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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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3-4:猫と汚染の拡大 少しだけ気分が晴れた気がします

 目的があると気分が少し落ち着く。そんな事を思いながら、私は現場に向け移動を開始した。


 新幹線の中で資料を読み込む。あまり大した内容は書いていない。役に立ちそうなのは潜伏場所の見取り図ぐらいのものか。


 あれから、赤松さんとクロちゃんが行方不明になってから、一人でじっと考えていた。彼らはどうしているのか。

 よくよく考えれば、あの二人がビル火災程度で死んでしまうとは思えない。特に霊体化出来るクロちゃんがどうにかなる事は普通に考えたら・・・まぁ、無いと思う。ましてや、あの二人が『普通』の人達に監禁されているとか、そんな事こそあり得ない。彼を上手に拘束しておく方法なんて私にだって思いつかないのだから。彼なら、たとえケガを負っていたとしても少しでもマシになった途端に取り返しのつかない大暴れをしてくれるはず。それにどんな状況にあったとしても「助けを求めてクロちゃんを送り出す」ぐらいの事は出来る。


 なら彼らは今どうしているのか?


 負傷した傷を治しているか、あるいは何処かに潜伏して機を伺っているのか。

 正直分からない。こんな時に彼らがどういった行動をとるかが、まだ私には想定出来ない。

 ただ、そう考えると爆破の実行犯を締め上げたところで得る物は多くないのかも知れない。「ひょっとすると彼がいるかも知れない」そんな可能性がある以上、手を抜くわけにはいかない。でも、期待するのも違うように思える。


 それに・・・


「薬剤については新たに生産が開始されている可能性が高いって・・・」


 課長からもらった資料には、そんなどうしようもない事も書いてあった。

 生産者がもう死んでいると思ったから、根絶まで後少しだと思ったから、強引な手まで使って回収していたのに。これじゃあ、ただ薬の集約作業を手伝っていただけみたい。

 協会を手玉に取るような無謀な事を誰が考えたのか。そこは少しだけ気になるところではあるけど・・・


「まぁ、あいつを締め上げたら分かるだろうし・・・別にいいか」


 到着したら早速荒事だ。だから、それまで少しだけでも休んでおかないと。




「依城です。よろしく」


 駅から出ると、迎えが用意されていた。流石課長、準備がよろしい。迎え担当はスーツ姿のサラリーマンスタイルのお人。一見では魔術師には見えない完全な擬態。

 こちらに向けて一回頷いただけでスタスタと駐車場に向け歩いていく。こっちもめんどくさいから別にいいけど、一言も話しかけてこない。たぶん、私についての悪い噂話でも聞いてるのでしょうね。


 現場までは車で移動。実に高そうなセダンなので、なんだか偉くなったような気分。シートもやけに柔らかいしクロちゃんが居たらハイテンションになっていたかも。赤松さんは無駄に緊張してカチコチになっていたか、あるいは何も気づいていないかのどっちかでしょうね。

 ・・・・・・

 ・・・

 なんだか疲れました。少し休ませてもらいましょうか。




「着きました。起きてください」


 そう呼ばれて目を覚ます。自覚はしてなかったけど疲れが溜まっていたみたい。


「ありがとうございます」


 そう言ってふらふらと車から降りる。

 そこは資料にもあったように山奥の畜産場の跡地だった。建屋がいくつか残っているのと真新しいプレハブ小屋が何個かあるだけで、事前に聞いていないと潜伏場所だとは思えない・・・夜とか寒くないのかな?山の中なのに。


「・・・・聞いていますか?依城さん」


 いつの間にか横から話しかけられていた。もう説明とかはいらないのに。


「一旦、我々が先行して話をしてきます。出来る限り武力衝突を避ける方向で進めますので依城さんは万が一なにか起こった場合に」


「もう無理みたいですよ」


 家畜を入れる小屋?なのだろうか、それらから例の白い人達がわらわらと出てきた。最初から話をする気が無いようで分かりやすくて助かる。実に私向け。

 案外、ここも罠なのかも知れない。赤松さんをはめたように、追跡に来た人員をここで一網打尽にするつもりなのかも知れない。・・・いえ、それは無いですか。確か構成員200人ぐらいの組織・・・ぞろぞろと出てくる白い群衆はどう見積もっても100以上はいる感じがする。恐らくは総力戦。でも、それにしたって、どれだけ犠牲者を出してるのって話。いくら魔力回路を強化したところで、人間辞めて魔術も使えなくなるなら意味があるとは思えない。


「撤退しましょう!早く逃げないと我々も!!」


 送迎係の人はなんだか凄く必死な様子。というか、この程度で逃げないとダメな人が前線に出てくるのは違う気が。


「逃げてくれていいですよ。後は私がやっときますから」


 そう言って私は近づいてくる白い者たちに意識を向ける。たらたらとまるで素人の行軍のようにゆっくり歩いて近づいてくる。

 ここに来るまではあまり意識していなかったけど、こうやって「敵」を目の当たりにすると・・・


 憎い。


 ひたすらに憎い


 あれだ。はらわたが煮えくり返るってやつ。この白いのも実験か何かの犠牲者かも知れないとは思うけど・・・三人で過ごした楽しい時が頭の中にチラついて抑制が効かない。

 なんとか自分を客観視する事は出来るが、それでもやはり・・・全て壊してしまいたい。

 ・・・・・・

 ・・・

 この周辺から感じる魔力は全て同じような波長のものばかり。つまり、白いのばっかり。まだ建物の中から出てきていないのもいるのでしょうし。

 ・・・・・・

 ・・・

 うん、いいや。全部やってしまっても問題ないや。


 久々に魔術に加工していない「純粋な魔力そのもの」を開放し静かに広げていく。立体的な空間では無く、あくまで地面に沿って薄く大きく広く。

 そこまで全力でやる必要もない。必要なのは速さと広さだけ。こんなのに時間をかけても意味が無い。素早く確実に死んでくれたら、それだけで十分。


 白い物達と、ついでに後ろの建物も範囲に入れて魔力を伸ばしていく。

 もっと引き付けてからやってもいいけど、別にいいや、大体で。なんだか眺めているだけで気分が悪いし。


 地面に広げた魔力を硬質化させ変形させるイメージ。

 地面から上向きに鋭く細く。高さは1メートルちょっと、人体を刺し穿つ剣山のように。


 そんな私の意思に応え、広がった魔力は一瞬で大地を黒く変色させ、その上にある物を例外無く黒く長い針で刺し穿つ。


 こちらに向かって来ようとしていた白い人型は、その尽くが足元からの無数の針に貫かれ歩みを止める。

 玉突き事故でも起こったかのような、あるいはコンクリ塀が連鎖で一気に崩れたかのような、そんな大音響が響き渡った。


 そして、それに間を開けず周囲から聞こえて来る呻き声。

 撃ち漏らしは・・・無し。呆気ないけど、これで終了。


 それにしても、普通、生き物を刺したら、もっと湿っぽい音がするんですけどね。よく見たら血も出てないし、あの白い奴の体ってどうなってるんでしょうか?


 その時、すぐ後ろからドサリと音がした。

 あら、送迎係の人がまだ残ってたみたい。尻餅をついていらっしゃる。先に逃げてくれていたら良かったのに。見てて楽しいものではないのですから。

 特にかける言葉も無いので、なんとなくじっと顔を見る。・・・なんだか固まってるみたいですし、ほっときますかね。役に立ってくれるわけでもないですしね。

 そんな風に一息ついていると遠くから何かが崩れる音。なんとなく攻撃範囲に含んでいた建物が崩れたようです。


 弱っちいですね。何もかも弱っちいです。


 ・・・・・・・赤松さんはホント何処に行っちゃったんでしょうか。


 いつの間にか白いのは動かなくなっていたので針を解除。暇になった私は敷地の奥に向けプラプラと歩き出しました。


 伏兵もいない・・・何の魔力の反応も無い・・・いえ、奥のプレハブに誰かいる。隠蔽の術式が仕込まれてるけど、それなりに強いのが隠れている。

 安藤さんだったらいいな。


 私はそう思いながら笑顔で歩を進めた。

 


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