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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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5-1:猫と僕との関係 駆け落ち的なアレではないよ?

少し時間を掛け過ぎたかも知れない。だが時間をかけただけあって体の調子は好調だ。

焼け焦げた皮膚も筋肉も元通り。すっかりダメになっていた肺だって綺麗に復元出来ている。流石に脳まで損傷していたら短期間での完治とは行かなかったが、柏木さんが作ってくれたヘルメットが実に良い仕事をしてくれたようで、そこは大丈夫だった。それこそ、飛んだり跳ねたり殴ったり殴られたりしても大きな問題は無さそうに思える。


ただ火傷を負ってからこっち無理をし続けた代償として魔術回路がわりと酷い状態。こちらも時間をかければ治る事は治ると思うが、流石にあと数日で完治するとか、そういう話ではないレベルで痛んでいる。だが、ゆっくり休めるかと言えば、そうじゃないのが困ったところ。


柏木さんから状況を聞く限り想定外の事態が起こっている。事態の進展のタイミングが明らかに『早い』。背景も事情もよく分からないし、体も万全とはいかないけど、恐らく僕も前倒しで動く必要が出て来るのだろう。

それが分かったのも、今回死なずに済んだのも柏木さんのおかげ。この恩をどうやって返したものか、それが目下の悩み。




病院から出た後、僕と柏木さんは山奥の自称ペンション(どう見ても民宿)に滞在していた。目的は僕の治療のための時間稼ぎ。回復魔術を使い続けてはいるが、元々の状態が酷かったので、それなりに時間はかかる。と言っても、意識がはっきりしている事もあり、入院していた時と比べて回復速度は段違い。現に宿に到着した時点で自力で歩けてたし、御飯も普通に食べられたからね(吐いちゃったけど)。で、仮眠を挟んだ後(柏木さんがヨレヨレだったので、もっと話をしたかったけど我慢した)、状況を聞いたのだけど、結構酷い事になっていた。例の薬は協会の関連団体の中で大蔓延。しかも頑張って回収していたはずの人達が主な利用者だった上に、現在は組織丸ごと逃亡中。

この団体だけど前に会いに行った安藤っておじさんが代表なんだって。酷いよね、純朴な僕達を騙すなんて。


「安藤氏だけが犯人とは限らないっすよ。協会を裏切ってビル爆破までしてるぐらいだし、他にも協力者や共犯がいるかも知れないっす。だから今は復讐とか考えずに大人しく回復に専念をお願いするっすよ」


冷静な意見を頂いた。

あと別に良いんだけど、柏木さんって語尾の「っす」を敬語か何かだと思ってるよね。無理やり付けてるから、そこそこ違和感。


「ありがとう。状況分かったよ。確かに今のボロボロの体じゃ何も出来ないしね。せっかくの民宿だし、ゆっくりさせてもらおうか。柏木さんも凄くお疲れみたいだし。あとさ、別に僕に敬語とか使わなくていいよ?ほら命の恩人なんだし」


少し助け舟を出してみる。もう無理に「っす」は付けなくても良いんだよと。


「いや、そんなわけにはいかないっす。赤松さんには大きな恩があるんっすから」


そっか、なら仕方ないね・・・これからもよろしく。


さて、実はここで柏木さんには言っていない事がある。それは、『僕』がこれから起こる展開を知っているという事。ただ分からないのが何故こんなタイミングなのかという事。このまま事が進めば極東支部が即座に動かせる最大の戦力として『ナギ』が投入される事は間違いない・・・途中までなら全然入ってくれていいし、むしろガス抜きに丁度いいぐらいなんだけど、でも最後の段階に立ち会わせるわけには行かない。この段階で『二人』を引き合わすと、後の動きがどうなるかが予測出来なくなる。


何処かで軌道修正をする必要がある。とはいえ、僕はまだボロボロの状態で動こうと思っても何も出来ない。事が起こるのが先か、僕が回復するのが先かの勝負って感じなのかな?勝負といっても、じっと回復魔術を使い続けるだけの地味な勝負なのだけど。

そして、肝心の情報収集については


「ねぇ、柏木さん。協会が今回の件でどう動いているかってリアルタイムで掴めたりする?」


「メールなら見れるっすよ。本部の人はガード硬いんですけど、地方の団体はざるっすからね。今も俺たちの事を協会が見つけてないかはチェックしてるんっすよ。昔ながらの無線とか魔術とかが連絡に使われてたら分かんないっすけど」


「あー、んじゃ大丈夫か。メールだけ確認してくれたら十分だと思うよ。何か大きな動き・・・逃げてる犯人達が見つかるとかあったら教えてよ。それまでは回復に専念するからさ」


そんな僕の言葉に柏木さんは何故かちょっと苦しそうな顔をしている。

あれ?仕事を頼み過ぎたか。というか、これお給料出るのかな?協会にも言ってないけど・・・不味いな。命の恩人に無給の仕事を頼んだ可能性が。いや、でもこれはどうしても必要だし、いざとなったらポケットマネーで・・・あんまり無いけど。


「分かったっす。情報収集はしばらく待ちの状態なんで、前倒しで赤松さんの装備に手を入れておくようにするっすよ。

もう簡単に壊れたりしないように強化しておくっす!!いつの間にか車に積み込んであった白い奴の死骸、あれが凄く高純度の魔力を含んでるみたいなんで、あれを使ってみようかと。きっと良い物が出来るっすよ!」


なんか分からんけど、やる気に満ち溢れておるね。というか、装備が壊れたのを気にしてたのか。でも・・・あの白い犬の原材料を知ったら引くだろうな。

まぁ、いいか、黙ってたら『今は』バレないだろうし、アレを材料に何かを作るなんて僕には無かった発想だし。細かい事には目をつぶって期待して待っていよう。




そして、そこから数日の間、何事もなく平穏に時間は過ぎていった。

僕は回復魔術を使い、御飯を食べ、寝たい時に眠り、また回復間魔術を使うという引きこもり系魔術師としての生活を送っていた。もちろん、その間も、柏木さんは協会内の通信の盗み見&装備の改造に勤しんでいた。えらい!働き者!


ちなみにペンション(仮)の人達は気を使ってか、ほとんど干渉してこないし、話しかけてもこない。なんとなく生暖かい視線を感じる事があるから、駆け落ち的なアレと思われているのかも知れない。柏木さんって線も細いしシュッとしてるから。


それはそれとして御飯は牛肉が多くて美味しくて素敵。ひょっとしたらお高いお宿なのかもしれないけど、柏木さんが仕切ってくれているので僕は何も知らない。お世話になりっぱなしで心苦しいよ?借りが毎日積みあがっていくよ?ありがとう。本当にありがとう。

そして、ある日の朝方


「赤松さん、見つかったらしいっすよ!隠れてた安藤一派!協会が追い込みに行くって!!」


珍しく興奮気味に柏木さんが捲し立てる。それでも僕に見せつけてくるノートPCの距離が適切な辺りに誰かとの違いを感じた。


「なるほど・・・これなら、たぶん依城さんの単独投入でケリが着くね。構成員は200人ぐらいだったっけ?それぐらいなら問題はないだろうから」


「・・・いや、メッチャ多いっすよ?200人っすよ?」


「それぐらいなら依城さん一人で問題無いよ。あれよ、彼女、僕よりメッチャ強いよ」


「意味が分からないっす」


「大丈夫。僕にもよく分からないとこあるし。それはそれとして、この騒動は今日で終わると思うけど、すぐ後に事件の幕引きが始まると思うんだ。

だから明日か明後日には動けるように準備を始めたいんだけど大丈夫かな?」


柏木さんは少し訝し気な顔をしていたが、


「了解っす。見た目は不格好かも知れないけど、急いでスーツ仕上げとくっす!」


そう言って早速作業に戻っていった。


さて、無事に進展してくれるといいんだけど。



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