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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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2-6:猫と飼い主の友達 私は彼ほど優しくないですよ?

 勢い込んで赤松さんの仕事に付いて来たものの、正直、私は退屈していました。話し合いという名の一方的な要求の突き付けが始まって早3時間。開始当初は双方ともに怒鳴り合うだけの不毛な時間でしたが、赤松さんが「脅しのために連れてこられた人材」だと理解されてからは、それはもうとんとん拍子に話が進んで行きました。この場を用意した安藤さんの意図通りに順調に話が進んだと、そう表現するのが正しいのでしょうね。


 協会の組織力が十分に及ばない極東地区において、戦闘が出来る魔術師を確保している事の意味は相当に重い。気ままで行動原理の読めない魔術師ではなく、組織の目的に沿って投入できる魔術師。交渉の片側がそんな存在を握っている時点で、もうどうにもなりません。


 個人的には「どうせなら最初から赤松さんの存在をアピールして速攻で終わらせてくれたら良かったのに」と思わないでも無いですけど。今だって細かい連絡手段や今後の計画のアウトラインを話していますけど、そんなのは私達のいないところで進めて欲しいなって感じです。時間ばっかりかかるし、そんな細かい話は私達には関係ないし。


 ほら、赤松さんの頭の上のクロちゃんなんて、もう熟睡しちゃってますし。前足は赤松さんの顔の方、後ろ脚は後頭部の方にダラリと伸ばして完全リラックスモード・・・魔力を使って体が落ちないように固定しているのでしょうけど、赤松さんからしたら視界が塞がれて凄く邪魔なのでは?


 まぁ、いいのかな?赤松さんも時々頭がゆらゆら揺れてるから、たぶん寝てますし。


 ・・・・・・

 ・・・

 暇ですねぇ。早く終わればいいのに。



 結局、打ち合わせ、というか予定の調整?具体化?が終わったのは、そこから更に2時間後でした。私も半分寝ていて後半は聞いてませんでしたが、いつの間にか安藤さんが終了の挨拶と今後の頑張りを宣誓していたので、なんだか知らないけどうまく纏まったようです。正直どうでもいいですけどね。どうせ最初からやる事は決まっていたのでしょうし。


「赤松さん、よろしければ食事でもどうですかな?親睦を深めると言った意味で。もちろん、お連れ様も一緒に行けるようなお店にはなりますが」


 安藤さんが嫌らしい感じで食事のお誘いをして下さった・・・くそ!余計な事を!!


「いえ、今日は彼女と行きたいところがありまして。申し訳ないですけど、またの機会という事で」


 ナイス!赤松さんナイス!!さらりと断る「社会人としてはどうかな」的な振る舞いだけど、赤松さんナイス!

 安藤さんも「そうですか。それは残念ですね」と食い下がらないナイス振る舞い!よし!今日初めての感じの良い振る舞いだぞ!!よし!!

 というわけで、ビルを出たところで安藤さんとはさようなら。お見送りもないし、あっさりした仕事の終わり方で実に良い!


「ごめんね、依城さん。つまらない仕事につきあわせちゃって」


「いいんですよ。今どういう事が起こってるのかも分かりましたし。まぁ、思ってたより大事になってたみたいですし、早めに気が付けて良かったです」


「そっか、ありがとう」


 赤松さんは頭の上に熟睡中のクロちゃんを乗せたまま、少し疲れた様子でそう言った。

 そんなに気を使わなくてもいいんですけどね。ウトウトしてただけですし、特に騒ぎにもなりませんでしたし。とは言え、後で安藤さんに釘を刺しておいた方が良さそうな気はしますけど。


「じゃあ、時間も押して来ましたし、ごはん食べにいきましょうか!さぁ、クロちゃんもそろそろ起きて!!」


 後の事はまた後で考えましょう。今は目先の楽しみを優先するべき時です!


「???あれ??ナギ????・・・・あぁ、おはよう」


 そして、また三人でおしゃべりしながら駅に向かって歩きます。ごはんの相談をしたり、下らない話をして笑い合ったり、ちょっとだけ仕事の話もしたり、そんな楽しい時間でした。

 ちょっと打ち合わせは怠かったけど、この時間のために必要だったと考えると、なんて事ありません。この時間のためなら毎週だって我慢してもいい・・・いえ、毎週はちょっと嫌かな?長かったですし。



 晩御飯は駅の近くに個室の焼き肉のお店があったので、そちらで頂くことにしました。ブランド牛のお店だったので結構な値段で赤松さんの顔が引きつっていたのがおもしろかったです。でも流石はブランド牛。値段が高いだけあって味も大層な物でした。あの超偏食のクロちゃんがバクバク食べるぐらいの絶品さ。なんというかクドくないんですよね、脂が。旨味だけがギュッと濃い感じで。


 ちなみに、クロちゃんですけど生ではなく、ちゃんと焼いてから食べていました。しかも、塩やタレで味の変化も楽しんでいました。流石にワサビはダメだったみたいですけど・・・変なところで急に『猫の使い魔』って設定を投げ捨てるのが不思議ですよね。鍋の時も里芋食べてましたし。次もクロちゃんが喜ぶ食べ物を見つけられると嬉しいですね。


 蛇足ですが、お会計は赤松さんの要望できちんと割り勘にしました。別に、これぐらい私が出してもいいのに。


 そして楽しい時間はすぐに過ぎるもの。あっという間に新幹線の時間です。私も一応社会人。仕事もそれなりに大事なのです。・・・大事なのかな?別に放り出しても良いんじゃないか?ダメかな?・・・ダメですよね、たぶん。


「楽しい週末だったよ、依城さん。ありがとう」


「いつでもまた遊びに来てよね?わたしもマスターも基本的に暇だし、ナギならいつでも大歓迎だから!」


 赤松さんとクロちゃんによるお見送り。なんだか下宿先に帰る大学生の送別みたいな雰囲気です。凄く遠くに帰るみたい。3時間ちょっとのところだから、そんなに遠くもないんですよ。

 いえ、遠いと言えば遠いですか。いつでも、すぐに会える距離でも無いですし。


「はい、またすぐに遊びに来ます。私も楽しかったです。二人ともありがとう」


 この二人は前の時もこうやって見送ってくれました。他の人が見送られているのを見た事はありましたけど、自分がされて初めて意味が分かりました。

 こうやって見送られるのはとても良いものです。再会がとても楽しみになります。別れの挨拶は次に会う事を期待してするもの、そう言うことなんですよね、きっと。


「あぁ、そうだ。せっかくだからこれ持って帰ってよ。課長さんと一緒にどうぞ」


 打ち合わせの時に出し損ねたチョコサラミを貰いました。

 確かに赤松さんが一人で食べるものではないですね、これは。


 そして、バイバイと手を振り二人と別れ新幹線のホームに向かう。

 時間に少し余裕もありますし、ぼんやり物思い。一人でこの二日間の事を思い出します。

 この週末は、とても楽しいお休みでした。少しめんどくさい事もありましたけど、三人で美味しい物食べて、楽しい話をして。こんなに幸せなお休みは初めてでした。また・・・また次はお家でゆっくりするのもいいですね、鍋とか作って。

 そんな風に楽しさの余韻にひたっていると


「すみませんが、赤松さんの事でお話したい事があります。一緒に来て頂けますね?」


 さっきから後を付けて来ていた二人の男性が話しかけてきました。

 監視をしているだけならと思っていましたが・・・せっかくの楽しい気分に水を差されて・・・ちょっとムカつく。


「私は彼ほど優しくないですよ?」


 そう言いながら私は待機させていた術式を振り返る事もなく発動した。

 そして、それと同時に聞こえてくる息の詰まったような音。ような、というか実際に息が出来なくなっていると思いますけどね。何の魔術抵抗も無いような人なら、こんなものです。


「大丈夫、死ぬ事は無いですから。雇い主によろしく言っといて下さいね」


 私をおさえたら赤松さんをコントロール出来ると思ったのでしょうけど、実に浅はかな事です。下手に怒りを買う方が恐ろしいに決まってるのに。


 私は後ろで立ちすくんでいる二人を一瞥する事もなく新幹線に乗り込んだ。駅員さんに関係者だと思われたら困っちゃいますからね。


 にしても、せっかく良い気分だったのに、最後の最後でケチがついちゃいました・・・あれですね、チョコサラミちょっと食べちゃいましょうかね?きっと美味しいでしょうし、赤松さんも感想を聞きたいでしょうし。

 


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