3-2:猫と汚染の拡大 だから・・・私が助けてあげないと
私は浮かれていました。
赤松さんとクロちゃんを案内したい場所も決めたし、御飯のお店も当たりをつけました。せっかく遠くから来てもらうわけですし、何日かはホテルに泊ってもらって・・・宿泊費は経費で落とせるようにしてあげた方がいいですよね?なんなら私が払ってもいいですけど、たぶん赤松さんは遠慮しちゃうでしょうし。
その日の私は、そんな楽しい予定に思いを馳せながら出勤しました。
「おはよーございまーす」
いつも私が出勤した時には席に着いている課長に挨拶をする。勤めだして結構経つけど、まだこの事務所のカギを開けた事って数回しか無い。ちなみに、閉めた事は一回も無い。課長働きすぎ。
「依城、話がある。荷物を置いたら、少し時間をくれ」
珍しく課長が真剣な様子・・・私、なんかやっちゃいました?公私混同ぐらいしかしてないですよ?
課長は神経質に眼鏡を付けたり外したり、拭いたり置いたりしている。様子がオカシイ。
そして沈痛な顔をした課長が応接スペースに移動した。これはパッと話をして終わる内容じゃないって事か・・・うん、たぶんヤバいやつ。
引き延ばしても仕方ないのでカバンを自席に放り投げ課長の元に馳せ参じる。気分は既にごめんなさいって感じ。対面に座ってお説教タイムの始まり始まり。
「まず、これを見てくれ」
課長が自分のノートパソコンの画面を私に向けた。
「ビル火災?プロパンガスに引火か?」
画面に写っているビルは骨組みしか真面に残っていない感じで完全に焼け焦げ。
流石にこれは私とは無関係ですよ。ここまでの破壊活動に勤しんだ覚えはありませんし。
「これは昨夜未明に起こった事件だ。そして、この現場に赤松氏が居たはずなんだ」
「は?」
なにそれ?
「・・・赤松氏は薬の回収の件でフォローを依頼され、このビルに呼び出されたらしい。
そして昨晩から彼とは連絡が取れない。依城がここに来るまでに現場の調査結果が上がってきているが、彼の遺体は見つかっていない」
課長の言葉がうまく理解出来ない。
「つまり、行方不明だ」
何を言っているのか飲み込めない。
「元々こちらに流された依頼の情報自体が欺瞞だった可能性が高い。恐らく赤松氏を狙ったものだとは思うが、その理由が分からない。だから彼の状況を推測する事も出来ない。誘拐されたのか、殺害されたのか、それとも本人が自力で身を隠しているのか。今はあまりに検討の材料が少なすぎる状況だ」
よく分からない。でも・・・
「早く助けに行かないと」
そうだ。きっと彼は私を何処かで待っている。早く行かないと。
「待て、依城!調査と捜索は依頼してある!まずは落ち着け。落ち着いてくれ、頼むから」
気が付くと椅子から立ち上がっていた。だって、だって、彼は・・・
「私がこっちに連れてきたんです。だから・・・私が、私が助けてあげないと」
「大丈夫だ。専門の人間が既に動いている。お前が闇雲に動くよりか、ずっと早く情報も集まるはずだ」
「なら・・・せめて依頼主だけでも私に討たせてもらえませんか」
「・・・依頼主は今朝方に殺害されているのが発見された。元の依頼を出したのは構成員6人の小さな協力組織だったんだが、依頼主だけでなく、他の構成員も全員殺害されていたらしい。全員バラバラにされていて、ヒントもろくに残っていない。
あとな、赤松氏と協会側との連絡役をやっていてくれた柏木氏だがな、彼も行方不明だ。
俺だって、この状況を持て余しているのが正直なところだ。だから、お前まで調査の現場をかき乱す要因にはならないでくれ。お前が大事に思っている人だと言うことは分かっている。だからこそ、今は耐えてくれ」
この通りだ、そう言いながら課長は私に頭を下げた。
どうしたらいいのか分からない。
視界が定まらない。頭がぐらぐらする。立っているはずなのに床の感触が感じられない。
喉がカラカラで、瞳の奥がチリチリする。
こんな時に私は何も出来ない?無力感に吐き気がする。
「しばらく休憩していてくれ。また情報が入ったらすぐに共有する」
課長はそう言って自席に戻った。
私は、何も出来る事の無い私は、そのまま応接スペースの椅子に座り込み、そして頭を抱え込んだ。
結局、私は何かを壊す事しか出来ない。前の時も何も出来ないくせに一人で粋がって・・・最後には全て赤松さんが片づけてくれただけで。今も課長に頼り切りで。
「なぁ、依城。俺はお前らと違って戦ったりは出来ない。魔術戦闘どころか、単純な腕力勝負でも誰にも勝てやしない。でもな、その代わりに研究やら組織運営やらはお前たちより、だいぶ得意なつもりだ。要は適材適所ってやつだな。
今回の件は明確に誰か犯人のいる話だ。これだけ大掛かりに喧嘩を売ってきたんだ。相手が個人って事はないだろう。だから必ずお前の力が必要になる場面が来る。その時まで待っていてくれ」
「・・・・・・・・」
無力感に苛まれる私は課長のその言葉に応える事は出来なかった。返すべき言葉なんて何も思いつかなかったから。




