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猫と僕と知らない世界  作者: シマタロウ
第一部2章:猫と魔術師のお仕事

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1-4:猫と危ないお薬 お薬の効用

 とある地方都市で起きた暴力団の大きな抗争。その現場で起きた出来事が、この薬物の発見のきっかけとなった。

 特殊な『鉄砲玉』が抗争相手の本部ビルに単身乗り込んで構成員を片っ端から惨殺。その後もビルの中に居座り続け、数日後、地元警察から要請を受けた協会のスタッフ数名により秘密裏に処理が行われたとの事。その際、複数人で対応したにも関わらず、対象が沈黙するまでに5時間程度の時間を要したという


「ってのが、今回押収した薬の経緯なんっすよ。こんなのが市場に出回ったらどうしようも無いからお二人に依頼が回ってきてるのに・・・二人とも理解してないって流石にどうっすかね?」


 柏木さんが僕とクロに鋭い?指摘を投げかける。ちなみに、今日は我が家に柏木さんを招いて振り返りを実施中なのだけど、実際には何も分かってない一人と一匹への指導中って感じ?


「いやいや、あんまり実感無くてさぁ。たかが強化魔術だし、とか思っちゃって」


「実際のところ全然強く無かったわよ?比較対象のマスターの強化魔術がちょっとイカレてるから感覚がマヒしてるってのもあるとは思うけど」


 柏木さんは頭を抱えている。脳筋の同僚がいると大変ですな。あとクロさぁ、さり気なく飼い主をディスるの止めようね?イカレてるとか言ったらダメ!可哀想でしょ?


「確かに赤松さんの強化魔術がオカシイのはあるっすけど、あの薬のレベルでも他の人にとっては十分脅威なんっすよ。もちろん今回遭遇したのは、あくまで投薬初期の個体だった事を考慮したとしても、それでも普通の人にはどうしようも無いんっすよ?

 とにかく後で詳細を共有させてもらうんで、ちゃんと見ておいて下さいよ。約束っすよ」


 そう言って柏木さんは帰って行った。一方的に今までの経緯を話してもらうだけになってしまったが、一応今回の事件の反省会は終了。お疲れ様でした。

 そんな柏木先生の話だけど要点は3つ。毎回全員殴り倒すのはやめましょう。あの薬が当たりでした。そして・・・


「それにしても、あの薬が前の事件の続きだとは思わなかったわねぇ。保養所買ったり、工場買ったり、お金持ちだとは思ってたけど、危ない薬まで作ってたなんて・・・私達も魔術で何か商売とか出来ないかしら?」


「引っ越しとか用心棒ぐらいじゃない?」


「そうねぇ、マスターは脳筋だものねぇ」


 そう、あのお薬の製造元を辿ったところ例の大規模テロ犯に行きついたのだ。どっかの誰かが尋問もせずに下手人をアチラに送り届けてしまったため詳細はもう分からないが、どうにもあの工場で作っていたそうな(いくつか完成品が残っていたそうだ)で、その残っていた薬品と暴力団アジトで暴れていた謎の生物から出てきた成分が一致。「ひょっとしたら、もうこの薬って流通してんじゃね?」という疑惑発生により、調査開始からの実戦部隊投入、ってのが今回の流れだったと。3回目で無事当たりを引けたのは良かったのだけど


「ねぇ、クロ。別にあれぐらいの薬なら大して問題無くない?たぶん普通に鉄砲を使うとか、2人で殴るとかしたら、十分どうにか対応出来ると思うし」


 畳の上で寝転んで伸びをしつつ思案?しているクロ。


「そうねぇ、わたしもあんまり大した事ない気がするわ。それにね、元々強化魔術自体がそんな大した魔術じゃないのよ。人間なんて強い生き物じゃないんだし、それの強度とか反応速度を上げた程度じゃ鉄砲とか持ち出されたら敵うわけがないんだし。それこそマスターみたいに『人間を辞めた域』まで高強度に持っていければ話は違うけど、そんな達人級なんて滅多にいるもんじゃないし、ましてや薬でちょっと再現したぐらいじゃね。・・・まぁ、つまり、どうでもいいんじゃないかしらね?」


 クロは畳に爪を刺したり引っ込めたりしながら興味無さげにそう言った。・・・それはそれとして僕っていつの間に人間やめてたの?ちょっと凹むのだけど。

 その時、お仕事用のごついスマホから着信音が鳴った、もちろん音はめんどいのでデフォルトのまま。


「おっ、柏木さんからメールだ。・・・『薬物使用者を処理した後の写真があったので、取り急ぎ共有します。見ておいて下さいね』だって」


 気が進まないけど、やけに重い添付画像をダウンロードする。・・・遺体の写真を高解像度で送ってくるとかやめようよ。

 ダウンロード待ちの間に僕も畳に寝そべりクロと一緒にスマホの画面をのぞき込む。そこに表示されたのは、なんだか人と呼べるかさえ怪しい代物だった。


 写真はどこかのベッドに仰向けに寝かせてある遺体が大写しになった物。やけに綺麗な画像でだいぶ不快。そして被写体の胸の真ん中にはベッドが見えるほどの大穴。多分、これが死因なのだろう。これは分かる。が、他が分からない。

 まず全体的に上半身が大きすぎる。骨格が歪んでいるとしか思えない程に肩回りやら大胸筋が肥大化している。

 次に顔。頭髪も無いし、眉も髭も無い。瞳はなんか知らないけど真っ黒。

 あと全体的に色がおかしい。写真の撮り方のせいかも知れないけど、なんだか異常に白い。

 まるでセラミック製の皿か何かのように。


「あれだね、僕の強化魔術って優秀だったんだね。見た目崩れてないし」


「・・・これは強化魔術じゃなくない?わたしも知らないけど何か変身的な魔術じゃないかしら?どう考えても人に魔力流しただけじゃ、こうは成らないと思うのだけど」


 流石のクロも歯切れが悪い。何が起こってるかは分からないけど、この薬を流通させたら不味いという事は、流石の僕でも理解出来た。

 ある時あなたの横にいる人が変身するかも知れません。とびきり強くて、とびきり白くて、とびきりマッチョな・・・あかんわ、ノリを軽くしてもこれは無理やわ。


「あれだ・・・とりあえず回収頑張ろうね」


「そうね、これは頑張らないとまずいわね」


 クロも起き上がって真剣そうな雰囲気になっている。

 にしても、閑職って聞いてたわりに、めっちゃくちゃ重い仕事やんけ。東京にいる友人に少し文句を言いたくなった。



 この時、黒い怪人以外にも噂になっていた話があったらしい。誰かに被害が出たわけでもなく、特に話題性があるわけでもなく、ほんの少しだけ人の口に上った程度の噂。


 夜の街中に大きな犬が現れたらしい。


 遠吠えを聞いた人もいるらしい、不自然に耳に残る不快な声で鳴いていたそうだ。


 そして、その犬は妙に大きく、妙に白かったそうだ。


 そんな話を僕達が知ったのはずっと後になってからの事だった。


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