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【第3章完結!】国を捨て、悪役令嬢は優雅な旅に出る  作者: 月雅
第2章

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第10話 新たな旅路と帝国の闇



「見ろ、エリカ。俺たちの顔が特等席に飾られている」


カイルが苦笑しながら、一枚の羊皮紙をテーブルに置いた。

場所は商業都市の郊外、街道沿いの安食堂だ。

私たちは変装用のローブを被り、遅めの朝食をとっていた。


カイルが持ってきたのは、今朝発行されたばかりの手配書だった。

『重要指名手配:破壊活動および違法兵器使用の容疑。銀髪の男と、魔女のような女』

似顔絵はあまり似ていないが、特徴は捉えられている。

懸賞金の額は、私がヴァインに請求しようとした額よりはるかに安かった。


「……魔女のような、とは失敬ですね。私は善良な一般市民兼技術者ですよ」

「街一つ分の兵器を吹き飛ばしておいて、一般市民はないだろう」


カイルがスープを飲み干し、真剣な顔になった。

「冗談はさておき、潮時だ。ヴァインの悪事は露見したが、評議会はメンツを潰されたことに腹を立てている。このままここにいれば、面倒なことになる」


彼の言う通りだ。

私たちは街を救った英雄かもしれないが、同時に大規模な破壊行為を行った危険因子でもある。

権力者というのは、御し難い力を何より恐れるものだ。


「逃げますか? また別の国へ」

私が尋ねると、カイルは少し考え込み、頷いた。

「北の雪国か、西の砂漠か。お前が行きたい場所ならどこへでも」


彼は私の安全を最優先に考えている。

昨日までの「過保護」とは違う。

私の意思を尊重した上で、私の望む場所へ連れて行ってくれようとしているのだ。


けれど。

私は手元の冷めたコーヒーを見つめ、首を横に振った。


「いいえ、カイル様。逃げるのはやめましょう」

「……どういう意味だ?」

「逃げても、また同じことが起きます。私の技術は魅力的すぎますから、第二、第三のヴァインが現れるでしょう。それに……」


私は顔を上げ、彼の金色の瞳を真っ直ぐに見つめた。

「貴方の故郷に、落とし前をつけていませんよね」


カイルの目が大きく見開かれた。

「まさか……帝国へ行く気か?」


「ええ。ヴァインさんは言っていました。帝国との交渉が決裂した、と。そしてセシリア殿下は、違法兵器を回収しに来た。……つまり、帝国では今、私の技術によく似た『何か』が動いている」


私の『スイートホーム号』の技術は、前世の知識とこの世界の魔導工学を融合させた独自の体系だ。

それがこうも簡単に模倣され、兵器転用されようとしている。

情報の出処を突き止め、蛇口を閉めなければ、私の平穏な車中泊ライフは永遠に脅かされ続けるだろう。


「技術流出を止める。これは商会主としての業務です」

私はもっともらしい理由を並べた。

けれど、それは半分建前だ。

本音は、もっと個人的な理由だった。


昨夜、カイルは私を守るために、自分の未来を売り渡そうとした。

彼をそこまで追い詰めた「帝国」という国。

彼が捨て、そして未だに縛られている過去。

それを知らずに、隣で笑っていることはできないと思ったのだ。


「危険だぞ。セシリアは見逃してくれたが、皇帝や軍上層部は違う。俺は脱走兵で、お前は国家機密を握るイレギュラーだ。殺されるかもしれない」

「その時は守ってください。最強の騎士様」


私が悪戯っぽく微笑むと、カイルは呆気にとられ、やがて噴き出した。

「ハハッ……! 敵わないな、お前には」


彼はテーブルにコインを置き、立ち上がった。

その顔には、もう迷いも暗さもなかった。

「了解だ。行こう、エリカ。地獄の底だろうと、お前の家がある場所が俺の居場所だ」



私たちは森の中に隠してあった『スイートホーム号』に戻った。

黒いボディには昨夜の戦闘の傷跡が残っているが、機能に支障はない。

むしろ、激戦をくぐり抜けた勲章のように見えた。


「システム・オールグリーン。動力炉、出力安定」


運転席に座り、パネルを操作する。

助手席にはカイル。

彼がいるだけで、コックピットの空気は完成する。


「カイル様、魔力供給をお願いします。今回は長距離フライトになりますよ」

「任せろ。朝飯分くらいは働いてやる」


カイルが腕輪に手を触れる。

黄金色の魔力が回路を駆け巡り、車体が浮力を得てきしんだ。


「目的地設定……『ガレリア帝国』」


ナビゲーションマップの北端をタップする。

そこは地図上で赤く塗られた軍事国家。

険しい山脈に囲まれた、鉄と火薬の国。


「フライトモード、起動!」


ズオオオオォォッ!

スラスターが火を噴き、翼が展開する。

『スイートホーム号』は重力を振り切り、一気に上昇した。

森の木々が小さくなり、港町の全景が眼下に広がる。

青い海。白い雲。

美しいリゾート地だった。

商売は失敗したけれど、もっと大切なもの手に入れた場所。


「さらばだ、南国」

カイルが窓の外に向かって軽く手を振った。

「次は観光で来たいものだな」

「そうですね。その時は、ヴァインさんに迷惑料を請求しに行きましょう」


車は雲を突き抜け、成層圏に近い高高度へと達した。

ここなら地上の検問も、国境警備隊の目も届かない。

空の色が濃紺へと変わり、星が近くに見える。


「エリカ」

「はい」

「帝国には、古い遺跡があるんだ。俺が子供の頃に遊んだ場所だが……最近、そこで妙な発掘が行われているらしい」


カイルが前を見据えたまま言った。

「セシリアが言っていた。『古代の遺産が目覚めようとしている』と。お前の技術が狙われたのも、それに関係しているのかもしれない」


「古代の遺産……」

胸の奥で、何かがざわついた。

私の転生。

前世の記憶。

そして、この世界に存在するオーバーテクノロジー。

それらは偶然の一致なのだろうか。


「面白くなってきましたね。私の商売敵になりそうな遺産なら、徹底的に解析してやりましょう」


私はアクセルを踏み込んだ。

恐怖はない。

不安もない。

隣には彼がいる。

足元には最強の家がある。


「行きますよ、カイル様!」

「応! 全速前進だ!」


銀色の流星となって、私たちは北の空へ消えていく。

その先には、分厚い雲に覆われた帝国の影が待っている。

けれど、私たちは知っている。

雲の上には、いつも青空があることを。


終わらない旅の、新しい章が幕を開ける。


(完)


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