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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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2-3:猫と飼い主の友達 カニ鍋とカニカマ

 お買い物を終え赤松さん家に帰ってきたので着替えました。ええ、今日は最初から、あわよくば泊っていく気でした。なので部屋着はコッソリ持ってきていたのです。ちなみにですけど、実はちょっとだけ、ほんのちょっとだけ今日はおしゃれしてきてたんですよ?ジャケットもスカートも新しいのをおろしてきましたし。二人ともちっとも気付いてくれませんでしたけどね。年中Tシャツの人と「猫」にそんな期待をするのが間違ってるのかも知れませんけど。


 それにしても、赤松さんの家は引っ越しても相変わらず殺風景。寝室はベッドしか無いですし、着替えに使った部屋は筋トレの道具だけ(懸垂する時に使う台?とか、ごついダンベルとか)。日頃どんな生活をしているのでしょうか?・・・経歴書によると趣味は確かスマホのゲームと筋トレ、それと猫。そこそこ多趣味ですね?


「着替え終わったー?良かったらお茶でもー?」


 あえて少し離れたリビングからのお茶の誘い。万が一の事故を避けるための配慮なんでしょう。何故かこういうところは、しっかりと気遣いを出来るのが不思議。


「お菓子もあるわよー」


「はーい、いま行きますよー」


 クロちゃんも一緒にお茶するのかな?猫舌なのに?猫?猫扱いでいいのかな??

 お茶請けはいつものキットカット、ではなく買い物帰りに見つけた美味しそうなチョコレート。美味しくてビックリでしたけど、赤松さんもビックリしてたのに、またビックリ。近所で買えるのに知らなかったんですね。赤松さんって相変わらずサラダチキンばっかり食べてるのでしょうか?クロちゃんもカニカマばかりみたいですし。飼い主に似るというかなんというか。

 そんな事を思っていると台所で買って来た物の整理をしていた赤松さんが


「そういやさぁ、カニの鍋って初めて作るんだけど、何か注意点あるのかな?カニは冷蔵庫で解凍始めてるし、そのまま鍋に入れたら出来上がり?」


「そうねぇ、せっかくだから美味しく食べたいわね。教えてよ、ナギ、どうしたらいいの?」


 何故か私がカニに詳しい人のような扱い。

 スーパーで売ってる冷凍のカニですし拘らなくても、そこそこ美味しいとは思います。ですが、逆に言えばそこそこ以上に美味しくなる事も無いでしょう。・・・料理しない人なので、よく分からないですけど。


「あー、たぶん普通に鍋に入れるだけでいいと思いますよ。火を通すと固くなっちゃいますから、あまり煮込まない感じで」


「なるほど。さすが経験者、言う事が違う」と一人と一匹が頷き合っている。

 いや普通の事では?普通の肉とか魚介類と同じでは??ノリで生き過ぎてませんか???


「よし!それなら、これで大丈夫。準備しておくから依城さんはクロと遊んで待っててよ」


「え?私も何か手伝いますよ?」


「大丈夫、大丈夫。洗って切るだけだから僕だけでサクサク用意出来るって」


「そうよ、ナギ。マスターって料理らしい料理を作る事はあまりないけど、切るだけなら得意らしいから大丈夫よ?」


 切るだけは得意ってそこはかとなく危ない感じですね。というか、ここは一緒に用意しましょうねって場面じゃない?普通そうじゃない?買い物だって一緒に行ったわけですし。


「あれだね。いまいち信用ならないって感じみたいだね。ちょっと見てて」


 そういうと赤松さんはニンジンを取り出し、さっと水洗いした。

 左手にニンジン、右手に包丁を構え、そっと沿うように刃を当てたかと思うと、するすると皮が解けるようにして流し台へと落ちていく。


 は??なにそれ???

 刃を軽く当てただけにしか見えなかったのに?なんで???魔術????


「ね?さっぱり分からないでしょ!」


 クロちゃんが何故か自信満々。


「わたしも何回か見たけど、何が起こったかサッパリ理解出来ないもの!!」


 ・・・あれですか、赤松さんの不思議ポイントがまた一つ明らかになったって思っておけばいいんですかね?


「じゃあ、ナギはちょっとわたしと遊びましょうか!」


 そしてクロちゃんは飼い主が働いている間に遊ぶ事に躊躇が無いと。マジで猫ですね。使い魔の設定はどこに溶けましたか?

 ちなみに遊びの内容は赤松さんが使っている強化魔術の奇妙さについてのディスカッションでした。私だけでは思いつかないような事も色々あって有意義でしたけど、これって遊び?


 そして、いよいよ本日のメインイベントのカニ鍋が登場。さっき買ってきたばかりのIH卓上コンロと鍋が大活躍。なんとなーくですけど、これから遊びに来るたびにこの鍋が登場する予感がします。

 赤松さんが特に考えなくドサドサと野菜を入れていく。ニンジンや里芋?や大根が投入されていき、カニ鍋というか、ちゃんこ鍋??よせ鍋??まぁ、何でもいいですか、よく分からない鍋料理が産まれようとしています。

 何はともあれ色々な具材が煮込まれていく様は食欲を掻き立てます。あれ、でも、根菜や里芋って


「クロちゃんって野菜やお芋も食べれるの?」


「うん、食べられない事もないわよ。あんまり美味しくないから普段は食べないだけで。

 マスターもほとんど食べないし」


「そうだね。こんなにたくさんの葉っぱ見るの久しぶり」


 赤松さんがHAHAHAと笑いながら、葉物を次々と鍋に投入していく。


「今日は初めてのお鍋だから、わたしも色々食べてみるわね。今までは生ばっかりだったから美味しくなかったのかも知れないし」


 クロちゃんが語る貧しい食生活。私もそうですけど、独り暮らしで料理なんてするわけないですよね。面倒だし。・・・というか、流石に芋は生で食べてないですよね?大丈夫ですよね、赤松さん?

 そして、いつの間にやらカニの投入も始まっていました。

 いかん。少しは何か手伝わないと純度100%でお客様のままじゃないですか?!

 と思ってカニに手を伸ばしましたが、まだ氷が張っていて足同士が引っ付いています。あれ?赤松さんはポンポンと鍋に放り込んでるのに。


「ごめん、ごめん。解凍が甘かったみたいで、うまくバラけて無かったや。とりあえず最初に食べる分は僕がいれちゃうから」


 そう言いながら赤松さんは事も無げに半分凍って引っ付いたままのカニ足を指でバラしながら鍋に入れていきます。

 あれですね、強化魔術使ってますよね、カニをばらすためだけに。・・・別にいいですけど魔術ってそんな生活に密着したものでしたっけ?神秘とかそんな感じだったような?いえ、便利でいいなとは思うのですけど。


 そんな事を思いつつ、グツグツと沸き立つ鍋を眺めながらカニが出来上がるのを待つ。なんとなく家族っぽい雰囲気がしてほっこりします。

 ちなみに食事にはやけに立派なダイニングテーブルを使っています。猫足を気に入ってクロちゃんが通販で買った物だそうです。私と赤松さんが向かい合い、所謂お誕生日席の配置にクロちゃんが着席。と言ってもクロちゃんは椅子じゃなくてテーブルの上に座ってるんですけど。椅子に座ると高さが足りなくて何も見えないから仕方ないですよね。


「そろそろ煮えてきましたね。クロちゃんは冷ました方がいいですか?」


「別に猫舌ってわけでもないから熱くても大丈夫よ」


 猫なのに。


 一旦、カニを取り皿にあげていく。と、あげるそばから赤松さんがパリパリとカニの殻を剥いていきます。いやいや、普通カニの殻はそうやって剥けませんよ?また強化魔術使ってますよね?ねぇ、魔術を食事に使うの止めましょうよ?いえ、便利ですけど。確かに便利ですけど!


「はい、どうぞ」


 私の取り皿にカニが山盛りです。赤松さんが私のために食べやすく剥いてくれたカニの身が山盛りです。

 お客様扱い・・・ちょっといいかも。


「ほれ、クロも」


 クロちゃんには程々の量。


「「「いただきます」」」


 うん。普通の冷凍のカニですね。際立って美味しい事もなく、想定通りのお味。

 さてクロちゃんは


「思ってたより・・・なんだか魚っぽい味というか・・・味が混じっているような?期待値に微妙に届いていないような」


「そうなの?美味しいと思うけど」


 クロちゃんにはいまいち受けが良くないようです。赤松さんは美味しいって言ってるけど、たぶん何を食べても美味しいって言う感じの人っぽいですし。それにしても『混じっている』ですか、それならたぶん・・・

 念のため食卓に出していた「ほぼカニ」を何本か鍋に突っ込んでしゃぶしゃぶする。

 クロちゃんが「何してくれてんの、あんた」みたいな驚愕の顔をして私を見ている。たぶん、これで大丈夫ですって。


「こっちも食べてみてくれます?」


 しゃぶしゃぶした「ほぼカニ」をクロちゃんの取り皿に入れてあげる。怪訝な顔をしながら、ゆっくりと口に入れると


「あら、美味しい!いつものより美味しいわよ!!」


 クロちゃんご満悦。尻尾も真っすぐ上に突き立っている。


「やっぱり。混ざってるって言ってたから、そうかなって思ったんです。日ごろ食べ慣れたシンプルなうま味の方がクロちゃんには良かったみたいですね」


 ほら、猫は同じものばっかり食べるっていいますし。


「あぁ、でも確かにこれ美味しいわ」


 赤松さんもいつの間にかほぼカニをしゃぶしゃぶしてました。


「ほら、依城さんも」


 そして、私の分もしゃぶしゃぶしてくれてたり。


「ありがとうございます・・・うわ、ほんとだ、思ってたより美味しい」


 そして、想定外に美味しいほぼカニ。なにコレ。なんで本物のカニに張り合えてるの?カニカマなのに。

 そこからはカニと並列でカニカマも投入されていく妙な流れになりました。元々の予定とは違ってしまいましたが、クロちゃんも新しい食べ方を見つけて大満足なご様子です(ちなみに、ほぼカニと里芋ばっかり食べてました。嗜好がよく分かりません)


 そして皆お腹一杯になってゆっくりしていた時、赤松さんの業務用携帯から着信音。鳴ると同時に素早く確認に走る社会人ムーブの赤松さん。


「・・・明日、仕事だって。なんか近所の団体との話し合いに同席しろって」


 赤松さんが珍しく困惑顔。きっと依頼の意図が分からなくて困ってるのでしょうね。たぶん、交渉の席にヤクザを送り込むとか、そういうノリの話だと思うのですけど


「せっかくだし、私も同席していいですか?」


「それはもちろんいいけど、せっかくの休みなのに」


「独りでいても退屈ですから。それにせっかく出かけるなら出先で一緒にご飯食べたりしましょうよ」


 友人を便利な道具として使われても困りますからね。私も顔を出して釘を刺しておこうかなって。

 というわけで明日も滞在を続ける理由ゲットです。

 


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