プロローグ
「出会った時のお前は、まだ子供だったな。10も違うガキの世話なんざ御免だと、本気で思ったもんだ」
清潔感のある真っ白なシーツがひかれたベッドに横たわっているのは、長い黒髪を持つ女性。
この国では彼女のように黒い髪の者は滅多にいない。
にも関わらず、彼女を発見するのに1年余りの時間がかかったのは、おそらく彼女自身が意図的にこの髪を隠して生きてきたためだろう。
リーヴェは彼女の髪を一房丁寧にすくい上げる。
日光に照らされた黒髪は、やや深緑色に反射していた。
すくった髪を指で擦るように遊ぶが、この程度では閉じられた彼女の瞼は開かない。
「再会した時は5歳上だったか。全く…あの時は仕返しと言わんばかりに歳上ぶりやがって」
だが、と、リーヴェは言葉を紡ぐ。
彼女の髪を離した右手は、次にその髪の主の左頬を撫でた。
まだ彼女の意識は深い底にあるようだ。
「まぁ…今となっては、貴重な体験だったと言えるか。同一人物が歳下だったり歳上だったり、普通ありえないだろ」
仏頂面、いつも不機嫌そうとよく評価される彼だが、今この瞬間の彼だけを見れば、そういう印象を持つ者はいないだろう。
鉄を溶かした時のような、彼の橙とも黄とも取れる輝く瞳は、彼女を優しく捕らえている。
「それで……今は同い年か。なぁ、今度はどんな態度でくる?」
ベッド近くの窓から、風が吹く。
背中まであるリーヴェの赤髪や、彼女の前髪を揺らす。
「早く目覚めて教えてくれ、カノ」
髪を揺らす風は、不思議と慈しんでくれているように感じた。




