌いではないが、長ったらしくて呼びづらいからと、彼女はいつも家族や家で働く者達には略した愛称を呼ぶ事を許していた。勿論、それ以外の人間には一回たりとて許した事はないが。
「あなたは西の棟に行ってランスを呼んできて。カタールは多分温室にいて声が聞こえた筈だから、呼ばなくてももう行ってると思うわ」
「はい。でも、フラン様は……?」
下女が不安げに悲鳴の方角とフランの顔を交互に見比べながら訊ねる。
「大丈夫よ。この家の中では悪い事は起こらないから。ランスはすごく不機嫌だろうけど気にしないで連れてきて。私が呼んでいると言えば大丈夫だから」
「かしこまりました」
下女は頷くと、小走りに西の別棟への渡り廊下を駆けて行った。