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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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2-5:猫と飼い主の友達 やっと自分の立ち位置が分かったよ

 優雅なランチタイムを楽しみ、手土産もお土産も買ったし、お仕事に向け、さぁ出発!

 今回は『地元の団体との協議の場に出席して下さい』という今までの暴力一本やりの仕事とはちょっと違う感じの依頼でございます。これは「そろそろ真面な仕事もしろや」という組織からの期待?圧力?だったりするのでしょうか?


「にしても、『会議に出ろ』なんて依頼をマスターに持ってくるとか、かなり的外れな気がするわね。マスターに何を期待してるのかしら?」


 集合場所に向け歩む僕の頭上からクロがさらっと酷い言葉を。僕だってさ、暴力以外でも、きっと少しは役に立てる事あるよ?ほら・・・例えば・・・警備体制の穴を指摘したり??いや、そんなのよく分かんねぇな。


「あれじゃないですか?最近は例の薬をめぐって色々な組織とやりあってたから、その実態をヒアリングさせて欲しいとか?そんな感じじゃないんですか?というか昨日の電話では『具体的にこんな事をして欲しい』みたいな話は無かったんです?」


「いや、それが、聞いてみたけど、ただ来てくれるだけでいいって」


「・・・はぁ、なるほど」


 依城さんは何か分かっている風だけど、僕はよく分からない。まぁ、別にいいか。どうせ事前に準備できることもないし。それに準備する時間だってもう無いし。取り合えず、行けばどうにかなるっしょ?

 クロも既に関心を無くしたのか自分の手をぺろぺろ舐めて毛繕いの真っ最中。マジ猫仕草で可愛いらしい。


「仕事の事はいいや。なるようになるっしょ。それはそれとして、今晩どうする?遅くなりそうだったら、もう一日泊っていく?楽しいよ?」


「んー、そうしたいのはやまやまですけど、流石に明日は仕事もあるし帰らないとダメかなぁって。夜の九時ぐらいの新幹線に乗ろうかと」


「そっかー、んじゃ晩御飯食べたら駅まで一緒に行こうか。新幹線の駅の近くでお店探した方がいいかな?」


「そうですね。その方がお店もいっぱいありそうですし、個室のある店があればクロちゃんもノビノビ出来ますし。ねぇ、クロちゃん?」


「??あら、ごめん。聞いてなかったわ」


 クロは毛繕いにお忙し。マイペース、マイキャット。


 そんな風に雑談しながらプラプラと三人で街を歩く。駅南側の繁華街から駅の建屋を通り抜け、北側の古い町並みへ。北側は再開発の範囲から外れていて寂れた感じの古い街並みが広がっている。建物も古いし、全体的になんだか茶色っぽい。

 そんな光景を見ていると、なんとなーく嫌な予感がしてきた。会議に同席する、という言葉から伝わってくるような「大人しい仕事」ですまないような、そんな予感。

 そして到着した待ち合わせ場所の公園、そこは公園とは名ばかりで何も無いただの更地・・・どうにも感じが良くない。そこに依頼者である安藤さんが先に到着していた。


「どうも御足労ありがとうございます。私だけではどうにも説得力というものが足らないようでして。今日はよろしくお願いしますよ」


 安藤さんはパッと見では、どこかの会社の経営者ですって感じのおじさんだった。小太りでスーツで白髪交じりで・・・何処となくちょっと悪そう。

 そんな事を思っていると依城さんは僕の友人という事で自己紹介をサクサク完了させていた。流石ベテラン。動きが速い。にしても、なぜ身元を伏せたのだろう?外部団体への監査的な業務とかもやっちゃう感じなのかな?素人が口を出しても良い事なんか無いので黙っとくけど。


 ちなみに、クロは霊体化したまま姿を見せていない。ほら、一応使い魔だし、魔術師的には武器みたいな扱いらしいから。実際には猫だけど、どう見ても猫だけど、ちょっとおしゃべりな猫だけど。

 そして、特に業務内容の紹介を受ける事もなく現場に案内される僕たち。いやいや流石に少しぐらい何か言おうよ、そんな事を思いつつも速攻で現地到着。というか、公園のすぐ前の雑居ビルだった。古くて薄汚れた年季の入ったビル。


 やっぱり嫌な予感がする。


 入口には出迎えの人が一人。黒いスーツの若い男性で頭は角刈り、目つきは悪く営業スマイルなんてあるわけもない。そんな彼は、ちらりとこちらを一瞥すると、少しだけ頭を下げ階段を一人登って行った。付いてこいって事かな?


「相変わらずアイツは若い奴の教育がなってない。すみません、満足な出迎えもせず。3階の応接が場所になるんでよろしくお願いします」


「はぁ・・・」


 安藤さんが恐縮した様子で頭を下げてくれたが、なんだか自分の立ち位置が分からないぞ?これ僕ってなんで呼ばれたんだ?ただの下っ端ですよ?

 階段を昇りながらも後ろから依城さんの視線を感じる。トラブルなく(暴力をふるう事なく)、この仕事を終わらせられる事を祈るばかり。


 ・・・なんだか嫌な予感で冷や汗が出て来た。


 そして全員が黙りこくったまま応接室に入る。そこで出迎えてくれたのは、まぁ、予想通りに厳つい顔のナイスミドル。どう足掻いても暴力が専門の人にしか見えないお方。・・・ここ最近こんな感じの人を殴りまわす仕事しかしてねぇよ!またかよ!!


 いや、そうとは限らない。人を見た眼で判断してはいけない。今日は何かは知らないけど協議の場に呼ばれたんだった。殴り倒せと言われたわけではない(今までも言われては無かったけど)

 ちなみに、話し合いが始まる前に持ってきた手土産を渡そうと思ってたけど・・・そんな雰囲気では無かった。席に着く前からすでにピリピリ。

 これはあかん。もう平和的に終わる事が無いのは僕にだって分かる。ごめんよ、依城さん・・・期待には応えられそうに無いよ。


「そちらの方は?」


 厳つい顔のお方が怒ったげに低い声で質問を投げる・・・って、言ってなかったんかい!!!


「ちょっと解決には遠そうなので協会からアドバイザーに来て頂いたんですよ」


「協会から来ました赤松です。若輩者ですが本日はよろしくお願いします」


 僕はアドバイザーだったのか。知らなかった。

 そして、案の定、返事さえしてくれない厳つい顔の方。というか、まだ名前さえ聞いてねぇよ。呼ばれて来たのにマジでアウェイ。

 席を勧められる事もないまま、重厚な木のテーブルを挟んで向かい合う配置に勝手に座る。


 なし崩し的に会議が始まった。しょっぱなから言い合いだった。

 アドバイザーと言われたものの、おっさん二人の怒鳴り合いに横からアドバイスする事なんて無理なわけで。つまり、僕はボンヤリ座って時間を潰していただけだった。で、会議?の内容だけど、思っていたより、ずっと悪いものだった。今週やっとの事で押収に成功した「強化魔術っぽい効果が出る薬」、あれの扱いの話だったのだけど、どうにも魔術系の暴力団?みたいな組織では既にそこそこ流通しているらしく。前の暴力団の対立の際に使用されて大惨事になったのも、そっちの筋から流出させてしまったとの事。

 薬漬けにしてヒットマンを作るとか昔から続く伝統ではあるけど、これはあかんやん。魔術的なドーピング、しかも人間を人間でなくすタイプのドーピング薬なんか流通させたら洒落にならないですやん。

 という当たり前の事情を踏まえ、各団体から薬の回収と流通ルート壊滅のために協力を募っているのが安藤さん。それに対して『薬の有効性を考えると協会からの一方的な物言いに従うことは出来ない』ってのが、この顔の厳つい人、という事らしい。


 ずっと平行線の言い合いで蚊帳の外状態だったんだけど、厳つい顔の方がこっちをチラッと見ながら「協会が俺らに何をしてくれるって言うんだ!黙って従うことにメリットがあるのか!」とか言ってて、そこだけはちょっと胸が熱かった。過去の経緯とか何も分からないから他人事だけど。


 とはいえ、どんな事情があるのか知らないけど、今回の件は安藤さんが正しいと思う。あまりにあの薬はリスクが大き過ぎる。利用者への副作用というより、行きついてしまった利用者が「何をしでかすか」という事を考えると、どう考えても許容すべきではないように思える。

 組織運営なんて分からない僕でもさ、流石にそれぐらいは分かるよ。「人間を辞めた状態の利用者を処理出来る人材の希少さ」「魔術の理解が無い普通の人にまで広まりつつある現状」、この二つの観点だけでも、既に状況は待った無しだと思うもの。

 むしろ、悠長に話し合いとかしている状況の方がおかしいかも?強権を発動してでも、さっさと動くべきでは・・・いや、いかんな。どんなにまどろっこしくても、まずは話し合いをして合意を図る。それが大事なんだよね。それが組織なんだよね。ひょっとしたら、この場も「すぐに暴力に走りがちな新参」に組織運営の大事さを分からせるために用意された物なのかも?


「くそが!てめぇ!いい加減にしやがれ!いつも上から目線でよぉ!!」


 そう言いながら、お顔の厳ついミドルが懐から銃を抜き出した。

 めっちゃ暴力やん。


 もう慣れたものではあるけど、安藤さんは撃たれたら普通に死んじゃいそうなのでサクサク対応を始めていく。


 懐から抜き出された拳銃が、こちらに向き切る前にテーブルの上に飛び乗る。

 あれ?まだ反応出来ていない?というか、全然反応出来ていない??


 まぁ、いいか。余裕があるなら穏便に行ってみよう。


 フリーな状態の右手で(左手は手土産の袋を下げているので)、拳銃を掴み、まず銃口を天井の方に向ける・・・と、厳つい顔の人の手からすっぽりと抜けてしまった。握力、弱かったのかな?一応、このまま没収しとくか。次の動きも・・・無さそうだね。全然反応出来てないけど本当に魔術系の人なの?

 とりあえず、加速していた意識を戻し語り掛ける。


「話し合いの最中に銃を出すのはどうかと思いますよ?」


 だが返事がない・・・殴らなかったし温厚な感じで話しかけたのに無視とか酷くない?

 あれ?よく見ると、震えている?

 というか顔が引きつっている?まるで何か恐ろしい物でも見たかのように。


「おい・・・戦闘系の魔術師を連れて来たなら、そう言ってくれよ!!化け物の前で話し合いなんて出来るわけがないだろうが!!!」


「・・・・・化け物呼ばわりは流石にちょっと」


 傷つくじゃん?


「ひっ!すっ、すまない!そんなつもりじゃなかった!悪く言うつもりは無かったんだ!要請は飲む!飲むから許してくれ!!」


 彼は絞り出すような声で僕達に屈した。


 その表情を見て、やっと今回の僕の立ち位置が分かった。僕って交渉の場でチラつかせる武力カードだったんだ。


 なるほどなー

 


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