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さらさらと鉛筆でスケッチを描いていく。仕事の途中なので簡潔に、けれど特徴をつかむように、時には文字で注釈をつけて。


一通り描き終えるとスケッチブックと鉛筆を背負っているリュックに片づけて再び歩き出す。

この作業にも慣れてきた。さすがにモンスターの蔓延る外でのんびり座ってキャンバスを広げて、なんて出来るはずもないので私のスタイルはいつも荷物を持ったまま、立ったまま描き殴るというもの。傍らにすぐに戦闘が出来るように鎚を立てかけている。


私が描くのはもっぱら風景のみ。町並みや人物もいいがこう、恥ずかしいし。だからこういう一人で探索に出たり町と町との移動の時にスケッチを取り、宿なんかでもう少し細かく描き込んでみたりしている。別に人に見 せたりするわけでなく、完全な自分による自分の為の自給自足だったりする。



「おっ、目標発見」


目の前にはいっそ見事なまでに毒々しい巨大な蛾。最近この森に住み着いた奴らしいのだが、毒粉はまき散らすは幼虫は森を喰い荒らすはで近隣の住民が泣きついてきたらしい。たまたまギルドに私しかいなかった上私もちょうど仕事がなかった為受けたがこれはしくじったかもしれない。


本来、この蛾モンスターを倒すのはそれほど難しくはない。羽さえもぐか傷つけるかすれば動けなくなるし、火にとても弱い。だから火炎石と呼ばれる魔力を込めると発火する道具を買い付けてきたのだが、状況が悪い。

普通なら毒に気をつけながら、成体の羽に火をつけて弱体化して地に落ちたところを倒し、幼虫はその後始末するのだがちょうど蛹になる前だったらしく辺り一面は糸が張られ繭があちこちに出来ている。こんな状況で火を放てば下手をすれば大火事になりかねない。

しかもおとなしいはずの蛾モンスターもかなり気が立っているらしく、近づく前に気づかれた。


積んだ。


鎚を基本に戦う近接戦闘員な私は火炎石などの道具を使わなければ飛行系モンスターに対抗する術がない。弓なんて使えないし、魔法は適正がないのか本当に少しのものしか使えず、当然攻撃なんてもってのほか。

毒液をはきかけてくる蛾モンスターにどうしようかと悩む。基本的にトロいし毒液や羽ばたきなんかの攻撃は狙いが分かりやすい為に避けやすい。


毒消しもあるしこれは特攻するしかないか?と思ったが、足下も糸が粘ついているあそこに踏み込むのはなかなかに勇気がいる。と言うことで手段その2。


投石である。原始的ではあるがこれが今とれる方法で最良だと信じる。幸いにも相手はでかい。数打ちゃ当たる。足下にある石や木を手当たり次第に投げつける。・・・羽ばたきに負けて届かない。なんてこった。

むしろ怒った奴はこちらに猛攻してきた。ああ、もう仕方ない。ばしゃりと毒液が肩にかかる。どくりとその部分に鈍い痛みと熱がこもるが無視して踏み込む。

ぐっとしゃがみ込み、毒液を吐き出したばかりの蛾モンスターの前へと飛び上がる。奴のところまで飛び上がるほどの脚力はないが、鎚は届く。振りかぶった鎚は、踏ん張りがきかない為に普段の威力はないが、それでも蛾モンスターの腹に入ったその一撃は倒すに十分な威力だった。


その後、蛹直前の幼虫をつぶして回り、仕事は終了。どうやら羽を傷つけず倒したのがよかったのか蛾モンスターの羽を手に入れた。あと幼虫の糸。何に使えるかは分からないが素材屋に持っていけば売れるだろう。


ひとまず私はその場に腰を下ろす。肩に受けた毒は毒消しを使ったので消えてはいるが、ダメージは負っている。薬草をすりつぶした塗布薬を塗って包帯を巻く。正直毒を受けた部分の布が変色して気持ち悪いが、よけいな荷物を持ってきていない為肌着だけかえて上着とマントは紫色のままだ。

これは買い換えかな、と痛い出費に思いを馳せながら私は町へと戻っていった。



「トウっ!」


町に着くなり、私を呼ぶ声。誰だ。

ちなみにこの町に知り合いはいない。言葉が通じないからだ。


振り向くと、そこには背の高くなった


「ニミナげっふぅ!」


はしゃぐわんこがいたような気がした。

現在私は毛玉に埋もれている。


「な、なんだ?」


「まったくなんで俺のいない間にいなくなっちゃうのさ!偶然見かけなけりゃ絶対二度と会えてないよ?」

ニミナの毛でした。てかちょっとまて。


「ニミナ?本当か?」


「当たり前じゃん!あれ?トウ縮んだ?」


あの村に居たとき、ニミナは私より頭一つ低かった。それが見上げなければならない位置にニミナの顔がある。


「ニミナがでかくなった。」


「そうかも。でも久しぶり」


そういってまた視界は毛玉に覆われる。これは確実にしっぽがちぎれんばかりに振られているとの確信をもちながら。


「でもニミナ、なんでこんなところに?」


さすがに毛玉攻撃から解放され、宿へと移動した。ニミナはこの町にきたばかりだったようで同じ宿をとったようだ。


「仕入れだよ!この辺りは木の力が強いから良質の香木が多いんだ。最近は医者以外にも女の人に人気があるし。」



かくいうニミナは現在は旅の商人をしているそうであちこちを飛び回っているらしい。


「トウはもしかして最果ての街を目指しているの?」

「は?」


特に意味なく上へ向かっていただけだったりするんだが。


「冒険者は一度は行くって言うしね。何だっけ?世界樹には奇跡を起こす力が合るとか?トウそういうお話好きだったもんね。」


「お話・・・」


・・・。

・・・。

・・・。

おい私。

絵なんて描いてる所じゃないじゃないか!なにやってんのねえ何やってんの!?

そうだよ帰る方法探してたんじゃん!

何慣れきってんだよ。と自己嫌悪。いやいやまて、さっきのニミナの言葉を思い出すんだ。世界樹?奇跡を起こす?そう。きっと私は自分の知らぬ間に最善を選択していたんだ!


「誰もたどり着いた人はいないらしいけど。」


オーケイニミナ、そんな話は聞きたくないんだZE!


「ニミナ、それは自分の目で確かめることだ。」



そういうとニミナはパチパチと瞬きしたが、そうでなくっちゃとニコニコしだした。


「あ、そうそうトウ、その服変えないの?


そういわれて気づく。そういやまだ毒のついたままだ。


「あー、買いに行かないと。」


その言葉にぴくりと反応するニミナ。


「じゃあ、これなんてどう?トウに似合うと思うんだ!」



そういって出してきたのは、オレンジの鮮やかな刺繍の入ったダークベージュの上着。刺繍自体は見事な物だが、生地の色味と合わさってそれほど派手ではない。

「へぇ、いいなこれ。いくらだ?」


「ん、再会記念にあげるよ。珍しい服だからか大した値も付かずに困ってたんだ」


「そんなもん着せようってのか」


「いや、トウは似合うからいいの。女の子なら少しは服にも気をつけたらいいと思うよ?」


くそう、子供子供と思っていたが、いい顔して嫌みか。女の子なんて歳はとっくの昔にすぎたよ。でも、似合うと言われていい気がしない分けでもない。


「じゃあもらっておく・・・」


そういうも何の代金もなしだと気が引けるので鞄を探る。おっ、そうだ。


「これ、さっき倒したモンスターの素材だ。よかったらもらってくれ。」


蛾の幼虫の糸だ。羽は毒が合るだろうしこっちでいいだろ。どちらかと言えば市で見ないので珍しい物だろう。私も初めて手に入れたし。いや、役に立たないからかもしれないが。


「うわ、毒蛾の糸じゃんか!いいの?こんなのもらって?」


貴重な方だったらしい。良かった。


「いい。ニミナにあげる。」


えへへ、とほくほく顔で糸を自らの鞄に詰めるニミナ。そんなに珍しいものなのか?


「さてと、俺、明日朝にはトラナカクに出発しないといけないからもう戻るね。あ、これ俺の番号。」


「ああ、私のはこっちだ」

互いに番号を交換し合う。この番号があればギルドで相手に伝言を残すことが出来る。

電話なんて物がないし、手紙のやりとりをするには互いの居場所が安定しない冒険者や商人がとる連絡手段である。


「じゃあ、お休み、ニミナ」

「うん、お休み!あ、明日朝ご飯は一緒に食べようね!」

「ああ。」


さあ、次の目的地は最果ての街だ。地図を確認すると、今の大陸の上端から船で次の大陸に渡り、さらに上に向かうようだ。

・・・結構遠い。

こうしてゲートという街から街へと移動する手段を知らないまま私は長い時間をかけて最果ての街へと向かうことになるのだった。

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