表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

アテネは誰を救うのか

掲載日:2026/08/04

 2074年7月、その日は珍しく数学の担当教師が体調不良で休みを取った為に、久しぶりの自習授業となった。

 とはいえ、自習と言っても高校3年生となった私達は、大学受験や就職活動に追われる身である。騒ぎ立てることも無く、各々が談笑しつつも自習に取り組んでいた。

 私も周りにつられるように、電子ペーパーの教科書を開き、自信のない数学に取り組んでいたが、学校から使用が義務付けられているシャープペンシルの芯が折れたときに、ふと異臭を感じた。最初は私だけだと思っていたが、次第に一人の男子生徒が「なんか臭くね?」と呟くと、他の生徒も少し顔をしかめたり、顔を合わせていた。

 私もたまらず、一ヶ月ぶりに学校に来た親友の美香に「なんか臭うよね?」と聞きながら振り返ると、彼女は黒く長い髪を机に広げ突っ伏していた。


「ねぇ…、大丈夫?」


 思わず美香の肩を揺すると、それに合わせて机に広がった長髪の波間から、彼女の目元と耳元が露出した。瞬きも1つもせず、ただ虚空を見つめている眼球。耳には彼女が愛用していた黄色のカナル型の有線イヤホンが装着されている。しかしながら、1ヶ月前に私に見せてくれた、あの弾ける様な笑顔は無い。


「美香ッ!?ねぇ、美香起きて!」


 異常を感じた私は、席から立ち上がり、肩を激しく揺すろうと美香の席に近付くと、足元に水溜まりがある事に気がついた。いや、これは水では無い。これは先程から漂う異臭の原因――。


「おい、大丈夫かよ小森…、うわ身体が冷たいんだけど…。」


 隣席の皆川君が、声をかけながら首筋の冷たさに驚愕すると、周りのクラスメイト達も目前で起きた異常に反応し、各々が動き始めた。隣の教室から先生を呼びに行く者、金切り声をあげて固まる者、職員室へAEDを取りに行く者、彼女を抱きかかえ、床に寝かせて心肺蘇生を試みる者。


「脈がねえぞ!」

「先生まだか…、あっ来た!」

「救急車呼ぶよ!?いいね!?」


 そんな光景を前に親友である私は、ただ立ち尽くす事しか出来なかった。


〜〜〜


『20年前、人類にもたらされた“アルツハイマー型認知症を治せる”という福音。しかし現在は、若者たちの未来を奪い世界に絶望をあたえるものとなっています。』


『東京都の高校にて、授業中に女子高生が突然死する事故が発生しました。警察はデジタルドラッグ“メドゥーサ”の使用による死亡事故として、捜査しています。』


 本来は日本の音響メーカー“クラサカ”と、米国の“アリア製薬”の異業種かつ日米共同プロジェクトによって製造された音響データ技術であった。開発当時のコードネームは、「原因を打ち砕き、患者に知を取り戻す。」という願いを込めて、戦いと知を司る神から「アテネ」と名付けられた。


『死因は急性脳症による脳出血とみられ、警察が入手経路を含めて捜査を進めています。』


 しかしながらこの“アテネ”は、5人の治験者達に死をもたらす結果となった。

 2種類の高周波を一般的なカナル型イヤホンから出力し、蝸牛内部の有毛細胞を刺激する事で、強烈な電気信号を大脳皮質へと伝達させ活性化させたミクログリアがアミロイドβを分解、さらに耳骨も振動させる事で脳全体の細胞活性化を行い、アルツハイマー型認知症を治療する――。一般的な音楽データと変わらない手軽さと低コストを両立させた画期的な治療技術であったが、あまりにも強力な変異タンパク質除去性能が仇となり、6人の被験者のうち5名が施術後14日以内に死亡、その内2名は錯乱の末の自殺であった。


『また、大阪府の道頓堀にて30代男性が――。』


 ニュース原稿を読み上げる男性アナウンサーの険しい表情に満足したのか、坊主頭の年老いた男が、白髪交じりの顎髭を擦りながらテレビモニターの電源を切った。


「いやぁ、まさかここまで“アレ”が流行るなんてな。」

「やっぱり、技術者としては心が痛むのかい?マツさんよぉ。」


 “マツさん”と呼ばれた坊主の男は、その問いかけを鼻で笑うと、寂れた工場の一角に飾られた、技術者達の集合写真を見つめながら、満面の笑みを浮かべた。


「逆だよぉ、トオルちゃん。あんなに、あんなによ、世の中から袋叩きにされた“アテネ”がなぁ…。今じゃ、喉から手が出る程に求められているわけよ。」


 古びたパイプ椅子に腰掛け、オーダーメイドのスーツに身を包んだ、白髪頭の“トオルちゃん”に、マツさんは唇を震わせながら語りだした。


「あの頃みたいに興奮しすぎてよ、心臓がイカれそうだよ。」

「だよねぇ、そうこなくっちゃね。」


 マツさんが見せた笑顔に、トオルちゃんは安心したように相槌を打った。

またしてもホラーかどうか分からん文書を書きました。

元々、このアテネの設定で一本書き上げたかったですが、何時までもホコリを被らせる訳にもいかんので、昔書き上げた冒頭部分を晒しておきます。

実は隠れ設定で「スピーカーやオープンイヤーイヤホンから出力すると効果が80%激減する」

「コピーを繰り返すと劣化する」

「オリジナル音源は億単位で取り引きされる」

「メデューサでキメる事を“プラグ”と呼ぶ」

とか色々盛り込んでました。

またいつか、これでSF書きてえなぁ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アルツハイマー型認知症の新治療法という触れ込みで世に出た技術が、今や致死性を秘めた電子ドラッグですか… 昔から「薬も過ぎれば毒となる」と言いますが、身体に何らかの作用を及ぼす物はその辺り表裏一体なのか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ